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マスタードみたいな

 ガタガタとかしましい洗濯機にコップを置いて、洗面台の蛇口をひねる。
中古品をクリーニングして捨てる予定だったものを友人から譲り受けたのだから、いい加減にがたが来ている。
 アパートの一階であるおかげでありがたいことに苦情が届けられたことはない。もしここが二階で角部屋でもないとしたら、毎日が苦情の対応に追われていただろう。

 どうでもいいか。早く今日を終わらせよう。ほんの少しだけ、小窓から差し込む光が心地いい。夜にLEDの光はちょっとまぶしすぎる。

 首から吊り下げられて退屈そうな歯ブラシをつかんで水にぬらす。まるで巨人が小さな人間をふりまわすように水気を払って、チューブから歯磨き粉を絞り出す。
 そのときだった。小窓から黄色い強い光がさしこんで、ブラシの上で雲のように流れる歯磨き粉がマスタードみたいな黄色いになった。

 小窓をのぞいて、車が通ったかを見ても少しも痕跡はなかった。
 仕方がないのでそのままくわえる。貧乏性であるけれど、それよりも面白いと思ってしまった。世の中にはびこる不思議のひとつが、偶然にもこの手に収まったのだから。
 子供用の歯磨き粉のような、とってもあまい味がした。

 満たされた好奇心にうっとりしようとしてみたけれど、ぜいたくだよと洗濯機に意識をこちらへガタガタと引き戻される。ああ、貧乏性であるけれど、さすがにこれは買い替えようかな。

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