今週の一首③~毎日お題より~

こんにちは。第三回目の今週の一首、今回は北谷雪さんの一首を勝手に評していこうと思います。

目覚ましの針は水平線を描き遅刻の朝に一瞬の凪 / 北谷雪

10月18日、お題「遅刻」で投稿された一首。比喩の巧みさが光る一首だと思います。一読して「うわ、すごい」と思わせるとともに「あーーー嫌なこと思い出しちゃった、、、」と落ち込む一首でもありました。技術に裏打ちされている一首なだけにその破壊力もハンパじゃありません。何となく皆さん感じてらっしゃると思いますが、私はいろいろ本当にだらしなく、徳の低さでは全国大会でシードレベルなので、思い当たる経験が腐るほどあるのです。あぁなんか書くの辛くなっちゃった。ジム行こ。

(ジムから帰宅)
この歌の最大の魅力は上句、下句それぞれに作者の観察眼の鋭さがにじみ出るような比喩が使われているところです。目覚ましの針が水平線を描くということから、時刻はおそらく9時15分なのでしょう。まぁいろいろおしまいです。即言い訳を考え始めねばいけません。そんな時刻を指した時計の針を「水平線」として切り取る発想が素晴らしいと思います。しかも、この水平線の比喩はそのまま下句に引き継がれ「凪」を導きます。言わずもがなですが、どちらも海に関係した単語ですね。なんて気の利いた構成でしょうか。

そして下の句では遅刻を確信した主体に「凪」が訪れます。この「凪」はショッキングな場面に出くわした時にやってくるあの「あ、、、」という瞬間のことでしょう。よく「時が止まった」などと表現されるこの瞬間を「凪」ととらえることのできるセンスに嫉妬を覚えるほどです。さらにこの「凪」が体言止めである点も見落としてはなりません。体言止めにすることにより、より「あ、、、」の瞬間に焦点が絞られ、歌に破壊力を生み出します。それはこの瞬間を経験した事がある者を誰も仲間のいない大海原に放り出してしまうような強さです。360度見渡す限りの水平線。孤立無援で絶望的な大海原から果たして主体は生きて還れるのでしょうか(さらにこの海は大時化になることが確定しています)。

短歌の詩情というものには様々な物があります。ぱっと想像できる切なさや悲しみ、暖かい愛などだけでなく、こういった生活感のにじみ出る中に光る一瞬の場面・感情をすくい上げることで醸し出される詩情もあると思います。


ちなみに私は大学時代、クラスの友人達に野球に誘われましたが、興味もないし絶対寝坊することが目に見えていたので「行けたら行く。メンバーには数えないで」と言って当日しっかり寝坊、試合終了直後に手ぶらでグラウンドに現れ、みんなに「お疲れさま」とだけ声をかけて帰ったことがあります。

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