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「シャーロック・ホームズの冒険」遊戯

「シャーロック・ホームズの冒険」におけるエピソード順と二人の探偵生活について考える。まどマギ然り、絶望先生然り、ケムリクサ然り、ひぐらし然り、こういう考察はオタクの業なのである。

 この作業にあたり、
・会話等に出てくる事柄の順序は正確
・ワトソン博士が記した事件発生日はほぼ正確
と見なす。特にワトソン博士が書いた日付は過去の記録を振り返ったもので、記録違いや記憶違いがありうる。またインターネット・ミームで言うところの「フェイク」も含め、日付や年代がズレることもあろう。
 シャーロキアン的遊戯では「本文に書いてあることは基本的に事実」と扱うらしいが、ここでは「ワトソン博士は良識と冒険心をもったホームズの友であり、時に間違いも犯すし、わざと事実に反したことも書く」とする。

以下、話の本筋、犯人、トリックに触れます
・今後ホームズをたしなむ予定がある
・前情報なく楽しみたい方
 上記に当てはまる幸運な方は、ご覧になったのち、共に楽しみましょう。
 シャーロック・ホームズシリーズは、ウェブサイトで翻訳してくださっている方がいらっしゃいます。英語の才能が心底うらやましい。
https://221b.jp/
 ホームズシリーズの本文のほかにも、当時の時代背景が紹介されていたりするので、なかなか抜け出せなくなりますよ。

凡例
発生年月 事件名(発表年月)
【日付特定のヒント
人となりを知れるエピソード
他の話とのつながり
自分が思い出すためのキーワード等】
感想
探偵物としてのジャンル

他シリーズは以下。
「シャーロック・ホームズの回想」遊戯
「シャーロック・ホームズの帰還」遊戯

■年月が推定できる話


83年4月 まだらの紐(92年2月)

【日付記載あり、事件関係者の女性が先月亡くなり発表の機会を得た
■ホームズ
ワトソンが7時15分に目覚めたら、枕元に着替えを済ませたホームズが立っていた
「君なら事件に最初から立ち会いたいだろうと思ってね」とワトソンの好奇心を高く買っている
普段は遅くまで寝ている
ワトソンと出会う前に「オパールのティアラに関するファーントッシュ夫人の事件」を解決した
ぐにゃりと曲げられた火掻き棒を戻す、ホームズ怪力の描写あり
拳銃と歯ブラシで泊りがけ調査に同行させる
間違っていた仮説を調査しつつ修正(軌道修正ができたことだけは自慢していいと語る)
危険に同行させるか迷うホームズ
「医者が悪事を働けば、第一級の犯罪者になれる」と医者に言う
ヒヒに驚いてワトソンの手首をしっかり握る
■ワトソン
普段は規則正しい生活パターンをしており、7時15分はまだ寝ている
ホームズの捜査に同行するのが至上の楽しみ
起床からほんの数分で身なりを整えられるワトソン元軍医
ワトソンは依頼人を『顔や体つきは三十代に見えるが、早くも白髪が出始め、げっそりとした表情』
■その他
クロッカスの出来がよさそうとうそぶくホームズ(クロッ…カス…?)
チーターとヒヒが飼われている屋敷】
もっと危険な任務にほいほいワトソンを駆り出す印象があるホームズだが、この当時は躊躇いが見られる。その割に、枕元に突っ立ってワトソンが起きるのを待っている。気遣いが逆。
「緋色の研究」冒頭では朝寝坊をすると自称していたワトソンが、生活パターンを乱されて非難の色を見せる。
犯人のトリックを暴くエピソード。

86年?10月 独身の貴族(92年4月)

