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受験勉強は「引き算」だと気づかない生徒たち

こんなことがありました。

 青雲学院は愛知県と静岡県に教室を持っています。中でも愛知県では20年以上にわたり受験指導を行ってきました。

 今回は、その受験指導でのずっと昔の思い出話になります。

 愛知県の公立高校入試では、今は出題されますが、長らく数学の証明は出題がされていませんでした。

愛知の数学では「証明問題は出ない」というのがずっと塾の間では常識でした。だから受験指導の際にも証明はカットして他に力を注ぐようにアドバイスをするのが通例だったと言えます。

そしてある時から証明問題が出題されるようにはなったのですが、出題される現在でもかなり基本的な出題になっています。試験作成者も本格的な証明問題については採点が大変ということもあったのかも知れません。

 対照的にお隣の静岡県の入試ではずっと証明は出題されています。ちょっとこの対比も興味深いところではあります。 

  ところが当時、受験の直前に心配だからと言って、愛知県の公立高校受験生の中に、証明問題にこだわってずっと一生懸命にやっている生徒がいました。 

 私が上記のような通例になっているため「おそらく出ない」と説明すると、「もし出題されたら困るから」と言ってやっていました。

 よく話を聞くと学校の先生が、入試にはあらゆる分野の内容が「隅々まで出題されることもある」という趣旨のことを言ったというのです。

 しかしこれは受験の対策としては一番やってはいけない「対策範囲の拡大」という悪策に陥ってしまった例だと言えます。

 学習したことはすべて満遍なく隅々まで準備するというのは、受験においては失敗となる危険性が高いので最も避けるべきことなのです。

 そこで、毎年決まって20年近く連続で出題されている必ず取るべき計算問題をやらせたところ十分にできなかったので、出るところの対策をまずしっかりやる」という受験対策のイロハを教えて、何とか軌道修正をしたのを覚えています。

対策範囲を広げてはいけない

 受験がやってきても、普段から一生懸命勉強をしてさえいれば自動的に合格するはずという考えを持つということは悪くはありません。

 むしろ本当は学習の理想かも知れません。しかし現実の受験においては、情報がないまますべての学習を全力でやるということがどんなに遠回りで大変なことかを知る必要があります。

 受験前に学習を詰めていけば、必ずどんな生徒も時間が足りないことに気づきます。

 そこで多くの人が森の中に迷い込むことになります。すべてやろうとしてひたすら学習時間を増やしてしまう生徒。

これまで習ったことを一からすべてやっていったのに、途中で残りはカットしてしまう生徒。それでは残りから出た場合にどうしようもなくなってしまします。

 全範囲の学習は上手に絞り込みをしないと成功をすることが難しいのです。こういう思考をしていくと「出題される可能性が低いことはやっていてはいけない」という、ごく当たり前の理屈に気づくのです。

過去問題を見たことがない生徒

 指導をやっていて一番驚いてしまうというか、心配してしまうのは、大学受験でも高校受験でも「受験する試験問題の過去問を見たことがない」という生徒です。時期にもよりますが、受験直前の時期にそんなことを言う生徒がいたります。 

 これは学校の授業で、受験問題を実際にすべて解けるように範囲を網羅できるのが受験の直前になるので(特に高校受験)「まだやらなくてよい」「やっても解けないので今は逆効果」というようなアドバイスをするためかも知れません。 

 確かにそれも一つの考えですが、「問題自体を見たことがない」というのはまた別の問題です。受験をすると決めたときに、どんな問題が出るのかということが気にならないはずはありません。

もしそういう気持ちにならない場合には、「自分の受験だという自覚」がないと言っても過言ではありません。

受験に出ないところはたくさんある

 国家試験でさえ出題されるところは限定されています。全範囲からランダムに出るとしても、その出題される部分はほぼ決まっています。良い試験ほど、間違いなくその形をとっていると言っていいかもしれません。

