見出し画像

考えるな、感じろ〜横尾忠則の世界〜(前半)

「横尾忠則現代美術館に来たことはありますか?」

「…。何人かは来たことがあるみたいです…。」


6月17日の昼、エレベーターで広報さんとの気まずい会話を少し。


そう、地元なのに行ったことがないのだ。


私は高校の通学で、バスの窓から毎日見ていた。


しかし行ったことがない。


なんでだろうか。


気になっていたが、なかなか行くタイミングがなかったのである。


そんな思い出?がある横尾忠則現代美術館にとうとう入場することができた。うれしい。


やっと入れた嬉しさ、美術班初めての動き、めちゃくちゃである。


作品に見惚れていると、メンバーに呼ばれキュレーターズトークに急いで行く。


そんな騒がしい時間であった。

ここでは、我々大学生が美術館に行って感じたことを自由に書いていく。


コラム3つ分は長いため、前半はコラム1、後半はコラム2.3に分けて投稿する。


それぞれ違う学生が書いているため毎度前置きがあるが、ショート小説みたいに読んでもらえると嬉しい(笑)。


それでは前半から。


どうぞお楽しみあれ‼︎


INFORMATION

横尾忠則現代美術館

〒657-0837 神戸市灘区原田通3-8-30

開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始、メンテナンス休館(不定期)

観覧料:一般 700円/大学生 550円/70歳以上 350円/高校生以下 無料

各種割引のご案内:団体割引、障害者割引、コープこうべ会員割引、JAF会員割引など

その他のサービス:車椅子の貸出(無料)、コインロッカー(100円硬貨が必要、使用後に返却)、無料Wi-Fiサービス(1Fオープンスタジオで利用可能)


01.ちょこっと基本情報

◆横尾忠則現代美術館

 横尾忠則現代美術館は、兵庫県西脇市生まれの美術家・横尾忠則から兵庫県に寄贈・寄託された作品を収蔵している。それらの作品や横尾忠則と関わりのある作家の作品を提示することを目的とし、2012年11月に開館した美術館だ。
 通常の展示はもちろんのこと、アーカイブルームや様々なイベントを行うオープンスタジオなど、ユニークな設備を備えている。
 コレクションを軸に横尾作品に関連するテーマ展など、多彩な展覧会の開催を実施。国際的に高く評価されている横尾忠則芸術の魅力を兵庫県から、国内外にアピールしている。

◆横尾忠則

横尾忠則(1936年6月27日-)は日本のグラフィックデザイナー、イラストレーター、版画家、画家である。国際的に成功した日本人アーティストの一人であり、街中の「Y字路」を描いたシリーズ、文学者などの著名人のポートレートなど多様な作品を手がけることでも知られている。

◆「横尾忠則 原郷の森」展

【会期】2023年5月27日(土)〜8月27日(日)

 2022年3月に出版された『原郷の森』(文藝春秋)に関連する横尾の作品を、小説から抽出した文言とともに展示することで、言葉のみで表された世界をイメージを加え展覧会として構築しようと試みるものである。
 『原郷の森』は、主人公Yが美術、小説、映画など様々な分野で名を残した著名人たちと時空を超えて語り合うものだ。
 横尾がつづる言葉と横尾が描く絵が織りなす森のような展示室に分け入り、半世紀以上の歳月をかけて形作られた横尾の芸術観を身体的に感じ取る機会にする。

https://ytmoca.jp

それでは本題‼︎

02.コラム1横尾忠則現代美術館「原郷の森」の展示空間について:とある大学生の視点から



前置きが長くなってしまったため、最初に目次を置くことを許していただきたい。

時間がない場合は、本編から読み進めることをお勧めする。

1.長めの前置き

1.1    さようなら、美術館の常識

「美術館」

と聞き、頭に浮かんだものを描いてみた。





中高ともに美術の成績はあまり良くなかったので、クオリティについては無視して欲しい。(泣)

白い壁、人々の足音が響く静かな空間。
まあ多くの人が同じような空間を想像したものだろう。

では、次の動画を見てほしい。

ここは病院ではない。美術館である。



では、次の動画を見てほしい。

ここはお化け屋敷ではない。美術館である。
(しつこい)


ファミリーで賑わう王子動物園の向かいにある横尾忠則現代美術館は2012年の開館以来、年に3回、今まで30本近くの展覧会を開催してきた。
個人の名を冠する美術館ということもあり、展示されている絵は全て、横尾忠則氏のものである。

故に、

「同じような展覧会になるのでは?」

こんな疑問が浮かぶ。
偉そうに文章を書く私も同じように考えていた。

しかし、横尾忠則現代美術館は我々の考えをすぐに打ち砕く。ついでに、美術館の常識も。
同じ画家を扱うからこそ、我々鑑賞者を「飽きさせない」ために、美術館の枠に収まらない様々なアプローチが行われている。

