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第10話 農家だからできる子育ての可能性〜髙橋真梨子さん/新潟県十日町市

世代を超えて見えてきた、視点

「どうしたら、子育てしながら自分らしく働き続けることができるのだろうか」

そんな私たちの悩みからスタートしたこの特集。

第1話では雪の日舎の女性メンバーの座談会をお届けしました。その中でも、佐藤が小さな子どもを育てながら農業を続けていくにあたり、さまざまな壁や悩みにぶち当たったこと、いまもあり方を模索しながら働いていることをお話しました。

第2話からは、農業に携わる女性たちがどんな思いで、どんな工夫を凝らしながら、この雪国で農と子育てを両立してきたのか。

それぞれの年代別に聞いてみました。

今回お話を聞いたのは、「農業」に携わる女性でしたが、皆さんが共通してお話してくださったことからは、直接「農業」に関わっていなくても、どんなお母さんの心にも響く大事な視点だったなと感じています。

まずはすでに子育てもひと段落した、先輩お母さん世代に当時の女性の働き方と子育てのサポートについてお聞きしてきました。

続く第6話からは、現役子育て世代のお母さんたちに、今日までの葛藤や工夫を含めたリアルな心境をお聞きしてきました。


第10話では、十日町市に移住し、農家の旦那さんと結婚した髙橋真梨子さんにお話を聞きました。


自分らしさを生かした妊娠前〜出産後のわたし

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くねくねと婉曲する坂道をぐんぐん登る。

十日町市で行われている、大地の芸術祭の作品の一つになっている廃校跡を見守るように、坂の途中に民家がぽつりぽつりと佇む。

ここ莇平(あざみひら)集落に、髙橋さんは暮らしています。

ご自宅に案内してもらうと、ゆりかごの中で気持ちよさそうに眠る、愛娘の羽菜(はな)ちゃん。

取材当時は、まだ生まれて3ヶ月の赤ちゃんでした。

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産前産後は少しお休みをしつつ、専業農家の旦那さんを手伝ったり、自家用野菜を育てたりしています。

またお米の直販のパッケージデザインも作るなど、ご自身の得意を生かして新しいことにもチャレンジしています。


出身地である埼玉にいたときから、農園を借りて仲間と耕していたという髙橋さんは、もともと農ある暮らしには興味があったほう。

移住してからも、集落の人から余った苗をかき集めてきて、箱庭のような畑をやっていたと話してくれました。


「お嫁に来ることになって、本格的に農業に携わるようになりました。

と言っても、結婚当初は市内の保育園に勤めていたので、農業はお手伝い程度でしたけど。

のちに保育園を退職して、農業にどっぷり携わるようになりましたね」

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その後、お子さんを授かった髙橋さん。

妊娠期、出産、産後期を経験してきたなかで、働き方や暮らしはどのように変化してきたのでしょうか。


「この子がお腹にいるってわかった頃がちょうど稲刈りの時期だったんです。

それから冬になるまでは、普通に田んぼも畑も手伝っていました。草刈りとかもしていましたね。

冬になる頃には、妊娠後期になってあまり動けなくなってきて、ゆっくり過ごしていました。」

つわりも軽かったことや、ちょうど安静にしていなければいけない時期に、冬の期間が当たったりと、体調と農繁期に合わせてしごと、暮らしを無理なく行えたと話してくれました。

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では、お子さんが生まれて、これからはどうしたいと考えているのでしょう。
高橋さんは、これからの希望をこのように話してくれました。

「この子がもうちょっと大きくなってきたら、私は畑に復帰したいですね。今年は夫が両方やっているんですけど。

子どもが生まれてからも、外に出られそうだったら出たいとは思っていたんですけど、特に今年の夏は暑かったので控えましたね。涼しくなってきてから、ちょっとずつですね。」


暮らしのそばで、夫とともに、おおらかに

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では、具体的にしごと、こそだて、くらしをどのようにやりくりしていますか。