基本的なことをしっかりやって学習をしてきた者が試験を通過できるようにして合格者に一定の質を確保するためには、これが一番良い方法だからです。ただ、その出題の仕方で難易度を変えたりしているだけです。 

 基本部分は過去問題に網羅されるわけではないので、過去問題だけでは合格できない国家試験ももちろんあります。しかし、高校受験程度の試験であれば、過去問題に出題されたことがない基本部分は本当に限られたものになります。どうしたって何回も同じことを聞くことになります。

 たとえば愛知県の公立高校入試の国語の漢字では「臨む(のぞむ)」という漢字が複数回出題されています。これだけたくさんの漢字が世の中にあるのにです。

 間違えやすいのでそれだけ出題者は聞きたいということです。逆に言うと、「受験に出ないところはたくさんある」ということになります。

過去問題による情報収集

 だから、まず過去問題を見てみるということは、出題の情報を検知するための受験対策の重要なワンステップになります。

青雲学院では過去問題専門の講座を昔からやっていますが、過去問題をしっかり解いて出題を知ると、難易度はともかくとして生徒は「大体こんなものか」という安心も手に入れることができるため、メンタル面でもとても効果があります。

 最近は、学校の定期テストに向けて学校の過去問題を集めて対策をしている方も多いようですが、そういう方にもなぜかあまり受験の過去問題にはこだわらない人が結構いるのは、不思議な気がします。

 受験の過去問題こそ一番最初に情報分析をすべき対象だと思います。中1から入試問題を「見ておく」のが、本当は一番良いと思います。目指すべきゴールをはっきり知っておけば、おのずと道筋もはっきりしてくるものです。

 学校の先生が作ったその先生特有の問題の対策とは違い、受験問題は作成委員会が過去の出題からの流れも考えた上作成しているものですから、珍問奇問もそんなにはありません。よく見ておいて、自分の学習プランをあらかじめ考えていくということが受験対策としては非常に重要です。

 大学入試についても同じです。学校や予備校のテキストに頼るあまり、直前期になっても実際の過去問題を見ていないという人も多いようですが、実物の構成を見るとそうでないのとでは大違いです。

 学校で配布される断片的な過去問題ではなく、出題そのものが全部出ている過去問題を赤本、青本、黒本などで早めに開始することをお勧めします。

 できなければ、読むだけでもいいのです。すぐ自分が今何をすればいいのかがわかります。

受験勉強は学校のテストと違って引き算

 学校のテストでは、先生が授業で詳しくやったところが出ることも多く、生徒は、先生とのやり取りや日々の学習のことを思い出して「あれもやらなくては」「これもやったな」ということで、対策に必要なものを順に足していく感覚で準備をすると思います。

言ってみれば「たし算型の準備」です。 

 しかし、受験対策は逆だと思います。やるべき範囲は通常、それまで学習したことのすべてになります。 だから隅々までやれば、どうしても対策の強度は弱くなります。

ポイントを絞った対策が重要です。したがって「あれは不要」「これも出ない」という対策の絞りこみが重要です。

 もちろん絶対に出ないということはありませんが、どれもこれも平板に全部やるのではなく、出題頻度の高いものから押さえておき、低いものは余裕があればやる(やらなくてもよい)ということです。 

 こうすることで、受験対策の効率は飛躍的に上がります。実際にこのやり方に変えた途端、模試の偏差値が急上昇することはよく見かけます。当然ですね。模試では受験に似せた出題がされているのですから。

 模試の成績が伸びない場合には、「自分が試験と関係ないことに力を入れていないか」を再度確認すると良いと思います。意外に、試験に出ないことにこだわって時間を割いていたということがあるものです。

 このように受験対策の学習は、「たし算」ではなく、不要なものをどんどん捨てていく「引き算型」の準備が正解ということが言えると思います。

一度学習のやり方について振り返ってみるとよいかも知れません

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