008社会保険料節税スキームは正義か? 長生きしなければですけど。
ネット界隈では知識人と思われる人が社会保険料の節税を配信し、企業には「社会保険料年間○○万円安くできます」というFAXが毎月届きます。
これは本当なのでしょうか? はい本当です。
対象者は主に役員です。
どうやってやるかというと「賞与」を使います。
社会保険料の決定は、毎月の給与をもとに「標準報酬月額」を決定し、この額に保険料率を乗じて保険料を計算します。
また、賞与については、支払う都度保険料率を乗じて保険料を計算するのですが、ややクセがあります。
どういうクセかというと、保険料率を乗じる金額に上限があるのです。
厚生年金保険料の賞与額の上限は支払う都度150万円。
健康保険料の賞与額の上限は年間573万円です。
ややこしいですね。
具体的に言うと、ある月にボーナスを1000万円支給したとします。
社会保険料率って約32%ですから、1000万円×32%=320万円もの保険料がかかると思われるかもしれませんが、そんなことありません。
先ほどの上限がかかってきますので、
厚生年金保険料は 150万円×18.3%=27万4500円
健康保険料は、 573万円×11.58%≒66万4千円
の合計 93万8500円しかかかりません。
この方法を使って、年収1000万円程度の役員に社会保険料節税スキームを導入します。
従来は、月額85万円の報酬だったものを、月額10万円に変更し差額を賞与で支給します。
従来 月額85万円×12月≒1000万円
対策後 月額10万円+賞与880万円=1000万円
※ここからは、本人の保険料負担のみで計算します。
従来の報酬月額だと、年間の保険料は約130万です。
対策後だと年間の保険料は約64万円まで下がります。
なんと、1年間で66万円も節税。10年間で660万円。
「社長、社会保険料でクルマが買えますよ!」とコンサルタントが言ったかどうかは知りませんが、それぐらいのインパクトです。
「これを、やれるのは社長さんだけです。直ぐに節税できるのに、やらないのはバカですよ。」とコンサルタントは言うのかな?知らんけど。
デメリットは無いのでしょうか?
①税金が増えます。
社会保険料は全額が所得控除されるので税金がかからないのですが、社会保険料が少なくなった分は所得に転換するので、確実に税金が増えます。
でも、保険料で得した分を上回る課税はありませんので、税金が増えたところで、やっぱりこのスキームを使った方がお金は残ります。
具体的に見てみると、年収1000万円で、所得税率と住民税率の合計が43%だとすると、保険料の節税額(64万円)×税率(43%)≒28万円の増税となり、保険料の節税額から増税額を差し引くと(64万円-28万円)=36万円は相変わらずお得です。
②将来もらう年金額が少なくなります。
厚生年金は報酬比例と言って、高い報酬の人は年金額が高く、低い人は年金額が低いです。給付反対給付均等の法則です。
今回のスキームを使うと報酬額は変わらないのですが、報酬額の支払い方法を変化させて保険料を抑える方法を取っているので、年金額が少なくなります。
1年間、このスキームを使ったとして比較します。
老齢厚生年金の金額が被保険者期間1年間でどれだけ変化するかを見てみます。
従来の標準報酬月額で計算すると、1年間での老齢厚生年金の増額は 約42,900円(650*12*5.5/1000)
今回のスキームでの計算をすると、1年間での老齢厚生年金の増額は 約14,850円((100*12+1,500)*5.5/1000)
その差額は、約28,000円
つまり、今回のスキームを1年間使うと、従来の報酬額に比べて年間28,000円年金額が少なくなります。
年金は生きている間もらえるので、長生きするとその差は大きくなります。
保険料の差額は66万円ですが、実質的な差額は36万円でした。
実質的な差額÷年金差額をすると、何年で追いつくか分かります。
36万円÷28,000円≒13年
年金を65歳から受取り開始すると、65+13年=78歳以上長生きすれば、今回のスキームで得した金額を、スキームを取らなかった場合による年金額が上回ることになります。つまり、78歳以上生きるのであれば、従来の方法で報酬をもらっていたほうがお得になります。
一方で、78歳まで生きていない人は、今回のスキームを使って保険料節約したほうがいいでしょう。
実際には、本人が年金を受け取る際の働き方や年金法・税法によって結果が異なってきますので、どうなるかの予測は困難です。
しかしながら、目先の保険料節税ができたところで、それほど旨味はなくて、コンサルタントと称する人たちが保険料節税による成功報酬を掠めているだけとしか思えません。
とはいっても、この程度のコンサルタントで何十万円もの報酬もらえるのなら私もやってみたいです。
長生きしそうにない社長さん、ご連絡お待ちしております(笑)。
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