【結婚数週間前、1846年生まれ41歳の依頼人、10月4日のレシートから1週間以内の出来事
ワトソンは雨で片足のジェザイル銃の弾跡が痛む描写
ホームズに社交界からの招待状がきたことがある?
レストレード警部が担当、ホームズは警部の行動をバカにし、警部はホームズと話した時間を無駄と言うギスギス感
警部はホームズを頭のおかしいやつ扱い】
結婚前で年齢的に不自然でない、なおかつ10月となると86年あたりか。年齢の計算はワトソンの表記ミスもしくはフェイクかもしれない(事件が事件だし)。となるともっと前でも良いかも。
ホームズのデリカシーのない行動が際立つ。内心では情状をちゃんと酌量していたので、なおさら行動がデリカシーないなと感じさせる。どう解決をつけたのかとても気になる。
もつれた事情をほどくエピソード。


87年?9月 オレンジの種5つ(91年11月)

【日付記載あるが88年の誤りか?→詳細後述】


88年3月20日 ボヘミアの醜聞(91年7月)

【日付記載あり
■ホームズ
アイリーン・アドラーに愛のような激情はいっさい感じていなかった
激情は、行動の動機になりうる観察対象ではあるが、自分にそのような感情が生ずることは認めない
ただしアイリーンを『男が命をかけても惜しくないと思うような女』と表現
訪ねてきたワトソンを優しい目つきで肘掛椅子に手招きし、自分の煙草入れをよこし、体重が増えたことを言い当てる
見た目で開業していることを察したが、ワトソンが医者の仕事に戻るつもりだとは聞いてなかった
ホームズが明確にコカインを使用している記述
ワトソンを自分のボズウェル(伝記作家)だと言う
依頼人が嫌がってもワトソンが席を外すのを手首をつかんで引き留め「二人でなければ引き受けられません」
身分を隠す依頼人にイライラするホームズ
普段はツイードの上着を着ている
■ワトソン
ホームズは「これまで見たこともない、完璧な思考力と観察力をかねそなえた最高の機械」
結婚後は有頂天になっていて、開業医に戻りホームズとは疎遠になっていた
往診帰りにベーカー街を通りかかって影を見、無性に会いたくなる
ホームズははっきりうれしいという態度ではなかったが、ワトソンは喜んでいたと感じた
■その他
221Bは居間まで階段が17段ある
依頼人はワトソンがいることに戸惑った
二年は他言しない約束をした
故アイリーン・アドラーにしてやられた事件】
結婚後ワトソンが医者をしているのを始めて認識した→「回想」株式仲買人(病院を買い取ってから三か月後の6月)より前であろう。疎遠になっていたものの、助けを求められれば気持ち良く手伝うワトソンとのやりとりに、心温まる。「故アイリーン」とあり、ワトソン博士はこのあと彼女が亡くなったと認識している。ちなみにワトソン博士、冒頭でホームズを「かつての友人で、仲間である」と言ってるが……かつて……? ホームズもなかなかかわいそうな認識のされ方ではあるが、依頼人もちょっとかわいそうかもしれない。一人で解決した事案を聞いて「それなら一人で相談できる!」と思ってたら部外者がいた上に、「彼がいないと引き受けません」と言われるなんて、そんな話聞いてない。
依頼人の元カノで、婚約者持ちの、アイリーン・アドラーとの話。
犯人のトリックをめぐり知恵比べをするエピソード。


不明 花婿失踪事件(91年9月14日)

