見出し画像

#99 教師冥利に尽きる出来事

 以下はある方の投書です。高齢者向けのPC講座のために教壇に立った時のことだそうです。人にものを教える立場の方に是非読んでいただきたいので掲載しました。

 10年ほど前にIT農業計画のいったんである、高齢者向けのPC講座で教壇に立ったときのことです。平均年齢75歳の生徒さん30名。正直、仕事ですから分かるまで指導するのが私の役目です。
 ですが。マウスをリモコンと勘違いし、空中浮遊させながらカチカチさせる。本体の電源を入れてくださいといえばモニターの電源を切る。そもそもローマ字を知らない。ぶっちゃけ、めっちゃ不安でした。週に3日、一日おきの指導だったことから、「絶対忘れる…」と自信を持っていました。案の定、初日指導の二日後の授業で、マウスは再びリモコンとなり、パソコンの電源はモニターを消すこと…
 ですがこちらも講師として教壇に立つ以上、意地と根気を発奮しました。
何度でも同じことを繰り返し教え込み、3ヶ月の講習を終えるころには80歳を過ぎたおじいちゃんも、ご自身の農作物の広告を作れるまでに上達しました。

 そうして指導した生徒さんの中で、一際頑張っていた当時71歳だったおじいちゃんが、3日前にご病気で亡くなったと報告がありました。マウスをリモコンにしていたおじいちゃんです。彼の作品は、ブドウ畑で巨峰を育てている画像に「命を注いで作ったブドウです。食べにきてください」というメッセージつきの広告でした。昨日、お葬式に出向いたところ、自宅でPCを一生懸命練習していたと、分厚いファイリングを見せていただきました。確かに、指導したときに図解付きのプリントを配っていました。
 そこにびっしりと、赤ペンで注意事項や私とのやり取りが書かれており、その中に「作品できた!先生が褒めてくれた!わしのブドウが食いたいと言ってくれた。先生ありがとう。忘れんように、パソコンを続けるよ。先生がわしのチラシを見て、食いに来てくれるのを待ってるよ」もう涙で最後の方の文章が読みにくくて、つい、棺の中のおじいちゃんに
「ブドウ食べに来ました。おじいちゃん、パソコン頑張ってくれてありがとう」
とお礼を言いました。ここ近年、自分が病に侵されてから、励みになるような直接的なコミュニケーションは全てネットの中だけでしたが、リアルで励ましを残してくれたおじいちゃんにはネットとは違う超刺激をいただきました。おじいちゃんは講習が終了したあとも、たくさんのチラシを作り続けていて、その作品は40枚にも及んでいました。
 それをコピーした物を、親族の方にプレゼントされました。おじいちゃんの腕はかなり上達していました。お暇する際に、ご長男にこんな言葉をいただきました。「正直、講習を受けさせる時は反対したんです。少し痴呆の傾向が見られたので、ご迷惑ではないかと思っていました。でも講習を受け始めてからすぐ、『講習に行くことが楽しみでならない、先生は親切だしわしの質問も何度もいやな顔もしないで聞いてくれた。家でボーっとする暇があるならパソコンの勉強がしたい』といい始めて、痴呆気味だった父が、改善しているように思えました。本当にありがとうございました。」こちらこそ、励みになりました。ありがとうございます、と告げました。帰りのタクシーでは堪えていた涙が溢れすぎて、運転手の方に心配をかけてしまいましたが、おじいちゃんにパソコンを好きになってもらえてよかったと、講師冥利につきる出来事でした。

 これを読んでみなさんはどのように感じましたか。

 おじいちゃんの真摯な学ぶ態度に「勉強はじめるのに年齢は関係ない。」と思った方もいらっしゃるかと思います。しかし、それ以上に人にものを教える立場の人が心しておかなくてはいけない大切な事が私はこの話から読み取れてなりません。教える立場の人間の言動が学びを受ける人へ計り知れない希望を与え、努力を引き出しているということです。学校の子どもたちはこのおじいちゃんのように言葉で表現はしてくれませんが、学校の先生の子どもたちへの影響力は同じように計り知れないということ。そう思うことができたら、これまで以上に子どもたちの前で襟を正して子どもたちへよい影響を与え続けてください。

   最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 
















よろしければサポートをお願いします。これからもみなさんに読んでいただきよかったと思っていただけたり、お互い励まし合い、元気が出る記事が書けるよう有効に使わせていただきます。