見出し画像

あの時、ひとりの母として保育園に願ったこと

こんにちは。社会保険労務士法人ワーク・イノベーション代表の菊地です。
いつも夜は子どもたちとバタバタ布団に入り、疲れ果てて泥のように眠ってしまうのですが、昨晩は寝室の窓からゆっくり美しい月を眺めることができました。 6人の子どもたちのうち、2人の娘に「月」という漢字を使っています。それぞれ海に浮かぶ月であったり、初秋の月であったりをイメージしていますが、形を変え、雲に隠れることがあっても常に真っ暗な夜空を静かに照らしてくれる月の温かさや力強さを娘に重ねて名付けました。そんなことを考えながら昔のことを思い出していたら、SNSの機能が「8年前の今日」を教えてくれました。

社労士の私がつくった保育園

8年前というと保育園を開園して1年経ったころでした。まだ補助金も何にもなくて、ほぼボランティアのような状態で、自分の子どもと地域の子どもと保育士さんたちの子どもを一緒に育てていました。小学生の娘が絵本を読んであげたり、急にお迎えが遅くなってしまったお家があれば一緒に夕飯を作って食べたり、何度も何度も採用面接に落とされるお母さんの涙に寄り添ったり・・・
目に入ってきた写真では、当時3歳くらいだった三女が保育園の洗濯物を畳んでいます。ああ、あの頃は本当にカオスだったなあ。
その間に社労士としての仕事も必死でやっていました。
 一人の女性としてのキャリアを切り拓いていくために、自分がこれから働いていくための環境を整えるために作ったはずの保育園ですが、一家総出で地域の子育て支援に奔走することになり、私は何をやっているんだろう・・・と毎晩悩んでいたのも正直なところです。それまで預けていた保育園にポンと子どもを入れていれば何の苦労もなかったのに・・・。
 でも集まってくれた保育士さんたちが素敵な人ばかりで(今もまだいてくれます!)、お金がないことも恵まれた施設でないことも全部受け止めてくれて、「与えられた環境で子どもにとって最良のことをしましょう」とゼロから日々の保育を作りあげていくことを心から楽しんでくれました。
 そんな保育士さんたちとの出会いによって、保育園って子どものための場所に他ならなくて、子どもが幸せに過ごしてくれることこそが親たちの働く原動力にもなりレスパイトにもなるんだな、ということを身をもって学んだのでした。同時に、社労士としての私の役割は、保育そのものの研究者・表現者になることではなく、保育士がやりがいを感じながら働き続けられる環境をつくることであり、子どもを育てながら働く親たちに保育の価値を知ってもらうこと、そんなことも明確になりました。

保育の価値 

 子育て世帯にとって、保育園という施設に対しては”当たり前に享受できる社会インフラ”という認識が浸透しているため、月額5万円の保育料でも高額だと感じてしまうことがあります。医療保険と違って保険証を提示して3割負担、なんていう手続きもないですし、そこまで考えが及ばないことがほとんどなのかもしれません。ものすごく簡単に計算してみると、乳児3人に対して保育士が一人。11時間を1,500円の時給で月に20日預かるために33万円(一人当たりの保育にかかる人件費は11万円)。ここに調理員さんがいて、事務員さんがいて、乳児3人に一人の保育士なんて現実的ではないので加配を考えて、管理費を加えて・・・さらには、ベテランの保育士であれば人件費は倍になるかもしれません。それだけでも一人当たりの保育費用は30万?いやもっとでしょうか。
保育の価値を金銭的な指標で計るというのは少し乱暴かもしれませんが、保育や教育分野における価値というものがなかなか明確に表現されず、金銭に換算したときの世の中の相場観というものがあまりにも低いことがこの業界全体を押し下げている要因であるようにも思います。数字で計ることが難しいことを理由に、保育士の給与水準のみを引き上げて保育士という国家資格の価値を引き上げようと処遇改善や公定価格の引き上げが実施されてきていますが、国の施策の恩恵を受けられてもそれらのほとんどが採用戦略へと流れてしまうことによって、肝心の保育の価値や保育士としての誇りというものが醸成されにくくなってしまっている現状があります。

変わりゆく環境の中で変わらないもの

つい先日の会議のときにふと昔の思い出話になったとき、当時からいてくれる保育士さんが、
「子どもにとっての最高の環境を求めたらきりがないけれども、変わりゆく環境の中でつねに最良を考えてきました。」
こんなことを話してくれました。
 当時、子ども子育て支援法が成立して、保育業界が大転換期を迎えたころでした。新規参入も盛んで、小規模保育を中心に施設数が激増、さらに数年後には企業主導型保育事業もできて、保育園を作りたいと思ったら潤沢な補助金とともに割と容易に開園できるようになりました。当時の苦労は何だったんだろうと思うこともしばしばですが、一緒に歩んできてくれた保育士さんが、変わりゆく環境の中で保育現場に立ち続けながら、ただひたすら子どもの育ちを突き詰めてきてくれていたことをただ嬉しく思ったのでした。
 社労士として対峙している労務の問題には、多額の補助金が投入されてもなお解決されない職場環境の問題や処遇待遇の問題が根深く残っており、ここ数年においてはむしろそれが色濃く浮かび上がっている状況です。もちろん、昔のようにボランティア精神で頑張る保育士を美談として持ち上げて解決しようというつもりは全くありませんが、「保育の価値を高める」という保育業界が直面してきた課題解決の方法については、どこか大切なことが置き去りになっていないかと思わざるをえません。
 
 保育士の働き方改革や処遇改善が、単なる効率化や保育士確保策に終始してしまうのではなく、価値につながるイノベーションが必要なのかもしれません。

保育イノベーション

その場で解決!こんなときどうする?保育園の労務トラブル
→お申込みはこちら

加奈子先生_セミナーバナー保育園の労務トラブル20210928


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?