【日付の記載なし
ワトソンはボヘミアの醜聞でホームズが一度だけ失敗したのを知っている
何週間か会っていない
■ホームズ
「手に手を取って窓から飛び出して、二人でロンドンの家庭を覗き見ることができたら」というぶっとんだ例え話
ボヘミアの醜聞の報酬として、蓋の中央に大きなアメジストがついた濃い金色の嗅ぎタバコ入れをもらっている
ワトソンに話せないというオランダ王家の事件の報酬で、豪華なダイヤの指輪をもらい、指にはめている
「いろいろなことに気づくのが私の仕事です」
細かいことが限りなく重要である、ということを長く信条としている
指先を突き合わせ、足を前にのばし、視線は天井に向けて考え込む
思索に没頭するときは、古い油の回った黒いクレイパイプを使用する
罰する法律がないことを犯人が知り嘲っているのを見て顔を赤くし、狩猟用鞭で犯人を脅す
■ワトソン
ワトソンは依頼人を『裕福で、素朴で、のんびり生きている感じ』と評し、『変な帽子に間の抜けた顔だが、素朴な信念には敬意を表さざるを得ない気品がある』としている
ホームズに推論を話し「素晴らしく上達したな」と褒められる
■その他
その他の事件でたまに引き合いに出される「メアリーサザーランドの依頼」というのがこれ
インアンドアウト】
冒頭、久々に会った友達捕まえて何言ってんだ事案。過去の失敗は一度と言っているので、ボヘミアの醜聞以外の明らかな失敗は、この事件のあとに生起したか。自分の趣味に合わないものを身の回りに置くイメージがないホームズが、明らかに趣味に合わないカギ煙草入れや指輪を身の回りに置いているのは、私の解釈違いか、それともホームズが気付いてほしくてわざと目につくところに出しているのか。ワトソンが小物や服装に目ざといことは、ワトソンの本を読んでいたホームズも既知であるので、こうした細かいことに罠をかけていてもおかしくはない。
悪意による人の計略を暴くエピソード。


87年?9月 オレンジの種5つ(91年11月)

【4度してやられたとの発言(男3、女1)から、日付記載ありだが88年の出来事と考えた方がしっくりくる
■ホームズ
不機嫌そうに暖炉の片側で犯罪の相互索引を作成
「こんな夜に、君の友人かな?」と言われ「君以外に友達はいない」「家主の知り合いじゃないかな」(結局依頼人だった)
一日調査で何も食べなかったあと、帰宅して一気にドカ食い
■ワトソン
索引を作るホームズと暖炉を挟んで、海洋小説に夢中
妻不在時221Bへ出戻っているワトソン
「君意外に友人はいないよ」のコメントをスルーするワトソン
■その他
本文の日付からすると、87年9月に持ち込まれた依頼ということになる
KKK】
冒頭、ホームズのワトソン依存が心配になるエピソード。
女性に一度してやられたと言っている。また、花婿失踪事件の時はまだ失敗が1度と言っている。これらを考慮すると、日付違いの可能性が高い。
索引を作りたがらないホームズだが、悪天候に閉じ込められて、不本意ながら索引を作っていたのだろうか。
また、依頼人の到来を一度で看破できず、助けを求めに来た依頼人を死なせてしまうという、ホームズらしからぬ話でもある。悪天候で気圧にやられたか……?
頭脳労働には食事は不要だが、肉体労働をすると普通にお腹がすくらしい。人間らしい。
情報の整理と収集がものをいうが、謎の解明がなされないエピソード。


89年1月19日 唇の捻れた男(91年12月)

【日付記載あり
■ホームズ
アヘン中毒のワトソンの患者を「バカな友人」と評する
依頼人から杉屋敷のツインルームを借りているホームズ
断定的で、穏やかだが支配的な雰囲気でワトソンに指示をする
「僕が今度はアヘンに手を出したと思ったんじゃないかい」と大笑い
ワトソンを「信頼できる仲間はいつでも役に立つ、記録係ならなおのことだ」と事件に誘い、しばらく放置して「余計な話をしないのは君の美徳だね」と褒める
推理しあぐねて、仮説をワトソンに語る
理論家が分析した結論よりも女性の直感のほうが優れている実例はたくさん見てきている
未解決の事件があると一週間でも休みなく働き続ける
部屋中から枕とクッションを集めて長椅子のようなものを作り、手巻煙草1オンスで考えこみ、朝四時頃結論に至る
■ワトソン
医者としてアヘン患者を受け持ち診察している
妻と団欒の描写
悲嘆にくれた人間が妻のもとへ来るのはいつものこと=友達に助けを求められやすい夫婦か
妻から「ジェームズ」と呼ばれている
妻とケイト(ホイットニー夫人をこう呼んでいる)は学校時代の友人
ジン酒場(ホームズやワトソンは、ウイスキーやワインは飲むがジンは飲まない)付近のアヘン窟へ
アヘン窟でホームズと遭遇
ホームズの事件に同行することを非常に面白がり好む
■その他
ブラッドストリート警部が担当、穏当なやりとり
失踪者が容疑者】
完全な偶然からホームズと一緒に行動するようになる、またホームズが事件に悩みワトソンに推理の経過を語る描写が見られる、珍しいエピソード。
ホームズはワトソン夫人に対してかなり強気に夫を借りている。依頼者はいつでも友達連れてきて良いよとツインを貸したわけじゃないと思うが、賢く優しい女性の印象。
もつれた事情をほどくエピソード。


