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氷消瓦解

ひとつ、またひとつと足跡が増えていく。

サクサクと鳴ればまだしも、せっかちが飴玉を噛み砕くようにギシリギシリと音を鳴らした。それは崖っぷちにかけられた橋を渡るような、物悲しさを響かせる。

時計の針を止めきれたらば。うぬぼれと後悔は支えきれない彼の背中にのしかかった。

「ばいばい、ありがとう」

あの子の言葉を好意的に解釈するには、彼は打ちのめされすぎた。折れた背中を伸ばすこともない。

限られた時の狭間にあるせかい。あの子はそこで生きていた。だからこそ彼は友好を交わし、半身のように愛した。フィルムに焼き付いたシミのような彼らは、長い時間を共に過ごした。

ある日、せかいはあくびのように間の抜けた風を吹かせると、バラバラと凍ったせかいを砕きはじめた。

手が当てられる。赤子をなだめる母のようにやさしい手。凍ったせかいで唯一ぬくもりを持ったものだった。

不可逆をおそれ、すべてを投げうった彼の思いは虚しく散っていく。あとはもう、動きはじめたせかいの中をふたたび孤独に生きていかなければならなかった。

「まだダメだ。ダメなんだ」

送ることができた言葉は、これっぽっちしかない。あの子は微笑み、彼に別れの言葉を送った。

「ばいばい、ありがとう」

もはや、その言葉は新しい主の中にしか生きてはいけない。答えることは叶わなかった。ひび割れた指先とその痛みが、あのせかいがたしかにあったことの証であった。


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