「今は家事も育児も夫と分担制、お互いできるときにできることをやっています。それは結婚当初からそうしていて、夫もそうしたいって言ってくれているんです。

私が畑に連れて行くこともあるし、旦那さんが田んぼに連れて行くこともあるしっていう、お互いの仕事場に連れて行く感じにしたいなぁと。

やっぱり農業のいいところは仕事場が暮らしに近いことだと思うんです。なにかあっても、すぐに戻ってこれますし、ある程度融通が利きますよね。」

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また、集落のお母さんたちから聞いたという、こんな話をしてくれました。

「それこそ夫は覚えていないけど、昔はカゴに子ども入れて、畔に置いておいたとかいうじゃないですか。それが普通だったらしいです。それを聞いて、私もできればそれに近い状態にしていきたいなと思いました。

それ自体がいいか悪いかというより、それくらいのおおらかさがあったということなんでしょうね。構ってられなかったでしょうし。子どもも、作物も、両方育てなきゃいけなかったでしょうし。」

すべて昔に戻ることが必ずしもいいということではありません。

ですが、これからを家族と自分らしく生きていくためのヒントは、昔の暮らしのなかにも隠れているのかもしれないなぁと、お話を聞いていて思いました。


保育園だけが選択肢じゃない

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▲おとなりの津南町のお外遊びサークル「さんぽみち」にも参加する高橋さん


また、お子さんの成長していく未来を見据えて、こんなお話もしてくれました。

「うちの集落には、同世代の子どもはいないんです。個人的な気持ちとしては、見られるうちは莇平でわたしが育てていたいって思いがあります。

ただ子どもが子ども同士遊びたいって思いだしたときはどうしようかなって今から考えていますね。

子どもがそうしたいって思ったら、それは無理にとどめおくことはできないと思っているので。

ただそれがイコール保育園に入れるって選択ではないかなとも思っているんです。もうちょっと別の選択肢はないかな、私も少しずつ準備できないかなって思ってます。」

高橋さんは、出産前から十日町市ではじまった森のようちえん「ノラソラ」の活動にも参加しています。

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▲高橋さんもかかわる十日町の森のようちえんノラソラ


既存の保育制度に縛られず、多様なあり方を模索しているお一人でもありました。

また、そのなかでも「農家」ならではの子育て、サポートのあり方も模索しているようでした。

「私としては、同じ境遇の方と繋がって、互いに融通しあえたらいいなと思っています。

農繁期ってみんな忙しいんだけど、意外とその忙しい時期ってちょっとずつズレていると思うんですよね。

だから、今日はうちで見てるから、来週はよろしくねって。そういうネットワークができるんじゃないかな。

畑に連れてってくれさえずればいいですってくらいの、ゆるい具合でできればいいなって思っています。

しごと内容に緩急のある農家だからこそ、できることじゃないでしょうか。」

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確かに、昔は田んぼも近所の人同士で手伝いあっていたとよく聞きます。それを、子育てでも応用することはできるかもしれません。

今までの保育のあり方、子育ての常識にとらわれず、新しい視点で自分と家族、地域にフィットしたあり方は、もしかしたら自分たちの思いと見方次第で道が見えてくるのかもしれない。

おおらかに、そして実直に、地域や家族、農業と向き合う高橋さんの姿から、そんな希望を感じる時間でした。


お話を聞いた人

高橋真梨子

新潟県十日町市の莇平集落で、夫と農家「あらたまや」を営む。現在1歳になる娘の子育て真っ最中。埼玉県出身。大地の芸術祭をきっかけに十日町市に通うようになり、のちに移住し現在の夫と結婚。保育士資格を持ち、出産前は市内の保育園でも勤務、有志で始めた森のようちえんノラソラにも関わっている。

■髙橋さんをはじめ、県内のママ農家20~80代のみなさまにどんな子育て農業をしてきたか、どんな「くらし・しごと・こそだて」のブレンドをしてきたか、聞き取りやアンケート調査を実施し、白書にまとめました!

農あるくらしと、こそだて白書(ゆきのひノート特別編)「くらし・しごと・こそだてをどうブレンドして、私らしいしあわせ作れる?」

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