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"ウォーク"とはなにか 陰謀論解説

産経新聞がイーロン・マスクについてこのような記事を上げていた。

イーロン・マスクが「息子は死んだ」といったことを文字通りに受け取って一部では「イーロン・マスクの息子が死んだ」と騒いでいる人がいるが、それは誤解だろう。イーロン・マスクは子供の性別不合を意地でも認めたくないから、自分の子供が「思想的な」ウイルスによって殺されたという設定にして、自分が被害者であるとすり替えているわけである。実際には子供の性別不合を認めずに精神的な虐待をしているのはイーロン・マスク自身なのだが、その虐待ですら絶対に認めたくないというわけだ。

まだ存命の子供を、認めたくないので「死んだ」と表現する。
これ以上の精神的虐待があるだろうか。

元のインタビューでイーロン・マスクは"woke mind virus"と発言していて、直訳すると「目覚めた思想のウイルス」とでもなるところでしょうか。日本語訳が難しすぎるので産経新聞の記事では

社会問題に意識が高い『ウイルス』によって殺された

https://www.sankei.com/article/20240723-TVHT65SVYRF5TIMWLTLZN6J7KQ/

となっています。

この"woke"というのは数年前からアメリカの極右たちが多用しているスラングであり陰謀論です。

アメリカの極右達によると、ある日突然に人々が「(LGBTや有色人種などのマイノリティの人権意識や、環境問題の重要性などに)目覚める」現象が起きて、それまではそのような問題に無関心だった人が突然変わってしまう。これはウイルスやマインドコントロールのような陰謀だと、主張するわけです。

LGBTの当事者目線でいうと、LGBTの人々は、名前は色々変わるけどはるかな太古から存在していて昔から異性愛者の中に溶け込んで生きてきましたし、これからもそうなのだという感覚しかありませんし、他人から何かを吹き込まれて「ある日突然目覚めて」変わるようなものでもないでしょう。「同性愛は罪だ」と毎日教えられて育った敬虔なクリスチャンでも、おとなになっていく中で徐々に「自分の性的指向/性同一性は他人と同じではない」と自覚するからLGBTは思想でもなんでもないとされてるわけです。むしろ、ある日突然LGBTという存在に気づいて熱烈なアンチに「目覚め」たのはどう考えてもアンチLGBTの皆様の方です。そもそも自分の子供がLGBTであると認めなくない、すなわちLGBTが嫌いだから、「自分の子供が悪い奴らに思想を吹き込まれている」などという妄想ができるわけです。そもそもLGBTに敵意がなければそのような妄想は出ません。イーロン・マスクの子供にしても「父親が変な思想に目覚めた」とでも感じていることでしょう。

アメリカの極右たちはこのような陰謀論を"woke"と呼び、「あいつはwokeだ」みたいに、仲間だけがわかるワードとして使用します。そのような陰謀論では何を言っているのかさっぱりわからないから、産経は「社会問題に意識が高い」などとぼかしたわけですね。

そもそも「社会問題に意識が高い」は悪いことでしょうか。

「社会問題に意識が高い」というのはむしろ褒めるべきことですよね。例えば外交問題について考えるとか、国防について考えるとかも「社会問題」の一部ですし、「水源を守ろう」とか「カルトや極左暴力集団から子供を守ろう」とか「セクハラ」や「中絶の権利の問題」とかいうのもすべて社会問題です。「社会問題に意識が高い」ことをまるで悪いことであるかのように思っている極右こそ、人々の目を社会問題の解決から遠ざけることによって社会を破壊しようとする思想でしょう。

そのようなマジレスをされると困るので、自分たち極右の間でしかわからない"woke"というようなスラングを使ってるという側面もあるのではないでしょうか。

女性の集会を妨害しにやって来た全身黒づくめのトランス活動家たち。 https://twitter.com/TheVikingDane/status/1804980188809159129 別名、ブラックパンパース。これが世界のwoke左翼の最前線。権力と闘うのではなく、市井の女性を脅迫するのに全力を尽くすのが今のwoke左翼。権力のない人々を脅すのに、なぜか顔を隠す卑怯者たち。

