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第8話 「家族だけ」は意外としんどい。いろんな人の手が加わって、作物も子どもも育っていく。〜嶋村真友子さん/新潟県十日町市

世代を超えて見えてきた、視点


「どうしたら、子育てしながら自分らしく働き続けることができるのだろうか」

そんな私たちの悩みからスタートしたこの特集。

第1話では雪の日舎の女性メンバーの座談会をお届けしました。その中でも、佐藤が小さな子どもを育てながら農業を続けていくにあたり、さまざまな壁や悩みにぶち当たったこと、いまもあり方を模索しながら働いていることをお話しました。

第2話からは、農業に携わる女性たちがどんな思いで、どんな工夫を凝らしながら、この雪国で農と子育てを両立してきたのか。

それぞれの年代別に聞いてみました。

今回お話を聞いたのは、「農業」に携わる女性でしたが、皆さんが共通してお話してくださったことからは、直接「農業」に関わっていなくても、どんなお母さんの心にも響く大事な視点だったなと感じています。

まずはすでに子育てもひと段落した、先輩お母さん世代に当時の女性の働き方と子育てのサポートについてお聞きしてきました。

続く第6話からは、現役子育て世代のお母さんたちに、今日までの葛藤や工夫を含めたリアルな心境をお聞きしてきました。

続く第8話では、十日町市出身の嶋村真友子さんにお話を聞きました。
もともと小さい頃から農ある暮らしのそばで育った嶋村さん、結婚し、夫がたまたま農業の道へ導かれることになり、自身の暮らしも自然と農がより身近なものへと変化していきました。

「自然体で子育てできる」若手は山へ。実父母は街で。

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「上の子は3歳になるまでは一緒に過ごしていました。下の子も1歳半くらいまでは一緒にいましたね。子どもと畑に行くというよりは、家の目の前が畑だから、その辺で遊んでいたと言ったほうが近いかもしれません。下の子は男の子だからか、土とかよく食べていましたね〜。」

そう話し始めた嶋村さん。

お子さんと一緒に過ごしていた幼少期のお話からは、自然体で暮らしのなかに子育てがある、というイメージを受けました。

「そういった過ごし方がよかったのか、いろんなところに連れて行ってもギャーギャー言うことがないんですよね。それは普段のストレスが少ないからかなと思っていて。どんな会議とか大人の集まりに連れて行っても、騒いだりしないから、どこにでも連れて行けるんです。普段の暮らしのなかで『静かにしなさい』ということもないから、発散されているんだろうなぁと思っています。

別に人見知りして静かにしてるわけでもなく、大人が会議している横でお絵描きして静かにしてたり。」

なんだか、とても大人びているお子さんだなぁと感じますが、その根っこには普段の暮らしのなかで自分自身が家族や自然から受けとめられていて、満足感があるからこそなんだろうと感じます。

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それでも、子どもと両親二人では、調整できない時間というのもあるのではないでしょうか。

「農繁期で忙しいときとか、下の子が生まれたときとかは、十日町の市街地に住んでいる私の両親に来てもらったりしてます。夫の両親も元気なので、来てもらうこともありますし。

出かけなきゃいけないときも預けたりもするし、実家が市内にあるというのはすごく助かっていますね。

だから、若手が山、実父母が街っていうのはいいなぁと。動ける人が山暮らし、動けなくなったら街暮らしっていうのは、結構いい暮らしかたなのかなって思っています。」

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「私はなにする?」やってみて、軌道修正する

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そんな嶋村さん一家。現在はお子さん二人とも保育園に預けています。

その理由について、聞いてみました。

「保育園に預けた一番の理由は、他の人と関わることができるから。

この辺の課題って、周りに子どもがいないことなんですよね。

それと、もう一つの理由は、私自身が農業もしっかりやってみたかった。専業農家としてやっていけるのか、試してみたかったんですね。」

実際に、嶋村さんはワンシーズン、旦那さんと二人で農業をがっつりやってみました。その結果……

「夫婦で畑をずっとやっていくのは難しいなって思いました。二人がメインでやっていくというのは、私たちには合わなくて。農業はてこ程度でいいのかなって、やってみて思ったんですね。」

