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社会保険適用拡大から考える女性保育士のキャリア

来年10月から社会保険の適用拡大が行われることによって、職員数が多い法人からのご相談がとても増えています。社会保険料が増えると法人にとっては大打撃。冗談抜きで死活問題なわけですが、経営上の問題としてだけでなく、職員一人一人の働き方や長期的なキャリアにまで目を向けてみると、法人の方針ややるべきことも見えてくる気がしています。

1.現在の社会保険の扶養のしくみ
2.社会保険適用拡大がやってくる
3.適用拡大で保育業界はどうなる?
4.パートさんへ伝えたいこと
  「あなたはどんなキャリアを描きたいですか?」
5.法人として考えたい、働き方の明確化

1.現在の社会保険の扶養のしくみ

現在は、社会保険に加入すべき職員というのは、
・フルタイム職員(正規職員)
・フルタイムの4分の3以上の週労働時間数の職員(大体週30時間)
の人たちです。また、社会保険に入る必要のないパートさんは上記時間に満たない働き方をし、かつ、年収130万未満に抑えて夫の扶養に入っています。いわゆる国民年金第3号被保険者ですので、社会保険料がかかりません。毎月数万円の社会保険料を引かれて手取りが減るくらいなら短時間で家計の+αになるくらいの働きをしようと考える方も多いです。保育園も以前より待機児童問題が深刻ではなく、どの自治体も大体、月48時間以上働けば保育園に入る認定をしてくれますから、週3パートで子どもは月曜日から金曜日まで保育園に預けて、子育て中であってもバランスよく生活ができるといえるでしょう。(保育園は仕事のない日は預けないでと言われる場合がありますが、子どもの育ちを考えると毎日通ってくれた方がよいと考える園も多いようです)

2.社会保険適用拡大がやってくる

そんな制度が大きく変わってきます。フルタイムとフルタイムの3/4以上働く人(=現在、社会保険加入要件を満たす人数)が100人以上の法人は2022年10月から、50人以上の法人は2024年10月から、社会保険適用拡大の対象となり、これまで扶養内のパートとして働いていた方も週20時間以上・月88,000円の収入がある方は社会保険に加入することが義務付けられます。ちなみに501人以上の常勤者がいる法人はすでに適用拡大の対象となっています。
 これにより、現在は108,000円程度まで稼いでも社会保険料がかからなかった人が88,000円まで稼ぐことのできる上限が下がるということです。ご本人の生活設計も変わりますし、社会保険加入者が増えることで、社会保険料の半額を負担している法人側も支払う保険料が増えるということになります。
社会保険の適用拡大については弊社のサービスサイトでも解説しています。
こちらから→

3.適用拡大で保育業界はどうなる?

業種に関わらず対象となる制度ですが、保育園で考えると大規模の認可保育園を3-5園くらい運営している法人は対象となることになります。来年の社会保険適用拡大に向けて、対象となる私たちの顧問先様には職員の意向調査を行っていますが、社会保険に加入すると回答している人 はごくわずかで、多くが勤務時間を減らすか退職すると答えていました。
 勤務時間を減らされてしまうと人手不足となり、ただでさえ保育士不足なのにまた大幅な人員増に向けて採用活動をしなければならなければなります。また、細切れに働くパートさんが非常に多くなるということは子どもたちにとっても保育者が日々、そして一日の中でもコロコロ変わり混乱をするのではないかという声も聞こえています。
 そして、パートさんたちにとっては、「この法人にいれば働くことのできる時間が減ってしまうけれども、近隣の小規模の法人に移ればこれまでのように130万マックスまで稼ぐことができる。それならば移ってしまった方がいいじゃないか」と小規模法人への流動が起こる可能性が考えられます。
 法人の負担も深刻です。処遇改善等を行うことで社会保険料が増えるのであればその増加分も負担してもらえていますが、今回の社会保険の適用拡大で社会保険料負担が増えることに対しては当然に何の補助もありません。意向調査で見る限り、ほとんどのパートさんが社会保険に加入することを希望せずに短時間勤務者になれば、社会保険料は増加しないのでしょうけど、経営的にはさまざまな支障が出ることは必至です。