1.2 満満腹腹満腹から見てみる


筆者が行ったものを、ちょこっとだけ紹介。

こちら、開館10周年記念に行われた「横尾忠則展 満満腹腹満腹」である。(筆者は、満満腹腹満腹という語感を大変気に入った友人に連れていかれた、というプチ裏話があったりもする。)

(2023.4.29、筆者撮影)

この展覧会では、公式webサイトに「限られた展示空間に、これまで開催された約30本の展覧会を限界まで詰め込むことを試みます」と説明されているように、これまでの全展覧会を一度に振り返ることができた。

振り返り展覧会を振り返れば、
「ありえんほどのカオス空間だった」
この一言に尽きる。

こちらは、2018年に行われた「横尾忠則 在庫一掃放出展」のコーナーである。

(同日、筆者撮影)
(同日、筆者撮影)

説明書きをググッと拡大すると、次の通りである。

「2012年の開館以来、当館では様々なテーマを設け、多彩な切り口から横尾忠則の作品を紹介してきた。しかし本展では、あえて特定のテーマを設けず、「まだ当館で展示されたことがない作品」であることを、作品選定の唯一の基準とした。美術館を特売セール会場に見立て、受付監視スタッフはオリジナルの「SALE」法彼を着用し、開会式にはちんどん屋 (ちんどん通信社)が乱入した。(後略)」

行ってないけど分かる。絶対おもろい。

また、先ほど挙げた写真をググッと拡大すると、何やらスタンプがある。

努力を要す……?????

これは、横尾忠則氏が作品の隅に押した評価スタンプである。他にも「たいへんよくできました」や「優秀」など、さまざまな種類があった。(評価スタンプって、少し小学校を思い出すと思ったのは私だけだろうか。)

へー、と思ったそこのあなた。
でも待って。よく考えてみてほしい。
これ美術館でやっていることなんです、しかも県立の。
美術館に作家が乱入し壁にスタンプを押すこと、スタッフさんが法被を着ていること、名前が「在庫一掃放出」であること、普通の美術館では実現できるわけがないことばかりである。

他にもツッコミを入れたい展覧会はいくつもあったのだが、本題まで遠くなりそうなのでこの辺にしておこう。

1.3 本題へ軌道修正

今回は横尾忠則現代美術館のユニークな展示空間を中心に、現在開催されている「原郷の森」について、担当学芸員さんの貴重なお話とともに「とある大学生の視点」から情報を届けていく。

ちなみに、書き手は
「動く」美術作品が好きなワンピース女子(写真左)と、階段の美しさを興奮しながら熱弁してくれる女子(写真右)の2人である。

(キュミラズム・トゥ・アオタニ、横尾忠則現代美術館4階にて撮影)

また本記事は「原郷の森」を扱った他の記事と同時期に執筆しているわけだが、他の記事よりも癖の強いものになることを願っている。
書き手、バトンタッチ!

2.横尾ワールド全開⁈展示のこだわり

2.1 ボーダー


さて、今回の展示「原郷の森」ではどのような驚きを見せてくれるだろうか?

3年前の特別展「兵庫県立横尾救急病院展」ですっかり学芸員さんが手掛ける独特の空間構成に惚れこんでしまった筆者は、今回も意気揚々と美術館へ向かったのだった。(機会があれば、病院展での印象的な展示手法と、すこーし、いやかなり怖かった(?)体験談をいつかご紹介したい)

建物内に入り、真っ白で洗練されたオープンスペースを見渡す。うむ、ここには仕掛けはないようだ。

と思えば… 

あれ?れ?




まず写真(左)を見てもらいたい。ここはオープンスペースのすぐ横にあるインフォメーションで、白黒ボーダーとタイトルのみのシンプルなポスターが連続して並べられている。力強い筆跡と原色の多用を特徴とする横尾さんの作品を載せたこれまでのポスターとは一味違う、逆の意味で目を惹くデザインだ。

そして写真(右)、少し見にくいが前方の学芸員さんの服にご注目。これはキュレーターズトーク参加時に撮ったもので、時系列的には入館の少し後の写真となる。

……皆さんボーダーシャツを着ておられる。

惜しくも1枚目の写真ではスタッフが着用されているのを取り損ねてしまったのだが、今回の展覧会ではあらゆるスタッフ(インフォメーションも、ミュージアムショップの方も、それから監視員・学芸員さんも!)がお揃いでボーダーシャツを着ているようだ。

なんと、早速横尾ワールドのお出ましである。こうやって我々は序盤からまんまと学芸員の手管にはまって、展示室に足を踏み入れる前にずぶずぶと特別展の沼に沈んでいくのである。やられた。

