第6回毎月短歌 斎藤君選

こんにちは。先日澪那本気子さんと睦月雪花さんから「歌壇賞の最終候補10作に残ってますよ!」と連絡を受け、早速歌壇2月号を注文したのですが、アマゾンの翌日配送に慣れきってしまった身に土日を挟んだ四日という時間はあまりに長く、痺れをきらして近所のでかい本屋に直接買いに行ってしまいました。そしてさらに掲載者には無料で冊子が送られてくるらしく、一週間後にしっかりポストに入っておりました。つまり現在同じ本が手元に三冊あるということです。こういうところなんでしょう、私が女性に愛想を尽かされる理由は。はは、かなし。

何はともあれ今回は第6回毎月短歌の選考結果を発表したいと思います。
毎回思うのですが私ごときが選をするなどおこがましいにもほどがあるので、自選部門はできるだけ沢山取らせていただきました。一~三席以外は全て特別賞です。
では早速発表に移りたいと思います。よろしくお願いいたします。
、、、長いよ。本当に。

自選部門

一席 エキノコックス撲滅賞 
あやかしも人も久しき夜祭に狐の面のあふれてゐたり / 小金森まき

コロナ禍で各地の祭が軒並み中止となった時期を経て、ようやく解禁となった時の歌と読みました。あやかし・狐の面がとても効いています。疫病という目に見えないものの不気味さをやんわり漂わせつつ、活気に溢れる祭りの様子を生き生きと想像させます。一首の中に内包されている二面性に惹かれました。

二席 ダイコクドラッグ新宿南口店賞
クリームをたつぷり掬ふ ひだりてをあなたととりかへる夢をみた / 高田月光

とても柔らかい不思議な歌です。短歌において「手」は様々なイメージを持つ重要なアイテムの一つですが、この歌は左手のもつ神秘的なイメージ(左利き・不浄・ぎこちなさなども含むかもしれない)を起点に、愛する人と同化したいという欲望を歌っているのではないでしょうか。あなたの不思議な左手に魅了された主体を浮遊感のある美しさで描いていおり、とても好きです。

三席 カサブランカ・ダンディ賞
キャバクラをいでて馬肉を喰らふては晩夏の色町へと戻りぬ / 風吹く

キャバクラ・馬肉・晩夏の取り合わせが素晴らしいです。主体が男性であれば精力旺盛な脂ぎった禿頭であるでしょうし、女性であれば夢グループのCMにでているあの人のような妙齢の方でしょう。きっと声も酒やけしています。汚さをはらみつつたくましく生を謳歌する人間の姿をありありと想像させる強い歌だと思いました。

