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「女の子はどう生きるか」 第2章 その5

上野千鶴子著、岩波ジュニア新書、要旨

第2章 家の中でモヤモヤするのはなぜ?


 多様な生き方を支援する仕組みって?

Q.うちはシングルマザーの家庭だが、母には定職があり、父もいい人なので養育費ももらえていて経済的な困窮を感じていない。しかしそれはめずらしくて、シングルマザーの家庭は進学も厳しいところが多い。もっといい支援の仕組みはないのか?

A.ふーん、お父さんは「いい人」なんだー?お母さんは離婚したときのほうが、ストレスフリーで幸せになれただろう。しかし、離婚したとたん、大概の女性は貧乏になる。シングルマザーの家庭の平均年間収入は約214万円、貧困率は51%。それは結婚・出産をしたときに仕事を辞めているケースが多いから。

低所得が原因で、夫がDVをしても、ストレスがたまる生活でも、結婚生活に耐え続けざるを得ない女性は多い。ところで、DV夫は、結婚当初からDVをするのではない。仕事のストレスや失業など、環境の変化で、いつしか「俺のいうことを聞け」と暴力を振るうようになるのだ。

あなたのお父さんが「いい人」で養育費を払ってくれるというが、夫婦が離婚しても親子の縁は切れないし、支払いは当たり前のこと。でも多くの離婚父は、月間平均約4万円の養育費ですら、三年もたつと支払わなくなる。他国を見れば、 例えば北欧では別れた夫の給料から国が養育費を天引きしてくれるシステムがある。(note筆者:米国では、日本の父親に課されるよりも、桁違いに多い養育費の支払いを命じられ、支払わなければ告訴される。)

日本の法律は、男性が責任逃れをしやすいように作られている。例えば、在学中に妊娠した女子学生は退学になるのに、その相手の男子学生は逃げることができてしまう。こうして日本の男性は、若年期から無責任を覚える

制度を変えるには選挙に関心を持つことだ。若者たちの意見を政治家に届けよう。18歳選挙権は目の前だ。

 別姓で生きるということ

Q.どうして日本では夫婦別姓が認められないのか?

A.夫婦の姓は、タテマエ上は、夫のものでも妻のものでもどっちでもいい。だから、いくら裁判で訴えても受け入れられない。ただし、タテマエの法律と違い、現実的には結婚するカップルの9割以上が夫の姓を名乗っている。

姓の選択は、決して男女平等ではない

法律と現実の間には常にギャップがあり、タテマエ上は平等でも実際に姓を変えるという不利益を被っているのは女性。それでも最高裁は裁判を起こされても、女性の不利益を考慮しない。なぜか。よく見れば、現在最高裁の判事は15人中3人が女性のみ。2015年の判決でそのうち10人が夫婦同氏を合憲、5人が違憲とした中で3人の女性判事は全員反対意見を出した。(note筆者:2021年現在は、最高裁女性判事は2名に減少?)。

もし判事の女性比率がもっと多かったら、判決は変わっていたかも。ちなみに法学者の間では、夫婦同氏の強制は違憲であるとする説が圧倒的である。

それでもなぜ女性が夫の姓を選ぶのか?結婚相手を探す時、自分よりも三高の男性をさがしていないだろうか。女の子は男に「選ばれた」とカッコつけたい女性は多い。だから対等ではなくなってしまう。

ちなみに朝日新聞の世論調査では、夫婦別姓選択制を支持する人は69%に上る。夫婦別姓が「強制」ではないのに、反対する人の理由は「家族の一体感が壊れるから」らしい。しかし、同姓でもバラバラの家族もあれば、姓が違っても仲のいい家族だっている。自分が認めないことは、ほかの人にもやらせない、という押し付けでは?

 お墓って重い

Q.婿養子をもらって、先祖代々のお墓を継いでほしいといわれる私たち娘二人。お墓って必要なのか?二人とも独身ならどうなるの?

A.お墓を守るのは、それを受け継ぐ人にとって守るに値する実体があればこそ。しかし、そもそも「家族伝来の墓」とは伝統なのか?実は「先祖代々の墓」が現れるのは、せいぜい江戸末期から、と歴史は浅い

墓には、誰かを犠牲にしても守らなければならないほどの価値があるのか

先祖代々の根拠となるイエとか「姓」だって、こだわる価値はそんなにない。日本人の8割は、明治時代まで「姓」を持っていなかった。また、日本に墓が多いのは、20世紀に人口が増えたのが理由。とにかく墓も姓も歴史が浅い。また、日本の「夫婦同氏」は、女性差別の解消を妨げる原因として、その解消を国際機関から何度も勧告されているのを、(男性中心の)日本政府が聞き入れていないのが実態。

親が一番うれしいのは子供が制度の犠牲になる姿を見ることではなく、子供が幸福に人生を送る姿を見ること。自分の人生の選択肢を狭めないで。

(note筆者:そもそも、この書籍では冒頭部分で、「伝統 = 根拠のない思い込み」と定義されていたことを思い返す。)

 介護するのは私ですか?

Q.老後はよろしくね、という母。老後のために私を生んだのか?結婚したら夫の両親のお世話も私がするのか?

A.娘は自分のもので、老後の介護要員だ、と特に母親は思う傾向にある。実は、男尊女卑の意識の強い東アジア諸国の中で、日本では「一人子供を産むならば娘がいい」と答える人が過半数を超える、珍しい国。このアンケート結果は、1987年頃を境に「息子がいい」から逆転した。

なぜか。それは、女の子は言うことを聞いてくれるし、老後の面倒も見てくれると考えているから。かつては経済的支援を期待して、男の子を好む傾向があったが、今は違う(note筆者:2000年代以降、世帯あたりの可処分所得は減少してきたし)。

とはいえ、2000年に介護保険法が施行され、公的支援の選択肢ができたため、直接(娘など)家族が老人介護をする必要は減少した。親を見送った後で、死んだ親を怨むほど親子両方にとって悲しいことはない。良い親子関係を作っておこう。


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