やはり俺の青春ラブコメはまちがっている
/渡航
俺は何も見てはこなかったのではないだろうか。
彼女の行動やそこに至る心理がなんとなく理解できるときは確かにある。だが、それは気持ちを理解できることとイコールではない。
ただ環境や立ち位置が類似しているから、そこから類推することができて、それがたまたま近似値となっているだけのことにすぎないのだ。
人はいつだって見たいと思ったものしか見ない。
俺は彼女に何か近しいものを見いだしていたと思う。
孤高を貫き、己が正義を貫き、理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。その完璧な超人性は俺が会得せんとし、彼女が確かに持っていたものだ。
俺は……もっと知りたいとは思わない。
俺が見てきた雪ノ下雪乃。
常に美しく、誠実で、噓を吐かず、ともすれば余計なことさえ歯切れよく言ってのける。寄る辺がなくともその足で立ち続ける。
その姿に。凍てつく青い炎のように美しく、悲しいまでに儚い立ち姿に。
そんな雪ノ下雪乃に。
きっと俺は、憧れていたのだ。
だが、初めて自分を嫌いになりそうだ。
勝手に期待して勝手に理想を押しつけて勝手に理解した気になって、そして勝手に失望する。何度も何度も戒めたのに、それでも結局直っていない。
──雪ノ下雪乃ですら噓をつく。
そんなことは当たり前なのに、そのことを許容できない自分が、俺は嫌いだ。
「お前は望んでないかもしれないけど……、俺は関わり続けたいと、思ってる。義務じゃなくて、意志の問題だ。……だから、お前の人生歪める権利を俺にくれ」
「これからはもっと歪む。けど、人の人生歪める以上、対価はちゃんと払うつもりだ」
「……まぁ、財産はほぼゼロだから、渡せるものは時間とか感情とか将来とか人生とか、そういう曖昧なものしかないんだけど」
「大した人生送ってねぇし、先々もあんま見込みはないが……。でも、人の人生に関わる以上、こっちもかけなきゃフェアじゃないからな」
「諸々全部やるから、お前の人生に関わらせてくれ」
「そんなの釣り合い取れてない。私の将来や進路にそこまでの価値、ない……。あなたには、もっと……」
「なら、安心だな。俺の人生も今んとこあんまり価値が付いてないんだ。不人気銘柄でこれ以上価値が下がりようないからほとんど底値だ。ある意味逆に元本保証まである。今が一番お買い得だぞ」
「私、たぶんとても面倒な人間だと思うわ」
「知ってる」
「とにかくずっと迷惑をかけてばかり」
「今更だろ」
「頑固で、可愛げもない」
「まぁ、そうだな」
「そこは否定してほしかったけれど」
「無茶言うなよ」
「あなたに頼りきりで、どんどんダメになる気がする」
「俺がもっとダメになればいいだけだな。みんなダメになればダメな奴はいなくなる」
「……それから、」
「いいよ」
「どんなに面倒くさくてもいい。厄介でもいい。逆にそこがいいまである」
「……なにそれ、全然嬉しくない」
「人生歪める対価には足りないだろうけど、まぁ、全部やる。いらなかったら捨ててくれ。面倒だったら忘れていい。こっちで勝手にやるから返事も別にしなくていい」
「私はちゃんと言うわ」
「あなたの人生を、私にください」
「……重っ」
「他の言い方を知らないのだから、仕方ないじゃない……」
「共感と馴れ合いと好奇心と哀れみと尊敬と嫉妬と、それ以上の感情を一人の女の子に抱けたなら、それはきっと、好きってだけじゃ足りない」
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