不明早春 ぶな屋敷(92年6月)

【ボヘミアの醜聞・花婿失踪事件・唇の捻れた男・独身貴族の後
ワトソンが221Bで起居
ワトソンは依頼人を『質素だがきっちりした身なり、明るく機敏な顔、千鳥の卵のようなそばかす、きびきびとした所作』
ワトソンの見立てでは、ホームズは依頼人に好印象だった
田舎の鮮やかな景色を見て、美しさに感嘆するワトソンと犯罪を連想するホームズ】
列記している事件から、「唇の捻れた男」のすぐ後、1889年の早春と推察。
ワトソン既婚エピソードの後ではあるが、221Bで起居している。ワトソン夫人帰省中だろうか。
ホームズ、依頼者の処遇を「僕の妹だったら絶対止めてる」と心配してるのを見て、興味を持つのではと思っていたらしい。残念ながらホームズ、事件以上の興味は持たなかった模様。田舎の景色と同じ。
悪意による人の計略を暴くエピソード。


89年夏季 技師の親指(92年3月)

【結婚して間もない1889年夏
ワトソンが仲介した2件の1つ
頻繁にホームズを訪ねたり招いたりしていた
ホームズは前日吸ったタバコの残りを集めてマントルピースの隅で乾かして吸う習慣がある
ブラッドストリート警部が担当】
ワトソン博士はまだ新婚気分。ホームズを家に呼んだりして生活を整えるよう言っているらしい。
この時点で、ワトソンが仲介した事件は二件だけ(もう一件はウォーバートン大佐の狂乱事件)と述べている。
悪意による人の計略を暴くが、全ての謎は解明されないエピソード。


89年?12月27日 青いガーネット(92年1月)

【結婚後。ボヘミアの醜聞・花婿失踪・唇の捻れた男」を「私の手記に追加された事件」と言っていることからおそらく同年
■ホームズ
ワトソンの訪問を「調査結果を話し合える友人は大歓迎」と歓迎する
ワトソンが身なりの崩れた姿を見せたら、妻の愛情を失ったと心配する
賭けのフリをして聴き込み
「人の知らないことを知るのが仕事」
クリスマスを理由に、犯人に情けをかけ「僕は重罪を犯すが、一つの魂を救えるだろう」
■ワトソン
ホームズに推理をもとめられて、やれやれという気持ちで挑んでみる
ホームズの推理を聞いて「君は何にでも答えられるんだな」と感心してみせる
事件が飛び込んでくるのに立ち会い、往診に出かけて、夕方六時半に戻ってきて事件の解決に立ち会い、そのままベーカー街で夕食
アルスターコートにマフラーという防寒装備
■その他
ピーターソン(退役軍人、現ポーター)が持ち込んだ事件
ブラッドストリート警部が担当しているという記事】
おそらく1889年の年末。残りの三件は「ぶな屋敷」「技師の親指」と、「オレンジの種」か?
本文では「カーバンクル」と表記されている。これはWikipediaによると「ざくろ石」=ガーネット。ガーネットで間違いなかろう。
ホームズがワトソンを連れて歩き回り事件の解決に挑む。
賞金の行方、ブラッドストリート警部担当事件の行方等、いろいろ想像の余地が残る。また、事件の関係者が一人いきなり姿を消したからといって、事件の最大容疑者の容疑が取り下げられるとは、どういうことだろう…「私が高跳びしたら、あとは頼みます」というニュアンスだろうか。
もつれた事情をほどくエピソード。

