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blur 初UKウェンブリー・スタジアムでの公演!行って参りました!

 ブリットポップの象徴:blur(ブラー)の実に8年ぶりとなるロンドン公演、記念すべきキャリア初のウェンブリー・スタジアムでのヘッドライン・ショウ初日。デーモンも「この瞬間をずっと待っていた」とMCしたように、英最大にして最もアイコニックなこのスタジアムに立つのは多くのアクトにとって夢だ。昨年の発売開始時に初日チケットは即完し、2日目公演が追加発売された。

Photo by TOM PALLANT

 〝The Debt Collector〟をBGMに、黒づくしのステージに「blur」の白いロゴが点灯。バンド(キーボード奏者マイク・スミスも加わった5人編成)が登場し大歓声が巻き起こる。膝の怪我で数日前のフランスのフェス出演をキャンセル、本公演が一時危ぶまれる要因になったデイヴが元気そうでほっとした。
 今月末発売の新作9枚目となるアルバム『The Ballad of Darren』から「St. Charles Square」でスタート。ギターの咆哮とフリーキーな「アアァ〜〜ッ」コーラスで古典的なブラー流ノイズ・ポップを見事に決め、「There’s No Other Way」のイントロが一閃。たまらず踊り始めた観客の輪は「Popscene」の爆発で更に広がり、デーモンも満面の笑顔だ。最も多くプレイされた『Parklife』から、まずは「Tracy Jacks」。8割近くがシングル曲という「鉄板ベスト」なキャリア俯瞰的セット(『The Magic Whip』曲はなしだったが)にも関わらず、この隠れ名曲での盛り上がりは凄まじく、バンドもシャープ&エッジーな演奏を返す。

https://blur.lnk.to/TBOD

 
久々にこれらの楽曲に再会し4人も興奮しただろうし、パンデミックのトンネルを抜けたことをファンと共に祝福できるのも大きいだろう――にしても、今の彼らの演奏に満ちるエネルギーと言ったら! 「Beetlebum」の鳥肌ものの緊張感からサビにクレッシェンドする完璧なドラマとグレアム&デイヴの息の合ったコーラス。アシッド・サイケなダウナー感(「Trimm Trabb」)からパンクな暴風(「Villa Rosie」)へ一瞬にして切り替わる鮮やかな緩急。脂がのった、とはまさにこのことだ。
 前半のハイライトは「Stereotype」〟〜「Out of Time」〜「Coffee & TV」の流れで、特に総立ち+大合唱で迎えられた「Coffee & TV」(筆者の近くにいたファミリー客の、「ミルキー」Tシャツを着た坊やも大喜びしていた)はグレアムの多彩かつ知的なギター・プレイも見せ場。一聴したところシンプル、しかしよく聴くと技巧がいくつも織り込まれている――ブラーのポップ・パズルの尽きせぬ魅力を感じる。
 デーモンがピアノでリードした「Under The Westway」のビートルズ的な広がりは圧巻。ロンドンに捧げたモダンな賛美歌に、「ハレルヤ!」に合わせて一陣の涼風が吹き抜けたのは、街も味方したかのようで泣けた。哀感を引き継いだ「End of a Century」を、しかし割りとあっさり切り上げたのは、名曲が多過ぎる辛さだな、などと思っていたら、いつの間にかステージ端に簡易更衣室めいた小屋が搬入されていた。
 そこに入り込んだデーモン、田舎風な鹿討帽を被って登場(笑)。待ってました!の「Country House」で、陽気なブンチャカ・ビートに老いも若きも大合唱&ワイパー状態だ。今夜最初のゲスト=俳優フィル・ダニエルズを迎えての「Parklife」が続き、コックニー訛りでまくしたてるフィルとデーモンの掛け合いの楽しさに、スポーツ試合を思わせる盛り上がりが生まれた。

 スクリーンと舞台全体を四角く縁取る照明以外、これといった仕掛けのないステージはストイック。しかし映像には1曲ごとに異なる色のフィルターがかかり(『The Ballad of Darren』曲はジャケットのテーマ・カラーであるオレンジ&ブルー、『Parklife』期曲はイエロー主体、「Coffee & TV」〟と「Girls & Boys」でのピンク&ブルー等)、巨大な万華鏡のようで美しい。
 このシンプルながらも劇的な演出が冴えたのが、デーモンが手持ちマイクで歌い上げるラウンジ調な「To the End」にぴったりのセピア・トーンや、「ピンク・フロイド×グランジ」とも言うべき「Oily Water」(グレアムのディストーション・ギター/アレックスの蛇行ベース/デーモンの拡声器の組み合わせが最高!)でのサイケな画面溶解。音楽のイメージを視覚面でも見事に増幅していた。
 再びヒートアップし、軽快なシンセ・イントロで一気に着火する「Advert」、アイコニックなギター・リフから「ウー・フー!」になだれ込む「Song 2」の怒濤の二連打で場内は狂喜のるつぼ。本編ラストの「This is a Low」は、両腕を挙げ全身でサビをシャウトするデーモンにグレアムの濃厚なギターと、新たな重みとマスキュリンな包容力が加わり、圧倒されるほどエピックに響いた。

