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木箱記者の韓国事件簿 第12回 ありがた迷惑な贈り物

 韓国赴任を前に某社九州支社に配属されて働いていた98年11月。3連休を使って韓国を訪れた。半分は遊びで半分は出張だったので、韓国支社を訪問して韓国人支社長とミーティングするスケジュールも組まれていた。ミーティング後の食事で連れて行かれたのは冷めんのお店。どこの店だったか記憶は定かでないが、地元ではそこそこ名の知られた店だったようだ。食べ終わって帰ろうとすると、韓国支社長が、「九州支社の所長は冷めんがお好きだった。テイクアウトできるからぜひ持って帰ってほしい」と言い出した。立派な化粧箱に入ったお持ち帰り用のパッケージなんかではない。プラスチック製のどんぶりに、めんとスープと具材がそれぞれビニール袋に小分けして入れられた、地元の人が持ち帰り用に買うもので、海を越えて運ぶことを想定したものではない。しかも1人前だけ。この日は土曜日で、帰国は日曜日、出社するのは月曜日になるわけで、日持ちを考えても持ち帰りは厳しそうだ。そう進言するも、韓国支社長は「所長は冷めんがお好きだったから喜んでくれるはずだ」と聞く耳を持たず。当時はまだ機内に液体持ち込みが可能だったのでスープの入ったビニール袋が破れないよう細心の注意を払って持ち帰った。月曜日に所長に渡すと喜んではくれたが、家に持ち帰って食べるころには買ってから48時間が経過している。期待ほどおいしかったのかどうかはわからない。

 韓国人の悪い癖というのか、こういう「ありがた迷惑」は韓国に滞在する日本人なら1度や2度は経験しているようだ。大量のキムチや、カンジャンケジャンなどの汁物を日本に持って行くよう強要されるケースはよく聞く。むかし留学を終え日本に引き揚げるという友人が立派な額縁に入った書をもらったと困惑していた。引き揚げでただでさえ荷物が多いのにどうやって持って帰ったのだろうか。先日ソウルに来られた知人は直前に会った韓国人の知り合いからほうきをもらったと言って大きな箱を抱えていた。本当に便利なほうきで良いものなのでぜひ差し上げたいということだったらしい。韓国の人は善意でやっているのだろうが、それを持って帰るのにどのような苦労があるのかまではまるで思いが至らないようだ。

 さて、韓国に赴任して最初の年末。東京本社で忘年会があるというので一時帰国に合わせ参加表明をしておいた。それを知った韓国人支社長はある日大きな箱を抱えて出社すると、「社長はチャンジャがお好きだ。本社での忘年会に行くならこれを持って行け」と手渡してきた。こちらは小さなカバンで日本に行くつもりだったが、その箱だけでカバンの半分以上を占める。これでは実家へのみやげも持って行けなくなるではないか。「それは無理です」と抗議するもやはり聞く耳を持たず、「持って行け」の一点張り。事前に相談でもあればまだ検討の余地もあるが、こちらの都合も考えずに「持って行け」とはいかがなものか。社長にいいものを差し上げたいという気持ちはわかるが、こちらをただの便利屋だとでも思っているのか。仕方なく受け取ってしまったが、捨ててしまうわけにもいかない。持って行く着替えと実家へのみやげを減らしてどうにかカバンに余裕を作り日本に持って行った。

 東京本社での忘年会は盛り上がった。社長にもきちんと「支社長からチャンジャがお好きだと聞きましたので」との言葉を添えてチャンジャを渡すことができた。韓国支社長からのおみやげであることは言っていない。支社長には悪いが、親へのみやげを減らし大きな箱を抱えて東京に来たのはこの私だ。贈り物で点数稼ぎでもしたかったのかもしれないが、そうは問屋が卸さない。その点数は私がまるまるいただくことにした。どういう形でチャンジャが社長の手に渡されたのか支社長は知るよしもないのだ。支社長はちゃんとチャンジャが社長に渡され点数稼ぎになったと思っているし、社長は好物のチャンジャを受け取ることができ、私は私で点数稼ぎができた。迷惑きわまりないチャンジャ騒動だったが、こうしてみんながそれぞれ得する形で一件落着となった。

初出:The Daily Korea News 2016年9月26日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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