見出し画像

「きゃ」「しゅ」「っ」などの特殊音の読み書き。苦手な子どものためのトレーニング 【弱みを対策できた親子のケース③】

何気なく使っている、「ぎゅうにゅう」「しっぽ」「おちゃ」などの特殊音が含まれる言葉。

大人は無意識に使っているだけに、子どもが聞いた言葉を正しく真似したり書いたりすることができないと戸惑い、その理由をわかってあげられないことが少なくないようです。

特殊音には、「ちょきん(貯金)」「でんしゃ(電車)」などに使われる小さな「ゃ」「ゅ」「ょ」が含まれる拗音(ようおん)、「はっぱ」「ねっこ(根っこ)」など、小さな「っ」で表す促音、「きゅうり(読み方は『きゅーり』)、「とけい(読み方は『とけー』)」いった伸ばす音が含まれる長音などがあります。

「きゅうきゅうしゃ」と聞けばわかるけれど、「きうきうしや」と読んだり、書いてしまうような子どもは、ワーキングメモリの言語領域に弱さがある、また、この影響で言葉やかな文字の習得において重要な働きをする「音韻認識」が弱い傾向にあるのです。

「音韻認識」とは、「タヌキ」の音声を聞いて、音(文字数)を数えたり、言葉がどんな音からできているのかなど音を操作できる認知機能のことです。

 今回は、特殊音の読み書きが苦手な子どものHUCRoWアセスメントの結果と、ワーキングメモリの言語領域および音韻意識を高めるトレーニング法をご紹介します。

「聞く・話す」の“オウム返し”から“ひらがな”の「読み・書き」へ 

幼児期の子どもは、耳から聞いた音声から直接言葉を学習します。そのとき、その音声はいったんワーキングメモリに記憶されます。言葉の数がまだ 少ない子どもにとっては、耳にするたくさんの言葉を 知らない可能性が大きいのです。

大人の場合なら、知らない国の言語でニュース番組を見たり、まったく意味を持たない言葉を聞いたりしているようなものなのだといえます。

たとえば、子どもが新しい言葉「キリン」を覚えるには、「キ」「リ」「ン」という3つの音をワーキングメモリに正確に覚えておく必要があります。「キリン」と聞いたとき、正確にワーキングメモリに覚えておくということは、聞いた音声と同じ音声で真似できること、つまりオウム返しができることです。

オウム返しができるということは、頭の中でくり返していることと同じで、聞き取りができているということなります。日本語のかな文字(ひらがな)の多くは、文字と音が一対一で対応しています。

小学校入学前までにしりとりなどの言葉遊びを経験するなかで、多くの子どもは、言葉の音声を意識的に考えられるようになります。1つの音に対応する文字があることを知るのです。これが、「読み・書き」の基本となる部分です。通常、1年生の終わりまでには、特殊音を含め、かな文字を正しく読み書きすることができるようになります。

先生や親の話を何度も聴き返し、特殊音の読み書きは間違いだらけ

山崎花梨さん(仮名)は、小学校4年生のときにHUCRoWアセスメントを受けました。

 先生や親の指示や話を覚えられず、何度も聴き返してくるとのこと。さらに、「平行四辺形」「光合成」などのような、学習に必要な用語も覚えられないということでした。

特殊音については、「ぎゅうにく(牛肉)」「ちゃいろ(茶色)」などの拗音が特に苦手のようす。たとえば「ぎゅうにく」のように「ぎ」と「ゅ」があると分解できず、読み書きや覚えることが難しいのです。

親御さんは、「4年生になっても出来ないことが多いので、ワーキングメモリに何か問題があるんじゃないか」との仮説をもって、私たちのサービスにたどり着いてくださいました。

HUCRoWの結果は、言語領域のうち、短期記憶がかなり低く、ワーキングメモリは年齢平均にギリギリ納まっていました。一方で、視空間領域は平均またはやや高めでした。

さらに、親御さんのヒアリングから授業中、授業が始まると休み時間の遊びは止め、気が散ってうろうろしたりすることはないとわかりました。頭や気持ち、行動の切り替え、抑制ができないタイプではない、ということが想定できます。

【山崎花梨さん(仮名)の場合】言語領域のうち、短期記憶がかなり低く、ワーキングメモリは年齢平均にギリギリ。一方で、視空間領域は平均またはやや高め

 「音韻意識」を高めるトレーニングで、特殊音を正確に読み書きできるように変化

 花梨さんは、言語的短期記憶が弱いので、しりとりなどで言葉を考えているうちに、先ほど言われた言葉の最後の音を忘れてしまっていたのです。

また、言葉がどんな音からできているかを考える機会や経験が少なくなることで、覚えておいた言語情報を使って考えたりする言語性ワーキングメモリも弱くなります。

よって、花梨さんは、1つの文字に複数の音が対応する特殊音を特に覚えることが難しく、特殊音が身につかないのだと考えられます。

まず、読み上げソフトなどで読むことの負荷を減らし、考えることにワーキングメモリを使えるようにし、言葉の知識を増やしていくこと、さらに特殊音を正確に読み書きできるようにすることが大事だと考えました。正しく読めないと、語彙が増えず、先生や親の話す言葉や、文章の理解ができないのです。

