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Offshoreの思い出


8月24日 Offshore

今週末は横須賀の横堀海岸みなとやでNECOくんのDJ活動20周年を祝うパーティー『Offshore』が開催される。実は去年の7月にも同じ場所でのパーティーがあったのだが、僕はコロナに罹患して泣く泣くキャンセルだった。今年は万全の状態で臨みたい。

NECOくんのDJ活動がもう20年、ということは僕が彼に出会ってから20年が経っている。初めて彼に会ったのは、あの頃、毎年夏になると福岡の奈多海岸でやっていたフリーパーティーだった。2004年は僕が『the OCEAN』というパーティーのホームグラウンドだった新宿のリキッドルームが閉店した年だ。90年代後半のトランスに夢中だった経緯は前回ここで書いた。

今回は2000年以降、NECOくんと出会った頃の思い出とパーティーのタイトルにもなっている"Offshore"について書いてみようと思う。

1999年に新宿リキッドルームでスタートしたMOTHERSHIPは翌年ZEPPでのSashaをゲストに迎えたパーティーの後にthe OCEANとタイトルを変えた。同時期に野外のフリーパーティーであるBalearic Sunriseがスタート、とにかく毎週どこかのパーティーで踊っているかDJをやっていた。音楽を聴くことが楽しくてしょうがなかった。95年にパーティーにハマってから、最初の3年間はほぼ全ての週末をレイヴやクラブのパーティーに明け暮れ、97年には自分の小さなプライベート・パーティーを河口湖の山小屋でやり始めた。振り返ると相当クレイジーな日々だけど、何もかもが楽しかった。そしてこの3年間が僕の耳を開いてくれた。

そう、"耳が開く"としか言いようのない感覚。パーティーに出会うまでもずっと音楽は好きだった。パンク、ニューウェーブに出会い60年代から70年代をたどり、リアルタイムのインディー・ロックを追いかけ、週3でレコード・ショップをチェックして、ライブハウスに通う。普通の音楽好きと比べてもツッコミすぎの10代後半から20代前半だったし、人生を変えられるような音楽とも出会った。けれどパーティー体験までは外の世界にはどんな音楽があるのかを知りたいという思いが僕を突き動かしていたように思う。とにかく世界で何が起きているのかを音楽を通して知ろうとしていた。それはロックをロックとして聴いている状態であって、選び取った音楽を自分自身で既定しながら聴いていたとも言える。自分が枠組みを作り、その枠に音楽を流し込むようなイメージだろうか。初期のパーティーライフは僕自身のそんな枠組みを解体してくれた。僕を捉えていたジャンルや枠組みを壊す、そんなことをいくつかのパーティーで体験したことがある。

忘れられないパーティー体験はいくつもあるが、その中でも自分にとって特別な瞬間となったものを紹介したいと思う。1997年の夏、僕が当時マネージャーをやっていたレーベルで辻堂の海岸沿いのクラブでパーティーを企画した。そのクラブは海岸沿いの国道134号から50メートルほど入った場所にあった。僕らはその立地を生かして夜はクラブで、明け方4時ぐらいからはビーチにサウンド・システムを設置して野外で踊れるパーティーをやることにした。当時はまだ野外レイヴは山間部のキャンプ場が多く、ビーチでのパーティーは珍しかった。計画ではクラブでのパーティーが始まる23時ごろから海岸にサウンド・システムの設営を初めて4時ぐらいからビーチに移って夜明けを踊って迎える流れだった。ところが当日は夕方から土砂降りの雨だった。一応野外用のサウンド・システムは用意しつつ、クラブでのパーティーを始めることにした。午前1時を過ぎたあたりでようやく雨がやみ、雲間に星が光だした。僕らは急ぎビーチにスピーカーを設置し、4時ちょっと前に設営を終了した。しかし午後中雨が降ったこともあり、クラブでのパーティーにはそんなに人も来ていなかった。そこで4時にクラブの音を止め、そのまま外で音を出すことにした。

午前4時過ぎ、夜明け前の辻堂海岸は薄いモヤがかかり、全てにブルーの幕がかかったように幻想的だった。海には昨夜の雨を降らせた雲の残りが、まるでマグリットの絵のように切れ切れに浮かんでいる、その背後には濃紺の空が広がり、ところどころに消えそうな星が瞬いていた。最初のDJはチルアウト系のDJで、とてもスムーズにその場の雰囲気に合わせたトラックをプレイする。湘南の海は、海に向かって左後方の三浦半島の奥から日が登る。DJが30分ぐらい雰囲気を作った頃、薄靄が白っぽくなり周囲が明るくなってきた。驚いたことにその日の海はグリーンがかった青、湘南でも冬にはよく見ることができる少しくすんだターコイズブルーだった。雨上がりの海岸の夜明け、遠くの雲がこれから登る朝日を受けて紫からオレンジに輝き始め、空は青白く輝こうとしていた。僕は目の前に広がったこの世のものとは思えない景色に声を失った。その時アコースティック・ギターの印象的なイントロがフェードインしてきた。DJが"Offshore"を最高のタイミングでプレイしたのだ。あの流れるようなストリングスの展開、どこかへ誘うようなピアノ、静寂の中に響いたブレイクでのアコースティック・ギターのリフ、僕は信じられないような景色を前に言葉を失った。この奇跡のような数分間の間にも空も雲を色を変え、背後から抜けるような青さが覆い被さってくる。ああ、いま僕の目に映っている景色はもう二度と同じ姿を見せてくれることはないのだろう。