90年10月9日 赤毛同盟(91年8月)

【日付記載あり、花婿失踪事件の後
「1890年4月27日、ちょうど2ヶ月前」、張り紙に1890年10月9日、百科事典書き写すこと8週間
上記のように日付がバラバラ
■ホームズ
訪ねて行ったワトソンをわきに依頼人と話していたが、帰ろうとしたところを捕まえて引き留める
上から説教したいとき、指先を合わせて物を言う→依頼人の前でワトソンの書き振りを説教
手の内を明かさない方がいいかもしれない、とワトソンに漏らす
この件は「パイプ3服分の問題」で、50分話しかけないでくれと指示、膝を鼻に近づけ黒いクレーパイプを突き出し、目を閉じ考え込む
午後のサラサーティの演奏会にワトソンを誘う
ドイツ音楽は自分を見つめさせるところがあって好み
劇場では音楽を聴きながら指を振り、幸福感に包まれて座っていた
ワトソンに軍用ピストルを持ってこさせて、「歯向かってきたら発砲しろ」と指示
この件に関する支出は銀行が払ってくれるだろう、という
事件後すぐに退屈に襲われる描写
■ワトソン
依頼人の前で説教されて言い返すことはする
サラサーティの演奏会に誘われ、「開業医は暇なんだ」と応じる
周りの人間より鈍いとは思っていないが、ホームズとかかわると自分がバカだと思えてくる
「見事な推理だ」と心からホームズを称賛する
■その他
依頼人はフリーメーソン会員
ジョーンズ警部が担当、ホームズ曰く警察の業務はなってないが悪いやつではなく、ブルドッグのように勇敢で、誰かを捉えたらしぶとく離さない】
日付の整合性が低い。赤毛同盟の解散の日付がなんらかの要因でずれていたと考えれば通るか?依頼人の話に夢中になっていた割に、帰ろうとしたワトソン博士を捕まえて関係ない説教をする、事件の難易度をパイプで計る、姿を見てその背景を読み解くなど、ホームズのイメージに合致した言動が多い。ワトソン博士の依頼人の描写も含めて、かなり失礼でもある。騙された依頼人に同情を寄せる要素を少なくする意図を感じる。また、ホームズは「この件に関して支出が少々ありましたが、銀行が払ってくれるでしょう」などと言っているが、どの程度報酬を得たのか気になるところである。パイプ3服と二人分のコンサートチケット代金以外にも、いくらか請求したとしても不思議ではない。
悪意による計略とトリックをあばくエピソード。


■時期の推定要素が少ない話

不明冬季 緑柱石の宝冠(92年5月)

【雪の上に足跡=冬?
宝冠の取り合い
牛肉をパンに挟んで調査に持っていく
「起きて待っていなくてもいい」
調査中は何日も帰らないことも多い
ワトソンは依頼人家族の女性を『彼女は平均より少し身長が高く細身で、真っ青な顔のせいで黒い髪と瞳が余計に黒々と』しており『強い性格の女性に見えた』と述べている
「あり得ないものを取り除いて残ったものが真実」】
普段から一緒に起居しているような言動があるが、夫人不在時ワトソン博士は221Bで暮らしているようなので、時期を特定できない。
ホームズが食べ物を持ち出すという珍しい事象が起きている。ハンバーガー的なものであろうか。
もつれた事情をほどくエピソード。


不明6月3日 ボスコム谷の惨劇(91年10月)

