成長期に気をつけたい疾患
ウルフハウンドの子犬は生まれて最初の1年間に急成長を遂げ、600g程度で生まれた子犬が12カ月後には60kg前後にもなります。生後3カ月から半年過ぎまではとくに急激に成長し、その成長の速さは、毎日体のどこかが大きくなる様子が文字通り目に見えるほです。それだけの速さで成長することもあり、成長過程ではさまざまな体のトラブルや病気が出やすくなっています。
とくに骨や関節のトラブルが起こりやすく、注意が必要です。怪我や衝撃が原因になることもあるので、月齢に見合った適切な運動(激しい運動や長時間の運動は避ける)と適切な体重の維持(太り過ぎには注意)を心がけ、なるべく急成長中の体への負担を減らし、予防するようにしましょう。成長期をすぎると症状が消えるものもありますが、成長後にも骨や関節に影響が残る疾患もあります。
以下では、成長期アイリッシュ・ウルフハウンドにみられる疾患・症状をリストアップしました。PCD、FCE、びっくり病(Startle disease)は、ウルフハウンドに特異的あるいは他の犬種とは典型的発症時期が異なる疾患です。疑わしい症状がみられた場合の参考としてください。
PCD 原発性繊毛異常
先天性の病気で、生まれた直後から鼻汁が出るなどの症状が出始めます。肺炎に移行し若いうちに亡くなるケースが多い病気です。→詳しく読む
PSS 門脈シャント
先天性の病気です。生後8〜10週頃に子犬の全頭検査をすることが推奨されていますので、ブリーダーに確認しましょう。成長とともに症状が強まり、手術が適応でない場合は安楽死も選択肢となります。症状があまりなく、1歳まで成長できた場合は、2〜4歳まで生きられることもあります。治療と食事の管理(たんぱく質制限など)が必須になります。→詳しく読む
Startle disease びっくり病(驚愕症)
先天性の病気で、生後5〜7日頃から症状が出始めます。出生児の低体重のほか、筋肉のこわばり・痙攣・呼吸困難などの症状が出ます。QOLの低さから多くは生後1カ月以内に安楽死となります。
現在はDNA検査が可能です。約2%、50頭に1頭のウルフハウンドがこの病気の遺伝子のキャリアだとされています。
FCE 繊維軟骨塞栓症
他の犬種では幼犬での発症は稀ですが、アイリッシュ・ウルフハウンドでは生後6〜16週頃に発症します。突然倒れる、立ち上がれない、歩けないなど、脚の麻痺の症状が出ます。痛みは発症時を除きほとんどないと言われています。診断は、他の疾患を除外したあとMRIなどで行います。十分な回復には発症から24時間以内の治療(投薬)開始が望ましいため、FCEが疑われる場合はすぐに動物病院で診察を受けてください。リハビリなどの継続が必要になります。→詳しく読む
HOD 肥大性骨関節症
生後3〜6カ月頃に発症します。脚の骨の成長板に炎症が起こる病気で、痛みと跛行が主な症状です。不活発/無気力、食欲低下、発熱などの症状もしばしばみられます。診断はレントゲンで行います。一過性で、成長期をすぎれば治ることが多いですが、繰り返し症状が出た場合には成長後も骨に影響が残ることがあります。治療は、投薬で痛みを抑えることが中心になります。運動制限をし、ゆるやかな成長を促すバランスのとれた食餌を心がけてください。
OCD 離断性骨軟骨炎
生後4〜10カ月頃に発症する、軟骨の破片が関節に入り込んで起こる疾患です。痛みと跛行が主な症状です。痛みの抑制(投薬)と運動制限をします。バランスのとれた食餌も大切ですので、とくにカルシウムの過剰には注意してください。重度の場合は外科手術が必要になります。→詳しく読む
Pano 汎骨炎
生後6〜18カ月に発症し、痛みと跛行が数週間続きます。診断はレントゲンで行います。一般に「成長痛」とも言われ、成長期を過ぎると回復します。症状がある間は痛みの抑制(投薬)と運動制限をします。
前足の開き
急成長期以降の子犬・若い犬、とくにオスで多くみられます。立った時に前足の手首(パスターン)から先が外側に開くようになります。また、手首から下の足の傾きがなくなり(パスターンが下がる)地面にべったり着くべた足になったり、足指の握りが甘くなることもあります。1歳すぎになり筋肉が発達してくると改善していくことが多いですが、症状がひどい場合には成犬になっても治らない場合もあります。足や関節のトラブル・痛みにつながりやすいので、引き続き運動量と体重の管理に努めてください。日常生活では、階段や大きな段差(車高の高い車、ソファなど)の上り下り、とくに飛び降りをさせないようにします。室内では滑りやすい床を避ける、運動はできるだけアスファルトなど固い地面を避けて行うようにします。
改善や予防のために、生後3カ月から9カ月頃までの急成長期の間、ビタミンCを投与するとよいとされます。アスコルビン酸粉末を1日1000mg、食事とともに与えます。
脚の変形(脚の長い骨の湾曲)
大型犬では、成長期の過剰なカルシウム摂取が成長障害を引き起こし、骨の変形などが起こることがわかっています。脚の長い骨が変形し湾曲したり、左右の脚の長さに差が生じたりするため、症状がひどい場合は跛行するなど歩様に影響します。ドッグフードを与えている場合には絶対にカルシウムを追加しないでください。
肘腫
肘関節の後ろ側に柔らかいコブ状の膨らみができる症状で、幼犬〜若犬に見られます。コブに傷や感染などがなければ、とくに治療は必要ありません。→詳しく読む
胃捻転
1歳未満での発症例はないとされていますが、食事の後に激しい運動をしないなど、胃捻転の予防策は子犬のうちから生活習慣にするとよいでしょう。→詳しく読む
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