今週の一首⑦~毎日お題より~

こんにちは。師匠を殺した拳法家に復讐するため地獄の底から蘇ってまいりました。復讐の第一手としてまずは今週の一首について書いていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

え?意味がわからない?私のPCのキーボードは押下するのに10kgの力を必要とするのですが、それで指を鍛えるのです。そう、あの拳法家の喉を貫くための指を。武道とスポーツ格闘技の違いは指ですよ。指には無限の可能性が詰まっているのです。ちなみに今は両膝と頭に20ℓの油が入った甕を乗せてこの文章を書いています。物凄い集中力が身に付きますので皆様もぜひに。


あこがれに触れれば二度ともどれない ぼくらは海で息ができない / あひる隊長

うたの日に彗星のごとく現れた謎の歌人、あひる隊長さんが十一月十六日のお題「あこがれ」に投稿した一首。とても完成度の高い一首だと思います。全体的に具体物が少ない歌ですが、それだけに純度の高い切なさ・苦しさのようなものが伝わってきます。

この歌を鑑賞してまず「え?何か良さそうだけどどういうこと?」と思われる方も多いかと思います。それは上句と下句の意味が断絶しているように思えるからです。そして、その意味の繋がりを考えることで(上句と下句の距離を埋めていくことで)起こる化学反応こそがこの歌の最大の魅力であると思います。

上句の「あこがれに触れれば二度ともどれない」は理解できる方もそうでない方もいらっしゃると思います。人それぞれ受け取り方は違うと思いますが、私はめちゃくちゃ理解できる派です。私の人生は憧れを一つ一つ潰していくこと(達成すること)が大きな目標の一つになっているからです。そして、憧れは達成されたその瞬間、以前の輝きを失ってしまいます。達成後の憧れに魅力がないわけではないけど、達成前のあの焦がれるような気持ちはもうこいつに感じることはできない、といった感じでしょうか。もちろん、これは私の受け取り方であって、読者が違えば全く違う読み方をするでしょう。それ以前にあひる隊長さんの歌意とも違っているかもしれません。もしかしたら、この歌の「あこがれ」は人なのかもしれません。主体が焦がれるように憧れた人物に触れられる時がやってきた、しかし、その瞬間この人物は主体の中で変質してしまう、的な。

では、下句の「ぼくらは海で息ができない」はどうでしょう。海とは何か。海が憧れの象徴なのか?もしそうであるとすれば「主体にとって海のように大きな憧れであった物・人は触れてみたら全然思っていたのと違っていた。主体の中で微かな「裏切られた」という感情が生まれる。そんな複雑な感情の中で主体は溺れてしまいそうになる」という感じの意味なのでしょうか。いや、これもやっぱり違うかもしれません。

もしかしたら主体は憧れに自らの命運を含めた、あらゆる全ての物を賭けていたのかもしれません(例えば駆け落ちのように)。そして、一度憧れに身を投じてしまえば二度と以前の状態に戻ることはできない。この意味で解釈した場合、怖さをまとった切迫感が「息ができない」に表れているように思います。

いやあ、正解はわからないですがこの作業はやっぱりめちゃくちゃ楽しい。こういった歌はスルメのように味わいがじんわりと染み出してくるものです。まだまだ噛みたい。あひる隊長さんに歌意を直接伺ってみたいのは山々なのですが、そんな無粋なことをしたが最後、私は復讐を達成する前に舌を噛み切って自害するかもしれないので敢えてしません。

さらに言えば、上句・下句ともに「ない」でまとめているのもニクイところです。「もどれない」「できない」と重ねることで、より冒頭に書いた切なさ・苦しさのようなものが強く心に染み入ってきます。俯瞰してみれば短い文章をスペース空けて二つ書いただけの構成であるのに、その実隅々まで気の配られた美しく苦しい一首になっていると思います。あひるさん、何者だあんた。

ちなみに私は「ゼルダの伝説~神々のトライフォース~」をノーコンティニューで全クリするという憧れをつい先日達成しました。もちろん、ハートの欠片とアイテムフルコンプリートで。しかも3時間27分で。Switch版?いいえ、ちゃんとスーパーファミコンの機体とソフトで、です。


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