たぶん希望もあるで賞
「平和」とか「朝の光」と名付けられ裸の女街角に立つ / たんかちゃん

国土の75%は山で賞
濃緑と浅い緑と黄緑を見慣れた頃に旅は終わりぬ / 藤本くま

片づけは人間の叡智で賞
おれのことだからおそらくこのへんにしまっておいた感情がある / 水口夏

きっと栃木のいちごで賞
期待ってうれしいんだか重いんだか何もない日のいちごのケーキ / 真朱

結局醤油に戻るで賞
孤独から逃げようなんて思うことないのでやはりラーメンが好き / 夭夭雷

あれ?なんか市○隼人が見えるで賞
スプレーで壁にSummerと書かれててたぶん僕らが10代の夏だ / 藤瀬こうたろー

たぶん庭師になるで賞
筆箱に生でコンパスを入れるやつ傷ついても傷ついても / とうこ

東京は今日も雨だったで賞
雨になる数秒前に渡される匂いが好きだ ここは東京 / 梅鳥

護身用でも逮捕で賞
違います私の銃は鈍色のそんなに人が撃てないやつで / 短歌パンダ

替え刃高いで賞
髭を剃る少し猫背の長男がいよいよ背中で語り始める / 琴里莉央

貴様に何がわかるで賞
「泣きたい」と書けば赤字で直されて歌の中でも素直に泣けぬ / くらたか湖春

そのうちあなたになるで賞
サイレンが歩道橋の下を潜り抜け私じゃなかった、私じゃないのか / 野口み里

やっぱり栃木産で賞
クリームはあらかた掬い取ってから銀のフォークに刺すとちおとめ / 綿鍋和智子

いい緑がないで賞
試し書き用紙にペンを走らせてここを小さな花畑にする / くぼたむすぶ

遺骨は大事にしま賞
「ただいま」といえば記憶の「おかえり」がしっぽをふって今も駆けよる / 小野小乃々

結局遺伝で賞
「前へならえ」腰に手をやる誇らしき我が子よお前が基準なのだね / 水沢穂波

それもまた適応で賞
家系図の最後をかざるわたくしは進化の大樹の美しい枝 / 水の眠り

お師匠さん!頭が割れるで賞
未知の国、未知の世界を探しつつ言葉訳して風の鳩摩羅什 / 祥

あたま山で花見しま賞
運命の出会いは可視化してほしいたとえば頭に双葉が出るとか / ぐりこ

炎タイプ弱点多いで賞
炎とはいのちの比喩じゃなかったかめっちゃ強火で遺体が燃える / 伊津見トシヤ

おばさんになっても好きで賞
(平凡を羨む夜があなたにもありますか)サイリウム折る音 / 小石岡なつ海

きんも百歳ぎんも百歳で賞
泣きながら運転するし料理するきっと私は100まで生きる / 遠藤ミサキ

意外と歯が怖いで賞
信楽の狸みたいな顔をしてただやりすごす三者面談 / ZENMI

アニメの語源はアニミズムで賞
カチューシャが流されていてその辺が顔なのですねと川に手を振る / 猫背の犬

雪見だいふくもいっちゃいま賞
あたまからつまさきまでぜんぶさみしい パピコを割ってどっちも食べる / 一色凛夏

JRAぼろ儲けで賞
下心だって心だ未勝利のサラブレッドのように駆け出す / 哲々

子泣き爺のもとへいったので賞
一階の砂かけババアの生活のすべてが運び出されゆく春 / 烏山千歳

目だ!目をねらえ!賞
あとに乗るひとに何階かと問えるビニール傘を盗まれない日 / 彩結ゆあ

食べきりサイズという名にかこつけて内容量を減らす企業を俺は許さない。絶対に賞
赤ちゃんの飲みきりサイズであるとして小さき乳房褒められており / 山口絢子

結構マジであるかも賞
怪獣が弊社を避けて進むので今日も元気に出勤します / もくめ

風向き次第でダメで賞
クミンクミン異国の香り満ち満ちて座標を少しずらして喋る / インアン

ギンギラギンの猿が鳴くで賞
水たまりのあぶらを虹と笑ってた自分を大事にしなかったひと / 久々カナ

親指は握り込まないようにしま賞
雪原で背泳 きみの不自由を笑うやつから殴ってく朝 / 塩本抄

デュラムセモリナ粉には100gあたり約12gのタンパク質が賞
理不尽に満ちた煮え湯をくぐりぬけパスタは曲がることを覚える / 文月のペンタトニック

祥月命日いのちの鐘賞
長いなと思いつつ切れずいた爪の今日は命日、ぱちん、みかづき / 畳川鷺々

ライフラインに消費税とはこれいかに賞
二人なら全てがデートだったこと上下水道料金センター / おさむ

切れ毛は女の敵で賞
のこされた柘植の小櫛は祖母の手の代わりとなって私を撫でる / 水川怜

ストレッチ種目が一番肥大するで賞
己しか見えない若き胸板に抱かれている ああ、もう桜 / 朝路千景


テーマ詠「肌」部門

一席 人生劇場 飛車角賞
張りのあるうちに揉めやと迫り寄る与謝野晶子のちからある乳 / T・G・ヤンデルセン

与謝野晶子の炎のようなイメージを全面に押し出し、読者にまで迫ってくるような迫力があります。「揉めや」「ちからある」が効いており、肌の湿り気まで感じそうなほどです。また「乳」と体言止めすることにより、そこに歌の焦点が絞られて(もうかんべんしてくれ・・・)と思わせるに十分な力があると思います。

二席 私は泣いたことがないで賞
夜がひとつ欲しくてひろげあう四肢のなんてつめたい部品だろうか / 石村まい

欲しいのはあなたではなく心の隙間を埋めてくれる一夜であり、そこで広げられる愛情を伴わない四肢は熱を持つことがない、というように読みました。なんと切ない一首でしょうか。部品という言葉から身体が自分のものでないような余所余所しさも感じます。初句の「夜がひとつ」という切り出し方もとても素敵です。

三席 「運転手さん、信号、黒だよ」賞 
信号とテールランプとほっぺたと 冬の夜では赤が大きい / 良い天気

信号とテールランプ、そして頬の赤色は冬の夜に大きくなるという切り口が面白いです。もちろん実際は信号とテールランプの赤色が大きくなることはありませんが、空気が澄んだ冬の夜に見るとよりくっきり輪郭が意識され、確かに大きく感じるかもしれません。発見の歌でありながらしっかりと詩情も醸し出しているとてもいい歌だと思いました。


以上です。お読みいただきありがとうございました。受賞者の皆様、おめでとうございます。そして今回私の気力不足により賞を設けられなかった皆様、ほんとすみませんでした。お詫びに今から12時間耐久戦場のメリークリスマス鑑賞を自らに課します。眠ったらマイクで殴ってください。

ゴンッ

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