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バレンタイン

今日はバレンタイン。先日錬成したバレンタイン・スイーツっぽいものを、本命(恋人)と裏本命(高校時代からの親友と弟一家)にお届けしてきた。


お菓子作りのセンスが絶望的に欠落しているくせに、大切な人にはやっぱり手作りを渡したいという乙女心、およびお菓子を錬成している間台所がめちゃくちゃいい匂いに包まれるあの感覚を味わいたい欲求、亡母が遺したお菓子作りの道具たちに年に一回くらいはシャバの空気を吸わせて差し上げねばという使命感、等々によって、ここ数年は手作りを続けている。

とはいえ繊細なものはレシピを見るだけで腰が3メートルくらい後方に下がるので、基本的に焼きっぱなしのものばかり。一昨年、昨年はフロランタンを作ったのだけれど、私みたいな不器用が服を着て歩いてる人間にとってもそれなりに作りやすく、お届けした反応もよく、自分の好物でもあるので今年もそれを作るつもりでいた。先月末までは。

ところが今月に入ってたまたまネット上で「りんごを使って作るアップルローズ」のレシピに遭遇してしまった。そこに「簡単です❤️」という注釈がついていたばっかりに、私は自分の不器用さを忘れてある妄想にとりつかれてしまったのだ。


このアップルローズとやらを作り、チョコレートを使って板状のお菓子を作れば……

かいとうUの予告状が再現できるではないか!!

かいとうUとは「おしりたんてい」(原作は絵本。アニメにもなっています)に出てくる主人公のライバル的存在で、春に3歳になる甥が数ヶ月前から夢中になっているキャラクターだ。そして甥の熱い推し布教によって、彼の母親である義妹ちゃんと彼の叔母である私も、なんかカッコいいよね……とひそかにときめくようになってしまった世紀の大泥棒である。

寒いこの時期のおいしいりんごを使って、かいとうUの予告状をもじった熱いラヴレターを書いてみたらどうだろう?甥と義妹ちゃんに大うけできるのではないだろうか。そして我が恋人にも別の意味でウケるのではないだろうか。

そんな妄想に身をゆだねて出来上がったのがこちらです。


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おかしい……なんか思ってたのと全然ちがう…………。

かいとうUのスタイリッシュな予告状の文面をもじって書いたはずの情熱的ラヴレターが、怪文書じみた不気味さを爛々と放っている。

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「レンチンした薄切りりんごを並べてくるくる巻くだけで、簡単に華やかな薔薇ができあがります!」というレシピを忠実に踏襲したはずなのに、どこからどう見てもまごうかたなきお遊戯会のお花になっている。どうしてこうなってしまったのだろう。イメトレは完璧だったはずだ!

いや、考えるまでもない。年に一度しかお菓子を錬成しない筋金入りの不器用人間にとって、果物で薔薇を作るとかチョコペンで文字を書くなんてのは、あまりに無謀すぎる挑戦だった。実際作っている最中ずっと「無謀」の文字が頭の中をぐるぐる回っていた。レンチンしたりんごを破かないように一枚ずつ剥がしたり、重ねて巻こうとすると脱線していくりんごを並べなおしたり、ようやく巻き終えたりんごを自立させるべく息を止めて四苦八苦したり、ブラウニーの凸凹の表面に震える指でチョコペンを絞り出している間中ずっと、脳内で「無謀」の二文字がカーニバル状態だった。箱詰めする頃には「無謀」がゲシュタルト崩壊寸前だった。

敗北感を、ブラウニーの切れっぱしと共に噛みしめた。ほろ苦い味がした。


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まあ、思ってたのと全然違う感を味わうのは毎年恒例です。そして手作りの荒々しさを、モフモフの愛らしさによってどうにか誤魔化そうと悪あがきをするのも毎年恒例。

例年通り、我が家のねこたちの写真を使って自作したシールを使ってラッピング。りぼんを巻くとかうつくしい包装紙で包むとか、そういう気力はもはやない。

そうして先ほど3軒を回ってお届けしてきたけれど、みんな「薔薇にしか見えないから大丈夫。さ、涙をお拭きよ」(恋人)「この薔薇も作ったの?ワカナ知恵熱出てない?大丈夫なの?!」(親友)「かいとうUのばらだね~!」(甥&義妹ちゃん)と……なんとも胸に染み入るコメントを添えて受け取ってくれた。あったけえ……あったけえよ……ありがとうよみんな……


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そして親友と義妹ちゃんからはそれぞれ、手作り・市販品を織り交ぜたすてきなバレンタイン・スイーツをいただきました。二人とも甘いものがたくさん食べられない私を慮って、何点かは日持ちするものを取り混ぜてくれているのがとてもうれしい。明日からしばらくは充実のおやつ&晩酌タイムを過ごせそうでにやにやしています(チョコレートは赤ワインにも合いますゆえ)。本当にありがとう!


ちなみに私は義理チョコを配るという習慣がないが、一度だけやってみたことはある。何年か前にバレンタインを目前にして仕事が猛烈に忙しくなったことがあり、職場のメンバー(男所帯です)に残業中につまんでもらおう(もちろん自分も食べる気満々で)と、ブラックサンダーを駄菓子屋さんに置いてあるようなプラスチック製のポットにみっしり詰めて「バレンタインチョコです、ご自由にどうぞ」と持参したのだが、男性陣は予想以上に喜んでくださり、3日かそこらでハケてしまった。それだけなら良かったのだけれど、ホワイトデーに明らかに私が持参したものの価格の3倍はするであろう、有名店のお菓子詰め合わせがお返しに来てしまいまして……大変申し訳ない気持ちになった。それ以来バレンタインの時期にお菓子を配るのはやめにして、代わりに季節を問わず、繁忙期にチロルチョコやキットカットの大袋なんぞを差し入れることにしている。もちろん自分も食べる気満々なので、まあ自分のついでと言ってしまっても差し支えないくらいの軽い気持ちで買ってくるのだけれど、時々「いつもワカナさんおやつくれるんで、お礼っス」なんて言いながら職場の男性陣がハッピーターンや醤油せんべいを差し出してくれたりするのがちょっと……いえ、かなりうれしいです。義理チョコの風習は、贈る方も貰う方もお互いわくわくできる環境下でならいいんじゃないかなあと思うけれど、自分にはこのくらいのやりとりの方がうれしいな。

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