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22分

こまごました作業。
ぶつぶつと沸き立つ鍋の中から、
踊るオレンジの皮とつぶを避けて、
浮いてくるアクを取り続ける。

わたしはこの作業がいっとう好き。

じっと鍋の前に立って、
じっと鍋の中を見つめて、
じわりと滲んだシミのようなアクを、
ひたすら何度も掬い上げる。

たぶん、
ひとが死ぬのもこういうことだろう。

神様は人間が「アク」になると、
鍋の中から取り除く。

でも、だとしたら。
神様、最近は鍋の中を見ていないんだ。

こうして自分より上等なオレンジを、
ひたすら熱して、
徐々にとろみを帯びてくるそれを、
わたしはじっと、
ただじっと眺めている。

ちいさなスプーンでせせこましくアクを取りながらわたしは、まだ生きている。

#小説

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