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保育士の給与を引き上げる新たな加算 ~「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」について~

年末年始は著書の改定作業に明け暮れ、元日4時からPCに向かうというストイックな年明けでした。今年は保育分野もますます働き方改革や業務改善、処遇改善など、保育士の職場環境や待遇に意識が向いていっているように感じます。そんな中でも特に保育園関係者が注目している「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」について書いてみたいと思います。より実務的な情報は、私たちが運営している保育イノベーションのサイトで「コラム」「会員相談ひろば」「書式ダウンロード」で役立つ情報を随時アップしていますので、ぜひこちらもご覧くださいね。(会員登録お願いします!)
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保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業

施設としての助成額の計算方法

コロナ禍において、保育園の職員は社会生活のインフラを維持する上で重要な役割を果たすエッセンシャルワーカーであるという認識がより一層高まりました。それを受けて、これまでの処遇改善等加算に加えてさらに業界全体の賃金水準の底上げをしていこうと、「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」が予算化されました。いわゆる賃金水準を3%(約9,000円)という具体的数字も示されています。
 どんなふうに計算されるかというと、どの職員も一律9,000円、もしくは3%の賃金改善というわけではありません。保育収入・通常の処遇改善と同様、「設定された単価(園児の年齢・地域区分・定員区分)に園児数を乗じる」という方法で施設ごとに支給されます。

金額算定_保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業5

上記のように、園児の年齢ごとに単価が決まっており、そこにそれぞれの年齢の園児数をかけると助成額が計算できます。上記の表は東京23区・定員100名の施設の場合の単価です。

国家公務員給与改定対応部分

上記の表の中に「国家公務員給与改定対応部分」というものがありますがこちらはどのようなものなのでしょうか。

保育園の運営には公費が充てられており、そこから人件費を捻出します。公務員のように「〇年目の職員は△△円」というように決められておらず、ある程度は柔軟に運用できます。一方で、給与額の見直しをする際には国家公務員給与の改定に準じて見直しをする必要があります。これを「人事院勧告対応分(人勧分・じんかんぶん)」などといいます。
 通常はこの改定はプラスに変更されることがほとんどですが、税収が大幅に下がるなどの非常事態が起こった場合にはマイナスに改定される場合があります。10年前の東日本大震災のときや今回のコロナにおける緊急事態がまさにそれにあたります。
 実は、令和3年度はコロナ禍の対応で国の財政に大きな影響があったことから、国家公務員給与改定も0.9%のマイナスとなりました。この場合、簡単に言うと「保育士の給与を0.9%マイナスしてよい」ということでもあるのです。
 コロナ禍において、エッセンシャルワーカーとして緊急事態宣言下においても保育環境を維持してきた保育職員に対して、国家財政がひっ迫したからそれに応じて給与を下げますよ、というのはとてもおかしな話です。そこで、表にあるように、0.9%分のマイナスを補助金として補填しつつ、さらに約3%に当たる賃金改善を行うという措置が取られているのです。

一人当たりの賃金改善額は?

上の表であくまでも参考値として「常勤換算職員数19名」、「一人足り賃金改善額13,043円」という数字を出してみました。この19名という数字は私が適当にイメージして入れたのではなく、根拠があります。
 保育施設は園児数に応じて職員数が決められている(法定配置人数)ため、公定価格を決める際にも定員や園児の年齢、人数によって必要な職員数が加味されています。この職員の人数を「公定価格に措置される職員」といいます。この人数をもとに単価を出してみると、大体1万3千円くらいになりました。この数字には法定福利費の事業主負担分が含まれているため(給与改定をすることで法人が負担する社会保険料などが増えるため、単価から差し引いてよいことになっています)実際に保育職員に支給される額は15~20%程度少なくなります。さらに法定配置以上の職員がいる施設は一人当たりの賃金改善額も少なくなり、9,000円を下回ることもあるでしょう。また、園児数が減ってしまった施設なども、もともとの補助金額が少なくなるので職員に配分される賃金改善額が少なくなります。このため、賃金規程等に「一律9,000円」など、具体的な数字を決めてしまうのは難しいかもしれません。

臨時的な支給なの?

「臨時特例事業」というだけあって、この事業は令和4年9月までの特例事業となります。では10月以降はなくなるのかというとそうではなく、この部分が公定価格に上乗せされ、恒常的な賃金水準上昇につなげていくという考えを国は示しています。

保育士の処遇改善の目的

これまでも処遇改善等加算としてⅠⅡがありました。
加算Ⅰは、経験年数に応じた加算(公定価格は園児の年齢に基づいて変わりますが、施設に在籍する職員のキャリアは加味されていなかったため、キャリアに応じた昇給モデルが立てにくい構造にありました)、
加算Ⅱは技能・経験を有する者に対する追加的な加算(副主任や専門リーダー、職務分野別リーダーといった、一定のスキルを担保した方に対する賃金改善)です。
このように、「経験年数」「専門性」といったものに対して処遇改善のための加算が支給されてきました。それだけでも保育士が専門職として長いキャリアを積み重ねていきながら、その対価を正当に測っていこうという制度の本来の意味はとても大きなものがあると思います。
 では今回の特例加算から始まる新たな加算が示す意味は?というと、冒頭に書いた通り、保育士(保育教諭・保育職員)の社会的な価値が上がったこと、これに尽きます。(たった9,000円?という意見もあるでしょうけれども。
 これまでの処遇改善等加算ⅠⅡのように、個々の努力で培われていく経験やスキルによるものではなく、業界全体の水準をあげていこうというものです。ですので賃金改善をする際には能力評価や貢献度に応じたものではなく、できるだけ平準化した賃金改善である必要があります。
 

保育の重要性と価値

コロナ禍において、確かに保育士の価値、重要性というものが再認識されました。でもそれは、「生活を維持するための社会インフラ」としての保育の役割であるようにも感じます。
 それだけではなく、乳幼児の養護・教育における専門性の高さと乳幼児期の保育者の関わりの重要性というものがさらに評価され、価値として認められていくためにも、すべての保育者の意識と、それを養成する職場環境を向上していくことを目指していくことも大切なのではないか、そんなことも考えています。
 保育の質を考えるときに、担い手である保育士の資質やキャリアというものが実はとても重要で、それを高めていくためにも働く環境・働き方というものを改めて見直していくべき、という考えが少しずつ広がってきました。今回の賃金改善を契機に、こうした動きがさらに広がっていくことを強く願っています。


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