ピラニア3D

 これは劇場でやっているときは気にはなっていたのですが何故か観に行かず、その後良い評判が聞こえてきたのでいきなりブルーレイを買って観ました。「ピラニア3D」でございます。ブルーレイは「ピラニア」というタイトルになっているのですが、「ピラニア3D」の方が正式タイトルのようですね。3Dで観ていなくても3Dなのは変ですが仕方ありません。そもそも3Dがつかないと、ジョー・ダンテさんの「ピラニア」と区別がつきません(他にも同タイトルの映画はありますが)。

 監督さんはアレクサンドル・アジャさんで、フランスのホラー専門と言っていい監督さんでしょう。「ハイテンション」と「ヒルズ・ハブ・アイズ」、あと「クロール -凶暴領域-」くらいしか観ていませんが、なかなか容赦ない残酷描写をなさる方で、観る方もけっこう心して観ないといけません。

 が、こちらの映画はリメイクということもあってか、80年代が蘇ったかのような気楽に観られるコメディ・ホラーになってまして(ホラーと言うか厳密には動物パニック映画なのでしょうが)、残酷描写もえげつないんですが、ちょっとマンガチックになっていて、そこまで不快にはならないんではないでしょうか。

 お話は地震が原因で地底湖と湖がつながって絶滅したはずの太古のピラニア群が溢れ出し、人間たちを襲い出す、という定番過ぎるほど定番な感じになっています。折しもスプリング・ブレイクが開かれて水着のギャルたちや頭の悪そうな(そして実際に悪い)男たちが大挙して押し寄せ、昔ながらのホラー映画よろしく、モラルの低下に対する見せしめのように犠牲になっていきます。と言うかそのような意味合いももう形骸化していて、アホな若者が殺されていくのが様式美のようになっています。

 町の保安官役でえらいガタイのいい女優さんだなと思ったら懐かしいことにエリザベス・シューさんで、その息子がスティーブ・マックイーンの孫とかで、この二人を軸に映画は進んで行くのですが、冒頭のゲスト出演としてリチャード・ドレイファス(「ジョーズ」のあの役と同一人物かと思わせるようなお遊びあり)や、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドク役のクリストファー・ロイド、またおいしい役で「ミッション・インポッシブル」シリーズなどでお馴染みのヴィング・レイムスが出ていたりして、けっこう豪華かつB級映画ファンには嬉しいキャストとなっています。

 で、内容なんですが本当によくある動物パニックものの定番にそった作りと言いますか、ことが起こるまでが適度にタルかったり、意味も無く女性の裸が出てきたり、キャラクターが本当に馬鹿っぽくて死ぬ人は出てきた瞬間から「ああこいつ死ぬな」と分かったり、なんか凄く懐かしい感じを覚えながら観ました。

 それでクライマックスのスプリング・ブレイクでの大虐殺なんですが、ここの規模だけは現代の技術と言いますか、今でしか成し得ない見せ場になっていて、油断していると本当に度肝を抜かれます。ピラニアの描写こそはCG丸出しなんですが、それに食われた犠牲者の方は特殊メイクで見せることにこだわっていて、その傷メイクのリアルさには驚かされますし、本物の脚をCGで消して、ごく普通に足をズタズタに食われたかのように見せたり、それらが集団パニック状態になった状況で、演技からシームレスでグロ描写が飛び出すので、凄い迫力になっています。とは言え、やっていることは大層な音楽をかけて水の中から逃げるのを映しているだけで、大した事はやっていないのです。そういうところもなんだか昔の映画っぽくて面白いんですが、それでこれだけの時間見せるわけですから、なんだかんだでアジャ監督の手腕はかなりのものであると思いました。

 特にみんなが水から水上ステージのようなところに上がって、あまりに人数が多いものですからステージが傾いてまた水の中に落ちるところとか、爆笑してしまいました。どこのお笑いウルトラクイズだよ、とか思ってしまいました。そういったたけしイズムを感じさせるところから日本語版吹き替えに出川哲朗さんとか起用されたんでしょうね。吹き替え版は観ていないので演技に対する評価は出来ませんが。

 ただあまりに人間たちの馬鹿っぷりと、無意味なエロと、死にっぷり傷つきっぷりが素晴らしいので、肝心のピラニアの影が薄いというか、そこまで強烈な印象が無い感じがしました。物語上はピラニアが人間を食う話ですが、出来上がってみたら人間たちにピラニアが食われてしまったという印象です。

 面白いけど一見完成度が低く見られがちな映画ですが、明らかにアジャ監督の他の映画とは演出のトーンが違いますし、意図的にやっているのは間違いありません。そういう職人的手腕があることからリメイク映画を多く任されているということもあるのかなーと思いつつ、今回はこの辺で。

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