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2019年 狂言ござる乃座第60回

facebookからの転載です。↓

先日、「狂言ござる乃座」60回記念公演を拝見してきました。今年は野村萬斎さん芸歴50年という節目の年。1987年、ということは萬斎さんが21歳のときからだいたい毎年2回のペースで開催されるござる乃座は「能楽界でも個人の会でこれほど続ける例はめったにない」ということです。

上演曲は「鍋八撥(なべやつばち)」、「樋の酒(ひのさけ)」「髭櫓(ひげやぐら)」のどれも楽しい狂言3曲。素囃子の「高砂」は、結婚式などでおなじみの曲。大嘗祭にちなみ、おめでたい曲づくし。いつも以上に華やかで楽しい会でした。

■樋の酒
萬斎さんご出演の「樋の酒」は、主人の留守中に酒を盗み飲みしよう!という太郎冠者と次郎冠者が登場。お酒=菊水、ということで菊の御紋に結び付けられています。米倉の番をする太郎冠者(萬斎さん)に、酒倉の番をする次郎冠者(中村修一さん)が樋(竹でできたといのようなもの)をわたして、お酒を流して飲ませる、という趣向が一つ。でも、そのシーンは意外にあっさり終わり、太郎と次郎が酔っ払って交代で謡や踊りを披露するのが1番の見せ場です。萬斎さんの美声、本当に素敵でうっとりします。

■鍋八撥
萬斎さんの父で88歳になられる野村万作先生と、公文のCMでおなじみ、萬斎さんの息子の裕基さんが演じた「鍋八撥」、感動しました! 最近世の中が豊かになって、京都にもあちこちで市が立つようになります。そこで新しく作る市では、最初にきたものをリーダーにして、一番いい場所を与えよう、という御触れが出ます(世の中が豊かになって、というのがおめでたいところ)。

そこで、裕基さん演じる若い鞨鼓(かっこ)売りは夜中に到着。自分が一番のりだと確認した後に夜明けを寝て待つことに。ちなみに鞨鼓は、金色の小さな太鼓。鼓のような形で、お腹に結び、両手にもった小さな撥で叩いて演奏する楽器です。

そこに、万作先生演じる年老いた鍋売りが登場。一番乗りだと思いきや、すでに鞨鼓売りがいたため、ズル込みをして、同じように居眠り。目を覚ました鞨鼓売りは代官に訴えるのですが、鍋売りは譲らず。代官が「二人で勝負して決めなさい」というので、二人はそれぞれの商品である鞨鼓と鍋にちなんだ詩歌をうたったり、踊ったりと、いろいろな技を見せます。

鞨鼓売りが「これなら勝てる」と、知恵をしぼってお題を出し、それを受けて立つ鍋売りの老獪さが見事。「お互いの商品を振って見せる」という対決では、鞨鼓売りは素敵な金色の鞨鼓をゆらりゆらりと揺らしながら端正に踊って見せます。

一方の鍋は、土でできた素焼きの平皿のようなものに、紐を通しただけのもの。落としたら割れる・・・と、そーっと大事に扱いながらなんとか踊りこなすのです。次には「お互いの商品を叩こう」。鞨鼓売りはもちろん、撥を使って鞨鼓をクールに叩いて見せます。一方の鍋売りは「その対決に使う撥がないから、貸せ」と図々しくも要求。あきれながらも貸してしまう若者の気のよさも、清々しくて狂言らしくて好きです。

鍋が割れないように心配しながらそーっと叩く万作先生の可愛らしさ、たまりません。最後の対決は、まさかのアクション勝負。裕基さん、ダイナミックに側転を披露!萬斎さんも昔、大学の体育館で側転を練習したそうですが
手脚の長い裕基さんが軽々と回る姿もお見事でした。

さて、御歳88歳の万作先生。「回るのか?」「いや、止めてください!」と
観客席の心の声、ダダ漏れです。勢いをつけ、止まり、再び構え……
万作先生、側転ではありませんがお腰をついて、めっちゃ速いスピードでぐるりぐるりと回るのです。たぶん、私が回るよりも断然速く。思わず息をのみ、心の中で大拍手。

そして最後、鍋売りは体勢を崩し、お腹を地面に着いてしまいます。そのお腹には、鍋がくくりつけられていたはず。恐る恐る体を起こした鍋売りは、自分の体の下で粉々になった鍋を見て、にっこりと微笑み、「数が増えて、めでたい」。その温かい笑顔、負けず嫌いな台詞、そして世の中が反映するようにという大きな願い。じわりと感動が広がり、思わず涙が出ました。狂言の素敵なところって、こういうことだと思います。

■髭櫓
大トリは、再び萬斎さんのご登場。大きな髭がご自慢の男が、妻に向かって大威張り。「この度の大嘗祭で、この髭が鉾を持つ役にふさわしいと大抜擢された。服を新調して準備してくれ」と言い出します。ところが妻は、「そんなお金どこにあるの! だいたいずっと、あなたの髭は汚いし、みっともないと思っていたの。すぐに切るか剃るかして、そのお役を返上しなさい」と主張します。

怒った髭の夫は妻を打ち、妻は「やったわね、見てなさいよ」と近所の妻たちを束ね、夫に襲いかかろうとします。しかしその情報を一足早くゲットした夫は、なぜか髭の前に櫓をつるし、髭を妻の攻撃から守ろうとする、という何とものどかなお話です。

夫も妻もとてもわかりやすいし、やることがいちいち大げさで面白い。小道具もユニークで、夫が首からかける櫓には、小さな旗がたくさん立っていて門まであるし、妻たち(5人もいます)は、薙刀ややり、しまいには大毛抜きまで持って武装し、夫に襲い掛かります。

戦いは、舞台を思い切り使っての大乱闘。最初は夫が優勢ですが、妻がチャンスを見つけて飛びかかり、最後には大毛抜きでお髭をビリリ!お髭ツルッツルになった夫がしょんぼりと退場・・・。すっきり笑えて、ほのぼのした気持ちになれる大作でした。

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