4.パートさんへ伝えたいこと
「あなたはどんなキャリアを描きたいですか?」

ここまで書くと、社会保険適用拡大はとんでもない制度だと思われがちですが、社会保険そのものは決して手取りを減らす悪いものというわけではありません。何と言っても将来の年金が増えますし、定期健康診断が受けられるようになったり、出産や傷病時の保障もついてきます。
 そして制度の良し悪しを判断するのではなく、「パートを希望している方たちが自分自身のキャリアをどう考えているのか」、この部分については深く切り込んでいく課題であると言えます。
扶養内で働く人の多くは何も考えずに「扶養を抜けたら損」という情報だけを頼りに扶養内で働くことにこだわっている方も多いように見えます。
 そして、一度パートになってしまうと、子どもの手が離れてもなかなか正職員へキャリアアップする機会がなくなってしまう傾向にもあるようです
 そもそも社会保険料を一定額負担しても、税制上の扶養の恩恵を受けられなくなっても、収入が増えていけば問題なくないはずなのですが、そういう思考にたどり着くことができないたくさんの壁があるように感じられます。
 せっかく持っている国家資格を「シフトの穴埋め」「正職員の補助」というような、「資格を時間単位で提供」することで職業人生をを終えてしまうか、経験を積みながら保育の専門性を磨いていくキャリアとでは、生涯賃金の問題以上に大きな違いがあります。
 もちろん、今は目の前の子どもに時間を注ぎたいという時期があったり、体力面に不安があるということもあるでしょう。すべての人生を仕事に注ぐ必要はないのかもしれませんが、自分の人生を自由にデザインしていくことのできる時代、もっと主体的に考えると保育士人生はより彩りが豊かになって行くはずです。

5.法人として考えたい、働き方の明確化

もう一つ、法人側にも課題がたくさんあります。保育士の多くが出産後、なぜこんなにもパート勤務を希望するようになるのか。一旦パートになった保育士が再度正規職員に戻ろうと思わないのか。そこには働く上でのハードルが高すぎるのだと考えます。

子どもが生まれるまでは正職員で働いていました。でも急なシフト変更やサービス残業で夫婦ゲンカが絶えませんでした。当時のことを思い出すと苦しくて、二度と正職員には戻りたいと思えません。
正職員は私たちパートの休みの希望なども全部聞いてくれて、休憩もパートが優先。パートの仕事がやり切れなかったらサービス残業でカバーしてくれる。私たちの負担を正職員がすべて請け負ってくれるので私たちパートは働きやすさが保障されていますが、正職員がとにかく大変そうで、頼まれても、年収が何倍にも増えようと、とてもなりたいとは思えません。

これがパートさんの本音。大変なことはすべて正職員がカバーしてくれたらパートはとても居心地の良い立場になります。でもそれは、保育の核となる正職員の負担を増幅させ、パートがいつまでもキャリアアップを望まないという負のスパイラルが確立することにもつながるのです。
 法人側はパートが正規職員へキャリアアップすることを前向きに考えられるように努めることが必須です。そのためには正規職員が働きやすく働きがいのある魅力的な立場であることを目指しましょう。
 正職員だけが負担を担うのではなく、パートにも責任ある仕事を徐々におろしていくこと、補助的なパートと正職員に近い働きをするパート、時間や職務を限定する正職員など、働き方にグラデーションを作っていくこと、そしてそれぞれに対して見合った報酬を保障することが大切です。 また、変形労働時間制など、保育園にとっては法律の特例を使って成り立っているとも言えますが、それが職員にとっては「経営側が残業代を節約するための法律の抜け道」と捉えられていることも多いように感じます。
 職員の生活上の希望も聞きながら時間を柔軟に調整することができるようになれば、経営側にとっても働く人たちにとってもメリットになるのです。
 
働き方を明確にし、安心してキャリアアップに挑戦できる職場にしていくこと、それがこれからやってくる社会保険適用拡大の一番の解決策であると考えます。







































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