当たり前のことだが、この世に同じ日はないし同じ空もない。いまこの瞬間ですら全ては動いている。このパーティーはそんな当たり前のことに気付かせてくれた。音楽に合わせて自分の身体をコントロールしてダンスすることは思考をドライブさせてくれる、そのあいだ自分自身との対話を続けることで自分でも気が付かなかった自分を見つけることがある。正解も求めるものも自分の中にあるのではないだろうか。外の世界を知ろうとするのではなく、自分の中にある何かを探るために音楽はあるのかもしれない、そして枠や既定を超えて向き合わないと答えは出ないのかもしれない。いや多分答えは出ないのだけれど、求め続けないと先に進まない。僕は週末ごとのパーティーライフでそんなことを考えていた。それがまさに"耳が開く"感覚だった。音楽はジャンルやカテゴリーを超えたところにある何かを感知することで響き方が全く違ってくる。基準を自分の心に定めることであらゆる音楽が等しく、それぞれのテーマがダイレクトに伝わってくる。もちろん自分の経験や時代からは自由になれないが、その中で自分が真実だと思える音楽に触れたいと思う気持ちは無くならない。

そんなことを考えた僕は2002年あたりから自分の音楽を試す機会を増やしていく。平日の渋谷でワイン・バーのBGMのDJをやったり、気の合う友達と一晩中音楽を聴いて語り合ったりした。そこではあらゆる音楽が"耳が開いた"状態で聴き直された。さらに週末の昼間、茅ヶ崎のビーチに小さなサウンド・システムとDJブースを持ち込んで海に向かってDJを始めた。告知などはしないで、友人のみに連絡をして昼から日没まで自由に音楽をかけ続けた。人がほとんどいない12月の初旬の海でひとり海に向かってDJをやっていたこともある。もちろん98年のイビサのCafe Del Marでの体験も大きく影響している。奇跡的に素晴らしい日没を毎日見ることができるあの場所で、本当に日が沈む瞬間のたった30~40分にどんな曲をかけるのか、そんなことに本気になれるのもパーティーが耳を開いてくれたからだ。

当時は地方にDJで呼ばれることも多く、地方のオーガナイザーやDJにどうしたらもっとシーンを盛り上げることができるかとよく聞かれた。その時僕はクラブを借りてパーティーをやるんじゃなくて、小さなサウンド・システムでいいから自分たちが好きな場所で自分たちが楽しむためのフリーパーティーをやるべきだ、とよく言っていた。自分たちが本当に楽しめたら、そこに自然と人は集まってくるし、何よりもDJになるのではなく音楽を自由に楽しむことができたら次の展開が見えると思うよ、と。そんなことを各地で繰り返し言ってるいるうちに福岡でDJをやっていた友杉くんからビーチでフリーパーティーをするから来てほしいと連絡が来た。

福岡の中心部から車で30~40分、奈多海岸というビーチでそのパーティーは開催された。そこに集まったのは20人ほどだろうか、誰もいない海岸に小さなDJブースとスピーカー、それで充分だった。夜中から夜明けまではトランスを中心にプレイして、完全に夜が明けてからはフリースタイル、その頃にはもう数人の身内しか残っていないけど最高のパーティーだった。その日、パーティーの終わりに見慣れない男が僕に声をかけてきた、それがNECOくんとの出会いだった。あれから20年、NECOくんもパーティーをやり続けている。今週末は久しぶりのビーチ・パーティー、タイトルは『Offshore』、この20年間追い求めている感覚を逃さないような音楽をプレイできたらと思う。

チケットの予約はこちら
https://t.livepocket.jp/e/lbyun

Analog Journey presents. -2024Offshore-

YODA -Sunset DJ set-
-Analog Journey DJs-
Blue-S
BOLASAN
CONURES
DJ NECO
KAMEKAWA
and more.
Advance : Limited 50

最寄りバス時刻表
https://timetablenavi.keikyu-bus.co.jp/dia/timetable/web/railmap/tokyo/
乗車日付:2024年8月24日
、乗車停留所:三崎口駅(→油壷温泉行き)
▼近隣駐車場
油壺の市営駐車場に車を停めて、そこから徒歩約5分が会場となります。

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