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2020年10月 狂言ござる乃座

狂言の公演は8月ごろから再開。9月後半からは、10月後半からは週2回、能楽堂に足を運ぶ日もちらほら。濃厚な公演が続いています。10月後半からは週2回、能楽堂に足を運ぶ日もちらほら。そんな中で、特にすばらしかった公演「ござる乃座62th」をご紹介。「ござる乃座」は、野村萬斎さんが自分のやりたい演目を中心に番組を組むので、マニアックだったり萬斎さん初挑戦の演出なども多く、いつも楽しみなのです。

今回の狂言の演目は3曲。
(1)水掛聟(みずかけむこ)
狂言には、お聟さんと舅(しゅうと)のやりとりを描いた「聟もの」と呼ばれるジャンルがあるのですが、これもその一つ。聟と舅は、隣り合わせに田んぼをもっていて、収穫の近いある日、聟が自分の田の見回りに行くと、水がない。これは舅が自分の田ばかりに水をやって、自分にはわけてくれなかったんだと思い込み、舅の田と自分の田の境目「井出」を切って、水をもらうのです。

しばらく後に舅が自分の田の見回りに。ちなみに舅役は萬斎さん、今回が初めてだそうです。舅は自分の田に水がないことに気づき、「おや、井出が切れている」と、早速土で塞ぎます。そこに、別の田を見回っていた聟が帰ってきて言い争いに。「舅なら、聟を思いやるもんだ」「婿は舅を立てろ」と言い合ううちに、水をかけたら、かけ返し、ついに泥んこを顔に塗り合うという大人気ないやりとりに。

そこに、嫁が「何やってるのよ」と顔を出すと「婿の足をすくえ」「お前、どっちの味方をするんじゃ」と、わあわあやり合い、最後は、「もうお前なんか、祭りに誘わないからな!」と、もう、子どもか! という締めです。

舅と聟が腹蔵なく何でも言い合えるのが何とものどかですし、掛け合いで、どんどん話が進むのも気持ちいい。
細かい話ですが、畔の土を盛るときに(もちろんエアーです)、一鍬ごとに、ちゃんと盛り土が高くなっていくという表現の緻密さ・・・すばらしかったです!

(2)鬼瓦(おにがわら)
こちらは萬斎さんのお父様で、人間国宝の万作先生と、古希を超えた超ベテラン演者、石田幸雄さんが出演。都での訴訟がうまくいった大名(万作先生)が太郎冠者(石田さん)と連れ立って、故郷に帰ろう、という
シーンから始まります。

大名「訴訟が思いの外うまくいったから、この話を太郎冠者に聞かせて、喜ばせてやろう」
主人と太郎冠者の関係性は、作品によって大きく違うのですがこの主人は、太郎にとても優しい。そういう作品は、しみじみ好きだなあと感じます。
話を聞いた太郎冠者も、それはよかったと喜んで、二人が連れ立って故郷に帰ろうとすると、途中に因幡薬師があり、参拝してから帰ろうということに。参拝の仕方がまた見事。

「こんなに物事がうまくいったから、故郷にも小さくてもいいからお堂を建てよう。参考のためによく見て覚えて帰ろう」と大名が、「ここは須弥壇、この柱が・・・おお、向こうには」と、これも完全にエアーで、目に見えないお堂を描き出すんです。こういうところが、狂言のかっこいいところ!

お堂の外に出て、ずーっと向こうに目を向けた大名、なぜか突然、オイオイと泣き出します。太郎が「どうしたんですか?」と聞くと、大名「あの鬼瓦、見知った人に似ていると思わないか?あのギョロ目、小鼻が張っているところ、耳まで切れたでかい口・・・女房にそっくりだ!」と。

普通なら部下は、上司の妻ですから「そうとも言えないのでは」と取りなすところ、狂言では「言われてみればそうですなあ」と受け入れちゃって。ここから、「やっぱり帰るのがいやになった」という落ちかと思いきや、涙を拭いた大名は、「うん、帰ろう。太郎、まずは笑おう」二人で顔を見合わせ、は、は、はー! と笑って帰るんです。なんだか、温かくてほのぼのする曲。大名と太郎、万作先生と石田さんの気持ちが通じ合っている雰囲気もすごくよかった。

(3)煎物(せんじもの)
またまた、主役の煎物売りは萬斎さん。ある街で、人々がお祭りの準備をしていると、そこに煎物売りがやってきます。今でいうなら、キッチンカーみたいなもので、釜や茶碗のセットを担いで現れ、苦くて臭い煎物を人々に売りつけようとするわけです。お祭りの準備をしているみなさんは、煎物売りがすごく邪魔。無視したり、放り出したりするのですが、煎物売りはまったくめげずに、何度も人々の中に割り込み、練習している歌の中に「せんじもーの、せんじもーの」と自分のところのキャッチフレーズを突っ込んで邪魔をする。

「これじゃ練習にならない」と思った街人の代表は、お腹に小さな太鼓をつけて、「これの真似はできるか?」と煎物売りをあおり始めます。煎物売りは意地っ張りなのか、自分の持ち物の中から土でできた焼き物の皿(焙烙)をお腹にくくりつけ、それをポコポコ叩きながら真似をする。すると、お腹に太鼓をつけた街人は「じゃあ、これは?」と側転でくるくる回って見せるんです。それが、萬斎さんのご子息の裕基さん。手脚、長い! 顔、小さい! かっこいいんですー!

ひらりひらりと回って見せる裕基さんに触発された煎物売り、自分も・・・と恐る恐る回って見せるのですが、ついに失敗! お腹につけたお皿は粉々に。でも、最後のセリフが素敵。
「数が増えて、めでたい」

負け惜しみだけど、言祝ぎの方に持っていく。言葉の芸であり、明るい笑いの劇である狂言らしい幕引きの言葉。煎物は、平成12年に萬斎さんが復活させて、洗練させてきた曲。「鍋八撥」っていう作品のエンディングにも似ているけど(朧な記憶ですが)こっちのほうがさっぱりしているかな。どれも見応えがあって、会場からも笑いが漏れて久しぶりに、ちゃんと笑ったなという公演でした。

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