オレンジの皮には農薬がついている。
煮沸消毒も十分だろうと、踊る皮をザルにあけて、触れる程度に冷ます。
きっとこの過程は、人間の死ぬのと同じだろう。
人間は何度も失敗し、
その度に死に、
そして生き直しているのだろう。
であれば、
前回の生の記憶、
その失敗の記録を保持していてもよさそうなものだ。
けれど実際はそうでない。
煮えている間に溶け出てしまうんだ。
オレンジの皮がしんなりと湯気を立て、
覗き込むわたしの目をつつく。
きっとほんとは、
誰も生きることなんて望んでない。
熱され乾いた眼球にうすい膜が張って、
じわり、と水分を補給する。
マーマレードはまだできない。
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