【6月3日月曜日から事件発生
メアリーと朝食中「二日空けられないか、空気と眺望はすばらしい」と電報が来て、メアリーの口添えでワトソンがホームズに同行=結婚中
■ホームズ
ワトソンに誘いの電報を送り、電車に荷物を載せ、チケットを買わずプラットホームをうろうろしてくるかどうか分からないワトソンを待つホームズ
長い丈の旅行用コート、ぴったりした布の帽子(鹿内帽の挿絵)
事件の概要を説明したあとは、ポケット版ペトラルカ(恋愛詩集で有名な作家)に話を切り替える
ホテルで待っていたワトソンに状況を説明したあとは、ジョージ・メレディス(小説家)に話を切り替える
いい仕事をするには万全の体調でなければならず、長旅で疲れているときは地面の調査をしたくなく、雨が降らなさそうなので調査を翌日に延ばす
レストレード警部に「君は事実に対処することが大変そうだな」と嫌味返し
現地で調査をするホームズは、しかめ面を紅潮させ、眉を寄せて、剃刀のように目を光らせる。肩は前に倒され、唇は固く閉じ、血管が首に浮いて、鼻孔は開いているようで、質問や意見は耳に入らない
どうしたらいいか困りワトソンに事件を説明しつつ、結局は一人で結論を導く
■ワトソン
事件の誘いの電報に「決めかねるなぁ」と珍しく悩むワトソン
初夏、髭をそるときに日の光を利用する
寝室の右側に窓があると言い当てられて驚く
容疑者の恋人を『これまで見たこともないような美しい若い女性』『スミレ色の目を輝かせ、唇を開け、頬にはピンクの輝き』
ホテルに置いてけぼりを食らい、扇情小説にも集中できず、事件を反芻する
調査中のホームズをバカにしたようなレストレード警部の隣で、興味深くホームズを見つめる
■その他
レストレード警部が担当、ホテルをとったのも彼か?
レストレード警部とは互いの言葉の端々に棘があり、「推理や推論に頼るんですか」とホームズに言いながらワトソンに目くばせ
容疑者の恋人は、女性の勘でホームズを一目で見分ける
告白文預かる】
金持ちになった元強盗が脅しに来た元御者を殺害、というどこかで聞いたような事情。田舎の空気と眺望があるぞと誘っている=「ぶな屋敷」の後であろうか(ワトソンがこうした景色を好む描写がある)。また発表時から発生までに7か月以上の猶予があるため、90年以前である。なおこのエピソードを通してホームズは「事件に対しては万全で調査に臨みたい。雨が降りそうになければ調査は明日に伸ばす。推理がこれ以上進められないと納得したらさっさと文学に思考を切り替える」という姿勢を見せる。ホームズは、事件と同様に気分転換が必要なタイプなのかもしれない。もしくは、宿泊込みの旅行に誘いたかっただけなのかもしれない。ワトソンはワトソンで、ホームズが調査を始めると、調査そのものではなくホームズを見つめている。ホームズはワトソンを推理の助けや助手ではなく、話を聞いてくれたり、誰かとやりあうときの心の支えにしている模様。
もつれた事情をほどくエピソード。

総評と感想と妄想と

 こうしてみると、ワトソンが出てくる女性を全員褒めちぎっているのではないことが分かりますね。いがーい。
 レストレード警部はホームズとはかなり相性が悪いですが、ワトソンくんには普通に…というか、親しみを込めて接しているようです。でないと、「あいつヤバいよ」的なジェスチャーをしたり、「何あいつ」的な目くばせをしたりしないんじゃないかな。
 そのうち「ワトソン先生、確かにホームズ先生の推理力はすごいですが、人間としてはどうなんですかね。いいんですか、あんな人と友達で」とか言い出すんじゃないですか。
 小学生あたりから読み進めて、全編読んだことはあるはずですが、さっぱり忘れていたので、こういうサイトで読み返せると人生が色を取り戻しますね。その他、動画サイトで朗読を探しては、家事のBGMにしたりしています。
 目下のところ新潮社版をもう一度そろえたいと思っていたのですが、先日大事に大事に手の届かないところにしまっていたムーミンの文庫本を1歳のギャングに破かれたので、もう少し時期を見ます。


2021/11/04「ボヘミアの醜聞」「赤毛同盟」について加筆
2021/11/07「花婿失踪事件」「ボスコム谷の惨劇」について加筆
2021/11/24「オレンジの種五つ」「唇のねじれた男」について加筆
2021/11/26「青いガーネット」「まだらの紐」について加筆。
「技師の親指」「独身の貴族」「緑柱石の宝冠」「ぶな屋敷」について未加筆。