伍週目 梶原朔 “臨”

好きな人にもう一度会うためにがんばる、恋する乙女のラブストーリー。

プレイした時から既に「しっかり者で優しいお姉さん的な親友」であることはわかっていたので、√があるということはとても嬉しかったのと同時に、朔ちゃんの新しい姿を見るのがとても怖かったな、とは思いました。でもそれ以上に、尼さんになった朔ちゃんの心の闇を見ておきたかった、というのがあります。結論から言えば、今までのルートの中で一番と言っていいほど胸がいっぱいになるシナリオでした。
弁慶√の感想で語っている通り、弁慶が龍脈を断つことで、平家の呪いを断ち切ろうとしました。しかし、その裏には黒龍と愛を育んだ一人の女の子がいました。元々国が乱れんとする世界に黒龍は現れました。龍の姿を保てず、人としての姿で迷い込んだ黒龍は、黒龍の神子となる梶原朔の元に現れ着きました。朔もまた、魂に惹かれるものがあったのでしょう、いつしか二人は恋に落ち、夫婦となります。しかし、黒龍が人の姿で現れたということは、国が乱れ、もはや黒龍も命が尽きようとする予兆。己の命が短いと悟った黒龍は、何も言わずに朔の元を離れ、清盛に敗れ逆鱗の姿で封印されてしまいます。黒龍が消えた朔は黒龍に操を立てるため、そしていつか黒龍と出会うまで綺麗なままの梶原朔でいようと出家をするのです。しかし、望美と出会い、旅を進める中で平家は黒龍の逆鱗を手にしており、逆鱗によって平家は怨霊を生み出しているということを知ります。朔は、黒龍がすでに死んでいるかもしれない、もう会えないかもしれないという恐怖から一度は旅を放棄し、隠居します。しかし、ずっと旅を続けてきた望美から、ずっと朔が言い続けた「本当の愛には飛び込むしかない」という言葉を送り返し、朔の力で黒龍との決着をつけることになります。
まず、朔ちゃん√の感想を一言でまとめると、「頑張ったんだね、朔ちゃん」という一言。今までずっと頼れる先輩、強かな聖母、使命を胸に生きる戦乙女、甘やかしてくれそうなママ。そんな印象でした。しかし、朔√の朔は、弱く、脆く、愛に生きる等身大の少女に見えました。当然です。だって彼女はまだ18歳。初恋、結婚、未亡人のスパンが短すぎるのです。更に朔ちゃんは黒龍の最後について何も知りません。配信内で僕は「他に好きな女ができたとかなら、諦められるのに」と話をしましたが、ピリオドを打てないまま終わってしまった恋を、どのようにして終わらせればいいのでしょう?もしかしたら生きているかもしれない、でもそれは望んだ結末かどうかわからない。自分のことを忘れているかもしれないし、そもそも死んでしまっていて二度と会えないことを見せつけられるかもしれない。もしかしたら死んでるかもと思うのと、確実に死んだと認識するのは雲泥の差があります。愛する人であればなおのこと生きて幸せでいればそれでいいと思ってしまう朔ちゃんには死を直面させるのは地獄でしょう。それでも、朔は諦めず前を向き続けた。望美の言葉もあったかもしれませんが、それでも可能は本当の愛のために己の悲しみを振り切って飛び込んだのです。ご都合主義ではないかもしれない、失ったものは大きいかもしれない、でも確かに、朔√ED後の朔ちゃんは、幸せだったのだと僕は信じずにはいられないのです。
余談ですが、黒龍を見て最初に感じたことが「カイリュー(大人白龍)にそっくり!」でした。それはどういうことかというと、朔ちゃんの視点から言えば「自分と愛を語らいあった黒龍とそっくりな人が、自分じゃない女に愛をささやいている」と見えかねません。よほど精神性が強靭か人間ではない限り、決して見ていて気持ちのいいものではないでしょう。僕はこの時点では遙かシリーズは本作しかやったことが無いですが、どうやら作品内で初めて白龍・黒龍が立ち絵付きで登場し、攻略対象となっているナンバーだということ。更に、今まで敵役であった黒龍の神子が味方となってそばに居てくれること。そんな主人公サイドにとって都合のいいイレギュラー的な作品において、この仕様はあまりにも酷だと言わざるを得ない。朔ちゃんが何をしたっていうんだ。そんな朔ちゃんは物語の最初から最後まで望美ちゃんを助け、支え、笑い語らい、先輩として友として、支えてくれました。そんな彼女が初めて望美に「何も知らないくせに!」と言い放ったのです。に望美が力になれたことは、愛を思い出させるために檄を飛ばしたこと。始めて朔ちゃんが使命よりも調和よりも自分の気持ちを優先したあの瞬間、初めて僕は朔ちゃんを理解できたと思いました。
最後に、黒龍がつかさどるのは”停滞と破壊”。これはポジティブに言い換えれば”安寧と打破”。朔は悲しみ苦しむ展開を打破し、みんなが幸せに過ごせる安寧を手にした、誇り高い黒龍の神子だったな、と感じずにはいられません。


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