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木箱記者の韓国事件簿 第45回 住んではいけない家

 韓国には外国人が住んではいけない家がある。オフィステルだ。もちろん住めるオフィステルもあるのだが、住めないオフィステルの方が多いのではないか。外国人にとってオフィステル暮らしは少々厄介なので引っ越しを考える時には候補からは除外しておくのが無難だ。しかし良さそうな物件があるのも事実で悩ましい。

 オフィステルの部屋は業務用と住宅用の2通りの用途で当局への登録が可能だが、住宅用で登録すると税金が高くなるため業務用で登録する家主が多い。住宅用で登録してあれば借主はその住所で住民登録ができるが、業務用で登録するとその住所で住民登録をすることはできなくなる。ここが外国人にとっての難関となる。実際には業務用で登録しているオフィステルに住む韓国人は多い。これは住民登録の住所を実家などにすることで面倒を回避できるためだ。外国人の場合、知人の住所を借りるなどの手段を講じることで対処は可能だが、ハードルは高く、厳密には法違反でもある。

 不動産屋に行きオフィステルへの入居を希望しても外国人は断られることが多い。これは外国人差別でもなんでもなく、住民登録できる住所を用意できないと面倒に巻き込まれるためだ。私も何度か不動産屋でアタックしたが住宅用で登録してある部屋は少なく、借りるのは困難だった。その後ある不動産屋で案内されたオフィステルが気に入ったのだが、やはり業務用で登録されていた。それでも入居できないかと相談した結果、その不動産屋が住民登録用の住所を貸してくれることになった。違法行為ではあったがそれを承知で借りることにした。借りた部屋は8階だったが、住所登録には使えないので同じ建物の1階にある不動産屋の部屋番号を外国人登録上の住所とし、住所変更届けは無事に受理された。

 ただ問題はあった。公的機関以外には8階の部屋を住所として届けてあり、郵便物も自室の郵便受けに届くが、公的機関からの郵便は1階の住所宛てに届く。不動産屋が使っている部屋に外国人の個人名が宛名となる郵便は住所間違いと判断され配達されず戻されるケースがあった。困るのは入管から届くビザ延長案内の手紙だ。ビザ延長申請時には届け出た住所に住んでいることを証明するものとして、そのビザ延長案内の手紙を持参しなくてはならない。ない場合には不動産契約書が必要だが、8階の部屋の契約書はあるが1階の部屋の契約書はない。幸い、区庁から税金請求書の郵便が1階宛てに届いたケースがあり、公的機関からの郵便ということで在住証明にはなった。これがなかったら面倒なことになるところだった。

 家主の都合を無視して実際の住所で住民登録をすると、そのうちに事業用として登録している部屋に住んでいることが当局にバレることになる。すると家主は事業用と住宅用の税金の差額に追徴分の税金を支払わされることになる。家主が住所登録を嫌がるのはこのためだ。実際に私が手にした部屋の契約書には「住民登録はできない」と明記されており、借主はこれを了承したとして判を押さなくてはならない。さらに「住民登録をしたことによって家主に不利益があった場合には借主が損害賠償をしなくてはならない」という項目もある。要は借主の行動により税金を追徴されたりした場合には借主に支払わせるということだ。問題が起きなければ快適なオフィステル暮らしだが、常に心の中に後ろめたさがあり、住んでいる間はずっと心が落ち着かなかったのも事実だ。やはり住民登録ができる部屋に住むのが精神衛生上も良さそうだ。

 なお、業務用の部屋に住んでいたのが露見し家主に税金追徴などがあった場合、契約書で借主の負担と明記されていても、借主に支払いの義務はないという判例がある。「住民登録は国民(在住外国人含む)の義務であり、一個人が自己の利益のために国が定めた義務を妨げることはできない」というのが要旨だ。これを知っておけばなにか問題が起きても支払いは突っぱねることができる。ただ家主との関係がこじれることになり、それ以上その部屋に住むことはできなくなる。こうした面倒を回避するためにも、部屋探しの際は住所登録できる部屋だけを対象にすることを強くお勧めしたい。

初出:The Daily Korea News 2017年6月12日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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