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狼と塩

タイトルは、Wolfship Designで企画中の甲州印伝に使用しているデザインの名称です。このデザインは今年の2月の朝、出勤してデスクについた時、何の気なしに狛犬の図案化されたものを眺めていたことから生み出された、言ってしまえば思いつきでした。狛犬のデザインを見つめているうちに「これが印伝になったら良い感じなのではないか?」と。そういえば印伝なら、かつての協力隊の仲間でもあり狩猟の仲間でもある人が関わっていたな。聞くだけ聞いてみようかな。と思い早速メッセージを飛ばすこと数分、返ってきたのはとんでもないフットワークの軽さで「11時くらいから打ち合わせしよう」といった内容。それが同時にWolfship Designの始まりでもありました。

思いつきを投げてみた2時間後の打ち合わせでは、私のへたくそな手書きの図案を「いいじゃん。」の二つ返事で打ち返され、更に早速翌日に「印伝の山本」さんとの打ち合わせまでセッティングしてもらうことになります。そしてこれをきっかけにブランド化も進めることになったのです。

思いついた図案は阿吽の狛犬(狼像)だけでなく、それを見て連想した「塩」の存在。丹波山村には、狼との交流を塩の話に窺うことができます。狼の好物と伝承された塩は、送り狼に対する返礼品であり、追い落とされた鹿肉の分け前を貰う場合の対価でもありました。大菩薩峠を越えて物々交換をしていた時代には、相当に貴重なものであったでしょう。そこには畏れと敬い、しかし親しみも感じられます。塩の結晶は様々な形をするようですが、基本形は四角であるというところから、サイコロのイメージも重ね合わせました。これは七ツ石神社のお祭で賭場が開かれていた話を元にしつつ、裏表で「七」になる、「災(ヲ)転(ジル)」という語呂合わせの縁起の良さも掛けてあります。「狼と塩」のデザインは、丹波山の狼との繋がりを凝縮した世界観なのです。

そんなこんなでリモート会議の後、革の色や漆について等を相談するため「印伝の山本」さんと直接打ち合わせする段階に。お声がけさせていただいた時からかなりノリ良く進めてくださった担当の方とは、お会いするのも初めてでしたが、そんなことを感じさせないくらい話しやすい打ち合わせでした。Wolfshipのテーマカラーは、画家玉川麻衣さんの描く七ツ石山に「夜の山の色」を見て即決。様々色見本を見比べて、これだと選んだのは「紺青」それは奇しくも「狼色」と呼ばれる種類にも属しており、印伝の革もそれを意識して選びます。

「この色だと、もうじき来る夜明けの天気は曇りっぽくないですか?」の問いに「確かにこっちの方が明日は晴れそうって思えますよね。」と返してくれる担当さん。事務所で初の打ち合わせに「塩の四角を台形で囲んで表す」という話になった時、私が「台形・・・富士山の形にもイメージ重ね合わせられる!」と腰を浮かすなり「言うと思った!」と言ってくれて、「この仕事最高だな。」と思うと共に、必ず良い物が出来ると確信させてくれました。

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Wolfshipの名前も、ふと浮かんでしっくりきたもの。全くの思いつきであるようで、妙にストンと心に納まる事柄は、なんだかいつも緩やかな追い風の中にはためいてくれているように思います。それを在るべきタイミングで掴めた時、更なる力で押してくれる皆のおかげでちゃんと形に成る。

再建から始まった狼関連事業。まだまだ登山道は続きます。

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