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ティアドロップ

誰が見つけたか、月が溶けて垂れていた。
はじめは潤んだ瞳のようだったから、大気圏が歪んでいるだとか、月が涙を流そうとしているだとかの話が行き交った。

しかし、日を追うごとに月は欠けていき、三日月型になったが最後、決して満月にはならなかった。次第に大きくなりゆく人々の心配をよそに、三日月の下には溶けた月が垂れ落ちそうになっていく。

あれが種火になるかもしれない。新しい命を結ぶため、月はああして小さくなりながら、星の種として宇宙にしずくを落とすのだ。いや、もしあれが我々の星に落ちれば、こんな恐ろしいことはない。

紛糾する人の声が届くわけもなく、しずくは段々と大きくなった。眠れない人も現れた。反対に、眠り続ける人もいた。

それは赤い日のことだった。ふっとしずくは解き放たれて、地球にかすることもせず宇宙の闇に消えていく。

あっけのない顛末に人々はたくさんの言葉を使って、やがては飽きて忘れてしまった。
そうしてなんでもなくなった涼しい夜に、三日月はぼんやり輝いていた。

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