学芸員さんの話によると、そもそも、今回の展覧会のアイコンとも言うべきこのボーダーには、それなりの意味が込められているという。

一つはピカソが晩年によく着ていたとされるボーダーシャツ。横尾さんが敬愛し自らの絵にさえ取り込むことの多い芸術家の、ボーダーというアイコニックな要素。

そしてもう一つが、横尾さん自身がヴェネチアで目を留めた、ゴンドラの水夫が着用していたボーダーシャツ。自身の思想や価値観を筆に語らせる上で欠かせない思い出。

「横尾さんはこうした意味を込めて、ボーダーを著書『原郷の森』の表紙に起用したのかもしれませんね。」とは学芸員さんの談。

会期中の6/27(火)には横尾さんの87歳の誕生日を記念して、ボーダー着用の来館者87名に先着で入館料割引&ポストカードを配布するという企画が行われた。ボーダーだらけの日に取材が重なっていれば、『ウォーリーを探せ!』のようにさぞ面白い光景が見られたことだろう。

これから訪れる方にも、是非ボーダー柄の服を着て特別展を楽しんでもらいたい。

2.2 空間構成


予想以上に展示室に入るまでの話が長くなってしまったので、次に移りたい。

ここでご紹介したいのが、実際に今回行われた展示手法の一部である。

まずは2階<原郷の森への誘い>。

写真(左)は入口付近の展示風景、そして(右)は最奥の様子を撮影したものである。

これだけ見ても、一般に想起される絵画の展覧会とは全く様相が異なっている。

例えば、壁の形!

左の写真では分かりづらいのだが、実は三角柱の形をしている。

通常の展覧会においては、薄い壁のように使われ、規則正しく空間に並べることで一定の動線を確保する役割を担っているものだが、今回は絵を飾れる面が3つ、しかも壁自体がランダムに並べられており、「ここを見たら次はこの場所に向かえばいいですよ」といった動線が全くない。横尾さんの頭(小説)の中で展開される“原郷の森”をさ迷い歩いているかのようだ。壁の間をプラプラと移動しつつ、「横尾さんの第一の研究者とも言える学芸員さんのことだから、彼が自身の絵でたびたび描くモチーフ“Y字路”をも実は同時に表現しているのでは?」そんなことをふと思った。

森と言えばもう一つ、目に留まる仕掛けがあった。照明の当て方である。

右の写真を見て頂けると分かりやすいが、絵の細部が分かるようなスポットライトに加え、細かな光を集中的に集めた照明を使用している。

これは“木漏れ日”を表現したもので、薄暗い照明の中で森を歩いているかのような不思議な感覚を体験できるようになっている。こうした演出を見ただけでも心なしかマイナスイオンを吸い込んだような清浄な心持ちになるものだから、視覚演出の効果というものは意外と侮れないらしい。

3階<異界からのメッセージ>では、また違った演出が見られる。


2階が「森」の雰囲気作りに力を入れていたのに対し、こちらは「異界」がテーマ。奥の壁の絵は規則正しく配置されており一般的な展覧会のイメージに沿っているが、手前の円状に並んだ壁がどこかミステリーサークルを思わせ、日常と非日常の境目に足を踏み入れてしまったかのようなドキドキ感を与えてくるのは、意図的か、はたまた偶然か。

とりわけこの空間で異質なのが、インスタレーションとして流れている音声である。この音源は、小説の主人公Yと、ジョルジョ・デ・キリコや三島由紀夫、アンディ・ウォーホルといった名だたる故人たちが、それぞれの芸術観について小説内のセリフ通りに語り合うというもの。学芸員さん曰く、朗読は兵庫県立ピッコロ劇団の団員にお願いし、有名人物の声をなるべく忠実に再現してもらえるよう必死に調整して頂いたとのことで、混沌たる横尾ワールドを様々な方向から解読してやろうという執念を感じた。

また、一つの対話を録音した音声は複数種類あり、意図的に音声同士が重なるように流しているとのこと。このフロアに訪れた際は、あの世でせわしなくも和気あいあいと語り合う故人たちの会話に耳をすませながら、あなた自身の心の中の異界と交信を図ってみてほしい。

この他、ランダムに配置された小さな人物画の数々や、小説内の登場人物のセリフテロップの等、展示手法全てを紹介することは叶わないのだが、“絵そのものを見て楽しんでもらうだけでなく、横尾さんにとっての原郷、つまり人生観とも言えるような小説の世界を迷いつつ存分に散策してもらう”という、学芸員さんの強い意気込みを感じさせる空間構成であった。小説そのものもかなりの長編であり、登場人物の多さという点においても複雑怪奇で企画に労力を要したとのことで、非視覚的媒体である小説内の表現をうまく展覧会という形に落とし込んだ学芸員さんには脱帽するしかない。

『原郷とは、この世に生まれた人間の魂のふるさと、時間である』(横尾忠則)

あなたにとっての原郷はどこにあるのだろうか?

「原郷が見つかるかもしれないとっておきの場所がありますよ」

と耳に囁くつもりで、本記事を締めさせていただこうと思う。

(後編に続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?