毎月短歌連作部門 斎藤君選5

こんにちは。浪人と遊女の間に生まれた無用の子、斎藤君でございます。
今月も毎月短歌連作部門の選をさせていただきました。いい加減一席~三席までの賞名のネタがなくなってきたので、今回は私が一番好きな映画監督の初期三部作のタイトルにしました。それでは発表です。ででん。

一席 Permanent vacation賞

りのん 通勤路

なんでもない毎日の通勤路を描いた連作ですが、細やかな事物・心理の着眼点が素晴らしく、それを詩情を持って昇華させていると思います。多くの人が抱える「憧れと現実の乖離」という大きな問題を、通勤路という限定されたテーマで切り取れる勇気と、それを短歌の連作という形で大きく広げられる技術に拍手を送りたいです。

二席 Stranger than paradise賞

宇井モナミ 水曜日の動物園

連作全体に淡い哀愁を帯びており、そのトーンを維持しつつ詩情が優しく読者の胸に沁みてきます。主体が一首(もしくは二首)のみ登場し、それ以外は動物園に収容された動物達に感情を仮託して連作が語られてゆきます。静かで美しい連作だと思いました。

三席 Down by law賞

畳川鷺々 セカイケイ

インターネット黎明期から現在を俯瞰して見るような連作でとても興味深かったです。キーとなる歌の配置も巧く、安心して読ませる技量を持っているなぁと思いました。もし確固たる主体がこの連作にいるとするならば、もう少し人物を掘り下げるような歌があるとぐっと全体の解像度が上がるかもしれないな、と思いました。
 

続いて一首表彰のコーナーです。ででん。

雨に唄いま賞
真朱 「感情がこぼれているの、」より

いつ降るかわからぬ雨を待つようにあってもなくても苦しい返信

ガラコしま賞
菜々瀬ふく 「ドライブ」より

歌というよりも叫びだ誰よりもこの心を知るフロントガラス

ブルトン賞
祥 「火の鳥」より

大きさで言えば鯨と恐竜はシュールさに於いてどこか似ている

You may dream賞
佐竹紫円 「記憶の街の動物園」より:

これまでに見た何よりも美しくクジャクは夢から生まれたはずだ

六月が水無月ってのは違和感しかないで賞
てんぺん 「炭酸が飲めない」より

借景のあじさい青くそれでいいそれでいいのよ出かける夕べ

くらえ!在来線爆弾!賞
みじゅ 「呼吸」より

自転車の不平等さに比べたら 満員電車の優先座席は

レ・ミゼラブル賞
よしなに 「紫陽花の殻」より

ウソツキはドロボーだってまっ白い紫陽花が言う傘もささずに

婦人科検診は大事で賞
桜井弓月 「博愛的反生殖」より

一番に誇れることは誰ひとりこの子宮から生まなかったこと

搾る前に許可取りま賞
まちのあき 「そして」より

「そして?」って言われて気づくレモン汁きゅっと搾ったみたいな恋に

以上です。今月もありがとうございました。サクッ、うっ・・・き、貴様は・・・!バタリ(CHAGE&ASKAが流れてエンドロール)。

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