 ここまでほぼノンストップ、1時間半のローラーコースター。ブリットポップ世代(=中年)がメインの観客――とはいえ親子連れや90年代を発見中のヤング客も多かった――も一息ついたところで、いよいよラスト・スパート。「Lot 105」でサッカーの応援コールを挿入し観客に歌わせ、しばし遊ぶデーモン。遊び心はここで終わらず、夏の宵が似合う「Girls & Boys」ではPVで印象的だったフィラのジャージ着用というメタな展開に。デーモンいわくフィラが特別に復刻してくれたとのことで、享楽的なユーロディスコに揺れる最前列客にタッチし煽りつつ、ジッパーを下ろして胸をチラッと見せる茶目っ気も。
 ステージに駈け戻り、今度はアコギを手にしたデーモンのストロークに乗り、「For Tomorrow」。発表から30年経った今も――いや、もしかしたら今こそ有効かもしれない「現代生活はクズ」のメッセージがスクリーンに流れる。それでも明日に向かい踏ん張り続けるしかない我々は、「ラララ」のコーラスを精一杯歌うのだ。テンポをやや落としたアレンジと相まって、デーモンの疲れは声/動きからも伝わってきた。だが、年齢や衰えを隠さない彼の「生身」のファイターぶりは逆に美しかったし、続く「Tender」では2番目のゲスト=ロンドン・コミュニティ・ゴスペル合唱団が助太刀として登場。その豊穣なハーモニーも素晴らしいが、やはりグレアムのカントリー・ブルースなギター&朴訥なコーラスとデーモンの情感あふれる歌声、このハモり/対位の妙は究極だ。曲がいったん終わり合唱団が去った後も、しばしデーモンが淡々とつま弾くフレーズに合わせ、自然に「Oh My Baby…」の合唱がスタジアムに沸き起こった。この晩最大の一体感。

 サーフなギターの燐光で輝く新曲「The Narcissist」をクッションに挟み、大団円は「The Universal」。「Tender」に続き無数のスマホが再び点灯し、ピッチ上空に吊られた2個のミラーボールが作り出した流星群に包まれ「It Really, Really, Really Could Happen(本当に、本当に、本当に起きるかもしれない)」のシンガロングが夜空にこだました。

https://blur.lnk.to/TBOD

 そこには何より、blur(ブラー)を観れた「奇跡」――大げさと思われるかもしれないが、4人4様の活動を行っている彼らがいつ結集するかは誰にも分からない――に対する喜びがあった。念願の夢を実現させ、2時間25曲を完走しバンドも感無量だっただろう。さすがにデーモンがハイジャンプを決める場面はなく、アレックスのくわえ煙草も減った。だが、「明日の公演は大丈夫?」と心配になるくらいの全力投球ぶりは、彼ら自身この僥倖に深く感謝していたことの現れだ。
 何より、このライヴを観て「もしかしたら、blur(ブラー)は『バンド』として今が最高期かもしれない」と感じたのが、筆者にとっては「奇跡」だった。結成からもうじき35年のバンドに向かって、そんなことを言うのは妙だろうか。だが、グレアムが一時離脱した『シンク・タンク』期を除き、不動のメンバーが共有する大いなる遺産=名曲の数々は、レトロどころか現在にマッチする強度を誇っていた。各人がソロ活動で育んできた音楽性・プレイヤビリティも有機的に化合していたし、その瑞々しいスパークは新作からの2曲に明らかだった。「ノスタルジーの宴」になるどころか、これはブラーの新たな始まりだ。その「奇跡」に、単独公演からは9年ぶり・20年ぶりのサマーソニック登板で、どうか立ち会って欲しい。


Photo by PHOEBE FOX


7月8日のセットリスト
1.St. Charles Square
2.There's No Other Way
3.Popscene
4.Tracy Jacks
5.Beetlebum
6.Trimm Trabb
7.Villa Rosie
8.Stereotypes
9.Out of Time
10.Coffee & TV
11.Under the Westway
12.End of a Century
13.Country House
14.Parklife
15.To the End
16.Oily Water
17.Advert
18.Song 2
19.This Is a Low

アンコール
20.Lot 105
21.Girls & Boys
22.For Tomorrow
23.Tender
24.The Narcissist
25.The Universal

【リリース情報】
■アルバム情報

The Ballad of Darren


アーティスト名:blur / ブラー
アルバム名:The Ballad of Darren / ザ・バラード・オブ・ダーレン
リリース日:2023年7月21日(金)
国内盤CD:WPCR-18616 / \3,190(税込み)※ボーナス・トラック収録予定

<トラックリスト>
1.     The Ballad
2.     St Charles Square
3.     Barbaric
4.     Russian Strings
5.     The Everglades (For Leonard)
6.     The Narcissist
7.     Goodbye Albert
8.     Far Away Island
9.     Avalon
10.  The Heights
11.  The Rabbi
12.  The Swan
13.  Sticks and Stones *ボーナス・トラック


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