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2021夏のめぐろ能と狂言より『羽衣』

マンガ『花よりも花の如く』では第1巻に登場。能楽初心者におすすめとしてもよくあげられる『羽衣』です。初めて観たといいたいところですが、記録によると前に一度、観ているみたい。

でも、物語や美しさをわかって味わいながら観られたのは今回が初めて。解説の金子直樹先生が名セリフを教えてくださったおかげです。長さも約1時間ほどと、能としては短め。昔話として知られる「羽衣伝説」とはちょっと違うという点も、能として楽しめた理由かも。

昔話だと、漁師に羽衣を隠された天に戻れなくなった天女が、そうとは知らずに漁師と結婚し、ある時、隠された羽衣を発見して天へと帰ってゆく、というお話。

一方の能では、最初のあたりは昔話とだいたい同じ。のどかな春の日、漁師(白竜/はくりょう)が松の枝に美しい羽衣がかかっているのを見つけます。ワキの漁師・白竜(はくりょう)は村瀬提さん、ワキツレの漁師は村瀬彗さん。村瀬提さんはやや乾燥気味の凛とした声がまっすぐに響きます。

白竜が羽衣を持ち帰って家宝にしよう、というところに梅若紀彰さん演じる天女が登場。悲しげに「返してください」というところから、昔話とは違ってきます。梅若紀彰さんは、面をつけているとは思えないほど声量が豊かでよく響くまろやかなお声。

白竜は、返してもよいがその代わりに舞が見たいと天女に所望。すると天女は「羽衣がないと舞えないので返して」といいます。白竜が「返したら、そのまま天に戻ってしまうのではないか」と疑念を述べたところで、名台詞。

いや疑いは人間にあり。天に偽りなきものを

聞けてすっきり! 声が心にすっと沁みました。この言葉を味わうには、「こういう意味かな」とか「人間っていうのは…」みたいに考えちゃダメなんだと思う。天女があくまでピュアで美しく、堂々としていたからこそ、圧倒されるのではなくて素直に言葉が入ってくるんだな、と後から考えました。

後半は、舞。謡では、古典の授業で習った和歌「天津風 雲のかよひ路 吹きとぢよ・・・」などが聞き取れたのがうれしかったです。古典の授業では恋の歌と習ったけれど、天女が謡うと、何の含みもなく、天の風景をそのまま詠んだ歌になるみたい。

囃子に合わせて舞う時は、天女の動きは大きく、速くなります。大鼓は亀井広忠さん、小鼓は大倉源次郎さん、太鼓は徳田宗久さん、笛は松田弘之さんでした。能のお囃子は太鼓が入る時と入らない時があるそうで、今日は太鼓ありバージョン。

天女の衣装はピンクで、背中には金色の鳳凰の尾が垂れている模様。ブルーの背景(能楽堂ではないので)に映えて、とても素敵でした。(そういえば天女の前半の衣装は、白の着物に緑色の袴。以前見た狂言の解説で「白い衣装は裸を示す」と聞きましたが、それは天女が水浴びをしていて裸だったということ?)

天女が舞い、天に消えてゆき、白竜はその姿を見送って終幕。複雑な筋などはなく、とてもシンプルでピュアで美しい作品でした。

解説の金子先生がトリビアですが、と「天には黒い天女と白い天女が15人ずついて、宮に入れるのがそのうち15人。白い天女15人になれば満月、黒い天女15人になれば新月で、毎晩1人ずつ入れ替わるそうです」と教えてくださいました。セリフだけでは聞き取れなかったけれど、そういうちょっとしたヒントがあると、次回はもっと楽しめるかも。


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