Posted by Seiya Morita on Monday, June 24, 2024

こんな感じでとりあえず「ウォーク」と言っておけば、なんの問題もないことに対して極右の間では「ウォーク許せねえ」となるわけです。

ほんとアホですかと。

イーロン・マスクは「ウォークマインドウィルス」によって息子が殺されたなどと主張していますが、イーロン・マスクと子供が和解するのはとても簡単なことです。

イーロン・マスクが今すぐ子どもの性別不合を認めればよいのです。


何も難しいことはありません。

「子供にLGBT思想を植え込んだ悪者」を責めて嘆く必要など一切ないのです。子どもの性別不合を認めるというただそれだけで家族みんなが幸せになれるわけです。「ウォークがー」などといって喚く行為は誰も幸せにならないのは明らかでしょう。「息子」を「殺した」のは「ウォークマインドウィルス」などではなく、他ならぬイーロン・マスク本人なのである。

アメリカではむしろこの"woke"を使う極右を揶揄したりすることもあります。

上記の画像ではスパイダーマンは今も昔も変わらず「マイノリティをリスペクトするよ」としか言ってないのですが、現在のほうは同じスパイダーマンをみてスパイダーマンが"woke"したと憤慨しています。「目覚め」て変わってしまったのはスパイダーマンではなく"woke"を揶揄している極右の方だよというわけですね。



ついでなのでもう一つ、スラングを紹介しておきます。

文脈がわからない人には

「フカソ」って何??


となってることだと思います。

フカソとは「ふかふかなソファー」の略なのですが、これを見てもまだ「ふかふかなソファーになんの罪があるのか」としか考えられない人がほとんどでしょう。

おそらく元ネタはこれなんですが

堀さんは「イス取りゲームのような社会のあり方、その構造について考えていきたい」と語る。
「強い者が富を独占し、弱い者は自己責任と言われ、生きづらさから抜けられない構造が現実にあります。ふかふかのソファに座っている人と、ブルーシートに座っている人との間にあまりにも差がある。

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e05a4c0e4b0b2520d13d3f8

元ネタになっている堀あきこ氏はトランスジェンダー女性のことを「ブルーシートに座っている人」とし、トランスヘイトをしているフェミニストを「ふかふかのソファに座っている人」として書いていると思われるのですが、トランスヘイターたちはこれを逆転させて「トランスを擁護しているフェミニスト」が「フカソ」であり、「フカソ」なフェミニストが、ブルーシートに座っているトランスヘイターをたちを攻撃しているのだと、主張するようになりました。
現在では、冒頭であげた「ウォーク」とほぼ同じ意味で使われているスラングとなっています。

「わたしたちは貧しいのに、ふかふかなソファーに座っているフェミニストが攻撃してくる」というニュアンスのスラングなわけですが、総額資産600億円超と推定されるJKローリングが「フカソ」とならないあたりを見ると都合よく「自分を攻撃している人はみんなフカソだ」と言っているだけにすぎないのがよくわかります。

中には堀あきこ氏や清水晶子氏を「フカソ」だとする人もいますが

それらの人々がどれだけの資産を持ってるかきちんと調べたことがあるのでしょうか。ただの誹謗中傷ですよねこれ。

自分が嫌いであれば千田有紀ですら「フカソ」認定しだす始末である。


陰謀論にハマった人間が転落するのはとても早いなあと、インターネットの闇を感じる毎日である。

まともな人ならば「ウォーク」にしても「フカソ」にしても「使い方おかしくない?」としかならないわけですが、トランスヘイトにハマりだすとそれらのワードが「ぴったりはまる」「便利な言葉」となり、それらを使い続けることでさらにトランスヘイトが加速していくわけです。

人生の落とし穴に自分から全速力で走っていくような人間にはなりたくないものですね。

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