鷹匠 裕「聖火の熱源」オリンピック中継は1秒も見ていませんが・・・

ちょっと変わったif系小説。
とある事情で2028年のロスオリンピックが開催不可になる。そのままオリンピックは中止かるのかか、延期するのかか・・・そんな中、東京での代替開催が決定になる。2021年の東京オリンピックは無観客開催だったので、国立競技場をはじめとしたせっかくのスポーツ設備もフル稼働できなかった。そのリベンジをというわけだ。
物語は、スポーツマネージメント会社の社長を中心に展開する。彼は大手広告代理店をある事件で追われ、世界的なスポーツマネージメント会社の雇われ社長に滑り込んだ。そこにオリンピックという大型の仕事が舞い込んでくる。
リアリティゼロの設定だが、ifモノとしてはけっこう面白く引き込まれる。
そもそもオリンピックが商業主義に移行したのは1984年のロスオリンピックだった。赤字で開催されていたオリンピックをきちんと黒字運営できるようにと企業のスポンサードを推し進め、オリンピックというIPを商品化、マスタイズさせた。
そして何よりも大きかったのが放送権ビジネスだ。日本においては、放送権は大手代理店が一手に握り、NHKと民放はその下で高い放送料を支払って中継をするようになった。民放のセールスも代理店が一手に行う。オリンピックの商標管理も代理店マター。なのでテレビ、ラジオでは、オリンピック期間中は「五輪」とか「オリンピック」という呼称は、オリンピック関連番組やニュース番組など以外では一切使えなくなる。ディズニーがプールの底に書かれていたイラストのミッキーマウスを消させたという都市伝説と同じ理屈だ。
最も高額な放送料を支払ったのはアメリカのネットワークだったので、競技の開催時間もアメリカの中継に合わせて設定され、選手のコンディションなどとは別の次元、放送スケジュールありきのオリンピックになっていく。

この本では、商業主義に汚れたオリンピックを再び元のアマチュアスポーツの祭典に戻そうとする男たちの戦いが描かれる。
ネットの台頭で、放送権ビジネスはますます加熱している。そこに警鐘を鳴らすのは意義のある行為だ。クラウドファンディングなどによって独占的な放送権を解放すれば、DXによる様々な試みも可能になる。今がチャンスというわけだ。
ちょっと新しいSFとしても楽しい一作だった。
<8月下旬発売予定>

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