特殊音が正しく読み書きできるようになるために、しりとりなど音を意識した言語活動が効果的です。口頭でするだけではなく、音と文字の関係を把握するために、ノートなどに書いていくやり方をおすすめしました。最後の音に〇をつけて、次の音を書いていくとよりわかりやすくなります。

また、いきなり特殊音などで始めずに、まずは濁音を含む「りんご」「らくだ」などからスタートして、そのあとに「きゅうきゅうしゃ」などの拗音を含めた内容へ……と進めていくほうがよいでしょう。

時間を計ってやる「ことばあつめ」も、よいトレーニング法です。「『り』で始まる言葉を3分以内にできるだけたくさん集めて言う・書く」というもの。子どもは「りんご」「りす」「リボン」などと思いついて書いていきます。

数日間やってみると、前日に出したものはたいてい覚えていますから、ほかの言葉を探すことになり、語彙も増えていきます。ちなみに、まだ文字を書くのが難しい年齢であれば、書かずに音だけでやってみても、音韻意識を高めるのトレーニングとして有効です。

言語領域が低いと、かな文字や漢字の音を使って考えるのは困難

 「『じょ』『じゅ』『ぎゃ』など読み書きに時間がかかる」「学年相当の漢字の書きは曖昧」「漢字は1つの読み方しか読めない」と親御さんが嘆いていた住田彰人くん(仮名)は、小学校3年生の頃にHUCRoWアセスメントを受けました。簡単な文章は読んで理解できるが、学年相当のレベルは読むのが精一杯で、何度も読んでも、理解できないことが多いようです。

 学校の国語の時間も読みに時間がかかるようで「おうちでも、『音読練習するように』と声をかけてください」と注意があるとのこと。事前のヒアリングシートには、親御さんの戸惑いが表れていました。

 特殊音の間違いも、多々あります。親御さんが夏休みの宿題をつきっきりで見て、横でヒントを出してもわからない。最後には答えを親御さんが言っても、ピンと来ず、宿題を期日までに終わらせるために、それをただ書く、ということもしばしば。それでも、「なんて言ったの?」と何度も聞かれてしまいます。

 HUCRoWアセスメントの結果は、予想通り言語領域が低い、というもの。ちなみに、視空間領域は平均的でした。

【住田彰人さん(仮名)の場合】言語領域が低く、視空間領域は年齢平均

言語領域が低いため、彰人君にとっては、国語のかな文字や漢字の音を頭の中に記憶しておく、さらにそれを使って考えるのは非常に難しいことです。特に、一度にたくさんのことを指示や言葉言われると処理できず、頭をポリポリとかく仕草が何度も見られるそうです。

予習によって、授業で「聞いたことがある」状態をつくる

特殊音の課題だけでなく、漢字の読み書きがうまくできない、算数ドリルは10分で終わるが、漢字ドリルは30分以上かかる、また国語の文章を理解するのに時間がかかるなどがありました。

かな文字や漢字の読み書きがうまくできないと、文章の意味の理解や作文も難しくなります。かな文字や漢字が読めないと、学習において必要不可欠な言葉や用語の学習に遅れが生じてしまいます。

彰人君は、「一度聞いたり読んだりすると、比較的読めます」とご面談で保護者様にお聞きしたので、漢字の読みの知識がないわけではなく、初見で柔軟に読み分けられないのだと思われます。

授業で新しい単元の文章を読むと、読めない漢字の多い彰人君は、漢字の読み(音)を思い出したり、文字を音に直すだけでワーキングメモリに多大な負荷がかかり、考えることまでできなくなってしまいます。

それを防ぐために、授業でやる前に予習として親御さんが読み聞かせをするか、タブレットやパソコンの読み上げ機能を使い音を聞かせます。

事前に一度読んでおくと、読み方が頭に入り、意味を考えることにワーキングメモリを使えます。考えられると、意味がわかるようになり、語彙が増えていくことにつながります。その場合の予習は「覚える」ことを目的にするのではなく、「読んだことがある」という体験だけで十分。「読むだけでワーキングメモリがいっぱいになる」という状況を防げればいいからです。

絵本の読み聞かせやしりとりが、言語領域の成長をうながす効果

言語領域の数値が低くても、絵本の読み聞かせやしりとりなどの言葉に関する活動をすることで、成長をうながすことができます。また、子どもに合った学習のサポートや進め方をすることで、ワーキングメモリをよりよく働かせ、知識や言葉を脳に蓄えることができるからです。

また、特性を知ることで、サポートや学習の進め方も知れるため、ある程度カバーすることはできるのです。

今回は、特殊音が苦手な子どもの事例を紹介しました。

多くは言語領域が弱く、音を覚え、処理することに負荷がかかる子どもです。「どうしてわからないの!?」と困惑することはあるかもしれませんが、嘆く必要はありません。弱いなかでも生活や学習の工夫をすれば、苦手の対策はできます。


子どもの学習特性が「学びを楽に」する! アセスメント「HUCRoW」

簡易版・HUCRoWお申込みのご案内 | 一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会 (ewmo.or.jp)

編集協力/コルクラボギルド(文・栃尾江美、編集・平山ゆりの、イラスト・北村侑子


 

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?