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2018年第81回野村狂言座

facebookからの転載です↓

初笑いは野村狂言座@宝生能楽堂でした。今年は珍しい曲目ぞろいの貴重な公演。お年玉をいただいたような気分です。


一曲目は干支にちなんで「犬山伏」。お坊さんが出かけた先からの帰り道、茶屋で休んでいると偉そうな山伏がやってきて、お茶が熱いのぬるいの、お坊さんが先に腰掛けているのが気にくわないのと難癖をつけます。しまいには俺の荷物をかつげとお坊さんに命じるので、見兼ねた茶屋の主人が、「それなら勝負をすればいい。うちの犬がなついた方が勝ち」と、狂言らしく突拍子もない話を持ちかけ、愛犬〝人喰い犬のくま〟を引っ張ってくるのです。


狂言に犬が出てくる作品は2つだけ。犬の面はその時だけしか使われません。家によって、伝わっている面はかなり個性が違うそうですが野村万作家の犬は本当に人に噛みつきそうな、かなりの強面。ビョウビョウと鳴きながら登場します。お坊さんが主人から教わった通り、マジックワードの「とら」という言葉が入ったお経を唱えると、とらちゃんはお手。一方の山伏が呪文(密教だとなんて言うんでしょう)を唱えると…。萬斎さん曰く、戌年くらいしか上演しない曲だそう。貴重なお面も見られてよかったです。

二曲目は「文蔵(ぶんぞう)」。狂言で、主人と部下の太郎冠者が出てくると、たいがい太郎冠者が主役ですが、これは珍しく主人がシテになります。
主人がプンプン怒って、「太郎冠者が自分に黙っていなくなった。でも、もう戻っているようだから、太郎のところに行って折檻してやる」と出かけ、太郎を叱ります。
太郎「京都にお詣りに行き、主人のおじさんのところにも挨拶してきました」
主人「それはご苦労だった。おじさんのところではおいしいものをご馳走になったか?」
太郎「なりました! でもその名が思い出せません。ご主人がよく読んでいる『源平盛衰記』の石山橋のくだりに、たしかそのご馳走の名が出てくるのですが…」
ということで、主人が源平盛衰記を語って聞かせるというのが見どころ。
よくこんな長ゼリフを! と驚くくらいの主人の独壇場。しかも、食べ物に関係がありそうな名称が出てくると「これか?」「いや、違います」をくり返すので、那須与一語よりも難しそう。物語の中に、別の物語を収めて狂言らしく演出する、とても精巧な仕組みの作品です。

そして、オチが秀逸。そのご馳走の名前、わかるんです。
しかも「えー⁉︎ そこ??」ってびっくりするところで。ヒントは作品名。
プログラムに「ちゃんと聞かないと聞き逃します」と書いてあって助かりました。

3曲めは「庵の梅」。女性しか出てこない作品は、萬斎さんでも他に思い当たらないそう。女性たちが連れ立って、庭に梅があるという老尼の庵を訪ねて梅を見せていただく、というもの。笑いや派手なストーリー展開はありません。

老尼は万作先生、女たちの先頭が萬斎さん、最後に野村裕基さんと、3代共演でさらにおめでたい雰囲気。舞台上には梅のセットが置かれ、鏡板と合わせて松竹梅。萬斎さんたち6人が色とりどりの美しい衣装で登場して、雅で和やかな雰囲気です。老尼はとても控えめで、可愛らしい。

萬斎さんが梅を見せてとお願いすると、「粗末だから恥ずかしい」と遠慮したり、最後に「お寮さまも舞を」と所望されても照れてしまったり。女たちが仲良くお酒を酌み交わしたり、歌や舞、小謡を披露して楽しく過ごし、もう日が傾いてきたから帰りましょう、と去って行きます。

老女の万作先生のお姿を見ると「楢山節考」を思い出しますが、こちらはのびのびと楽しげ。腰が痛いとかばいながら、ちょこちょこ歩く様子だけでキャラクターを伝えてしまうお見事な演技。女たちの踊りや歌もよかったですが、最後にさらりと歌い出した裕基さんの声にびっくり! 歌い出しからなめらかで、澄んだ美しい声。
私は萬斎さんの艶のあるお声が大好きなのですが、裕基さんもこれからますます素敵な謡を聞かせてくれるはず、と楽しみになりました。
ほのぼのとしたひと時、とても幸せ。

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