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「女の子はどう生きるか」 〜感想〜

上野千鶴子著、岩波ジュニア新書、感想

今更読んで、目が覚めた:

高校生向けの岩波ジュニア新書だが、むしろ大人が何度でも読んだらいい。誰しも将来「娘」の親になりうるのだ。社会の権利を、健康な男性と同等に行使できぬ人間が、人口の半分以上いる。きっと今、あなたの家族の中にも。

今回、生まれて半世紀のnote筆者にとっては、遅すぎる読書だったが、目が覚めた。20年近く、自分が仕事と家事育児雑用のジャグリングに苦しんだ理由が、この本で初めて理解できた。女性も男性も含め、日本社会が変わらなければ、これからも「娘の翼」だけでなく「日本全体の翼」を折り続ける何十年もが待っている。

娘の翼を折り、国ごと損している:

女性の翼が折れるタイミングは何度も訪れる。受験、就職、結婚、出産、再就職、介護、老後などの「節目」の時だ。

そして、note筆者が半世紀、フルコースで「娘・学生・社会人・海外勤務・母親・妻・嫁」を経験してきてわかったこともある。それは、どの節目でも、

女性が100メートルを走ったら、男性の50メートル走のタイムと比べられ「大したことないですね」と言われる。女性が倍速で走って初めて「ああ男性と同等の能力をお持ちのようですね」と評価されることだ。

この状況を伝統や慣習として「当たり前」「仕方ない」と流してきた。実は、少し頑張るきっかけにもなってきた。でも、頑張りは永久には続かない。頑張りが続くか不安になる、人生の節目ごとに、

「自分も諦めて専業主婦になるしかないのか、世の女性たちはなぜワンオペ家事育児に耐えているのだろう。世の夫たちがちゃんと稼ぐからできているのかな」と考えていた。でも違った。実際、

2000年以降の日本では、1世帯当たり平均所得金額は減少し、税収も低下してきた。

(夫)「君を養うから、僕は仕事に行って稼いでくる。掃除洗濯炊事育児介護買出し雑用、はよろしくね」。

(妻)「えー???」と、夫も妻も負け博打だった日本経済低迷の30年。

「伝統」とは「根拠のない思い込み」:

世の中には、「疑うべき当たり前」がいくつもあることを、この本は明文化している。

法制度が民の平等を保障しているはず。でも実は建前だけ。そもそも立法は男性議員が9割を占める国会の機能だから、女性の意見が反映されるわけがない。

雇用機会均等法で男女平等に登用したから職場はすでに男女平等のはず。でも女性の平均賃金は男性の75%程度国家公務員の数の男女比は男性7:女性3程度

女性だって頑張れば報われるはず?でも、上場企業役員の94%以上が男性、頑張りは報われなかった。

伝統的な流れだから当たり前。。。。なら伝統って何?上野千鶴子氏は、この書の中で伝統を「根拠のない思い込み」と定義している。え?!

法律は平等を叶えるのか:

note筆者は50歳になって法学部に入学、「18歳から考える 家族と法(二宮周平著、法律文化社)」を読んだ。女性・若者・子供の意見が反映されないまま、男性の為政者や、立法担当者によってできた法律が現代社会制度の土台であると気づいて衝撃を受けた。夫婦同氏(民法750条)もしかり。

そして、どうやら法律とは、必ず発生してしまう権力者の暴走、暴力、格差などを克服するための文章らしい。文書化しても人は忘れ、人の権利はたやすく蹂躙される。

家事・育児・介護はタダ働き!?:

日本女性にとっての結婚は、9割以上の確率で、フルタイム勤務以上の時間を使って家事育児を行う「無償労働」者への第一歩。未就学児がいる家庭では、母親の家事育児時間が一日あたり7.5時間程度、というデータがある。これは夫の5倍以上。家事は1年365日休めないから、年間2000時間超!!

上野氏のような聡明な女性は、この知識があって結婚を避けているのか。他方、日本で結婚して家事育児介護する女は自業自得、なのか。

損の概算、5兆円!:

上野氏は著書で、「研究の視点が多様化」して「イノベーションが生まれる」点を指摘して、「女性の社会参加に意義があるし、女性参加を阻むことで社会全体が損をする」と述べていた。なるほどー!

さらに、note筆者目線だが、経済価値で考察すれば、大人1人が正規職員(一人当たり年収500万円程度と仮定)として働けないために、雇用者と被雇用者が拠出し損ねる「所得税+ 地方税+ 社会保障料」は一人年間100万円程。

正規就労を希望するのに、ワンオペ家事育児介護などのためか、非正規労働する女性が国内に約1400万人いる。このうち500万人が正規労働者になると。。。年間約5兆円の「税収+保険料収入」が雇用者と労働者から追加で拠出される。これを放棄してパート就労しかさせないとは、国ごと損していないか。

配偶者控除はトクではない:

結婚とは、女性の時間をフルに奪う「就職」なのだと、事前に知って結婚する女性がいるだろうか。婚約者同士の議論がないまま「当たり前だから」と女性が96%の確率で姓を変え、ルーツを失い、社会的経済的損失を背負う。しかも、70年間の無償家事労働を開始する。(なぜ70年間か、は後ほど)。

配偶者控除があるではないか?いや、稼得者から見れば、配偶者控除の価値は限りなくゼロ。具体的には、配偶者控除の年間最高控除額は38万円。日本の母の家事育児所要時間は年間2000時間(上述の通り)だから、

時給190円!

この評価で「養なってやっているから家事をよろしく」とは言えない。

「夫のママ役、70年」の時代:

母親が子供のママとして世話をする期間は子供一人当たり約20年。それは頑張れるか。でも、寿命が約100歳に延びた現代、ナニナニ、夫を世話する期間は、

70年?!

夫のお世話って、すーごーく時間がかかります。男性並みの家事能力者であるnote筆者は、ワイシャツ1枚のアイロンに30分かかる。仕事と、子供と、自分の用事だけでも1日10時間はかかる。その他に夫の世話までは手が回らないのは火を見るより明らか。

「結婚は一生の誓い」って、平均寿命が40代の19世紀には思えたのかも。でも今は70年間の長期戦なのだ、と上野氏の著書で初めて気付かされた。

時代を言語化した文章は、当事者として振り返ると、身に染みる。

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