娘への手紙~あなたが笑い方を忘れたときに読んでほしい~
なんであの時、私はあんなに死にたかったのだろう?
なんて呑気に思えるくらい、いま母さんは幸せな毎日を送っているよ。
30年前の2歳だった母さんは、天真爛漫で誰にでもニコニコ話しかけるような子どもだったらしい。
それがその10年後には、世界に退屈しきった冷めた子どもになっていた。
その2年後には、いつも「死にたい」と願う人になっていた。
そこからさらに10年以上、「死にたい」と願い続ける時間が続いた。
今隣で眠っている2歳のあなたは、むちむちの体型や天真爛漫なところが幼いころの母さんにそっくりだと、あなたのおばあちゃんは言う。
ということは。
こんなに毎日楽しそうに過ごしているあなたも
若い頃の母さんと同じように、10年後には世界に退屈してしまう可能性があるかもしれない。
母さんと同じように20年近く辛い時期を過ごすことになってしまう可能性があるかもしれない。
人間、生きている限り何があるかわからない。
あなたの幸せそうな笑顔をずっとずっと守りたいと母さんは思うけれど、親の力だけではどうしようもないことも、この先出てくるでしょう。
でもきっと、あなたが母さんに似ているのならば
いつか辛い時期から抜け出して
「なんであの時あんなに辛かったんだろう?」なんて辛かった理由が思い出せなくなるくらい、たくさんの幸せに気づくこともできるようになるはず。
どんなに辛い日々を過ごしたとしても
「生まれてきてよかった」
「生きてきてよかった」
と思える日が来るはず。
とはいえあなたと母さんは違う人間だから
あなたが若い頃の母さんと同じように辛い思いをするとは限らない。
仮に辛い思いをしたとして
それを母さんと同じように乗り越えられるとも限らないのだけれど
あなたの半分は、本当に心優しい父さんから受け継いだものだから。
だからきっとすでにあなたは「ありがとう」をよく言う子になっているんだろうし
よく食べてよく遊んでよく眠るんだろうし
笑い声がびっくりするほど大きく響くんだろうし
誰にでもニコニコ手を振るんだろうから
だからさっきはあんな風に書いてはみたけど
実はそこまで、母さんは心配していなかったりするよ。
あなたは美味しいものを「おいしいね」と言って
食べて笑うことのできる、幸せ体質を持った子だから。
だからたとえ、いつか笑顔を忘れてしまう日が来たとしても
また笑える日が来るから。大丈夫だから。
あなたは幸せを感じることのできる豊かな心を持った子だから。
それはあなたの父さんと母さんが、よく知っているから。
自分のことが分からなくなった時には、これを読んでほしい。
あなたは大丈夫。いつでも母さんと父さんはあなたのことを信じている。
そして、いつまでもあなたの幸せを
あなたの側で願っている。