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実際にやってみて感じた違和感。

その気持ちに素直に、自分のあり方、夫婦のあり方を見つめ直す。

第7話で宮原さんが話していた内容とも重なります。

お二人に共通するのは、そのときどき、環境や自分自身の心に素直に、しなやかに変化していくたくましさと柔らかさなんだろうなと感じました。

「今は訪問介護の仕事をしているんです。母がホームペルパーをやっていたので、『面白いよ』という話も聞いていて。資格もとっていたんですよね。農業も手伝いますし、暮らしも仕事も充実しています。」

「家族だけ」は意外としんどい。いろんな人の手が加わって、作物も子どもも育っていく。

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「夫婦二人での農業は、合わなかった」

そう話してくれた嶋村さん。

一方で、嶋村さん一家の元には、季節ごとに「植え付け体験」や「花摘み体験」を一緒にするために、多様な人たちが集います。

「これからの新しい形なのかなって思います。家族だけでやるよりも、いろんな人が土に触ったり植物に触ったりできることは、コミュニティとしても楽しいですよね。

『山にいきたい、やってみたい』という方が一緒に作業して、一緒にご飯を食べて。

例えば、ただ遊びに来るだけっていうと、友達だけしか来れないじゃないですか。でも体験なら、全く知らない人でも来れるし、誰でもできる作業だし、コミュニケーションも取れる。

そういう、新しいことをやるセンスを夫は持っているんですよね。私にはない。違うからいいんだと思うんです。」

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そうやって「新しいかたちで家族の農業を開いていく」

その場ではもちろん、嶋村さんのお子さんたちも作業をします。

参加者も子どもづれも歓迎とのこと。

先ほどは、「夫婦二人での農業は合わなかった」と話していた嶋村さんですが、決してお二人の仲が悪いのではなく、ただ「違いがある」ということを認識したということなんだなと感じました。

「違いがある」から、一緒にできない。

ではなく、

「違いがある」から、それぞれの得意を認め合い、生かしていく。

そんなご夫婦のあり方が、嶋村家をかたちづくっているのだなぁと感じます。

そんな嶋村さん一家が育てる、「神目箒茶(ホーリーバジル)」の魅力は、「いろんな人の手が加わって、育つこと」、そう話してくれたのは嶋村さんの旦那さんでした。


ひとりではできないことも、つながれば形になる

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また、嶋村さんは昨年からJA女性部内で立ち上げたフレッシュミズ(*1)「ナカラネ」の部長もされています。

「市街地で親子で畑をやりたいって子がいて。今年はそこを軸にして活動をしています。

農業をやっていなくてもフレッシュミズには入れるし、農業をやっていない人にも入ってもらって畑とか山に関われるものになればいいかなって思っています。メンバーだったらいつでも行って土に触れられる場所があるっていいですよね。

面白そうでしょ?

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私自身、こうやって山で暮らしているのは、私なりの社会運動なんですよ。こうゆう暮らしもあるんだよっていうことを伝えていきたいって思いはあって。

『ナカラネ』もそういった一つになっていければいいかなと思っています。」

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嶋村さん自身の「暮らしを伝えること」、

そして他のメンバーの「親子で畑をやってみたい」、

それぞれ、ひとりでは形にすること、広げていくことに限界があるけれど、つながれば一気に進んでいくこともある。

子育てや農業が、家族だけでは限界があるように、「もっとこんな暮らしがしたい」「あんなことに挑戦してみたい」、そんな想いもいろんな人の手が加わることで、より豊かに、楽しく展開していくことができるんだなと、勇気が溢れてくるようなお話でした。

嶋村さん、ありがとうございました。

(*1)JAをよりどころに、食や農業に関心のある若い世代の女性(おおむね45歳くらいまで)が集まって作った組織。農業をしている女性は、もちろん、農業をしていない女性もいる。( JA全国女性組織協議会HPより抜粋)

お話を聞いた人

嶋村真友子さん

新潟県十日町市出身。小さい頃から、農や自然に近い暮らしのなかで過ごす。結婚後は子育て、旦那さんの農業の手伝い、最近では農協女性部内のフレッシュミズ「ナカラネ」の部長としても若手女性や子どもと農業をつなぐ活動を仲間と進めている。

■嶋村さんをはじめ、県内のママ農家20~80代のみなさまにどんな子育て農業をしてきたか、どんな「くらし・しごと・こそだて」のブレンドをしてきたか、聞き取りやアンケート調査を実施し、白書にまとめました!

農あるくらしと、こそだて白書(ゆきのひノート特別編)「くらし・しごと・こそだてをどうブレンドして、私らしいしあわせ作れる?」

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