1996年8月20日(火)《BN》
【冒険者組織書籍部:内田 佳奈美・大島 清吾・森下 翼】
「着実に進んでいるみたいね」
両手で何かの作業をしながら内田 佳奈美が笑顔で言葉を発した。ここは15時を過ぎた時間の冒険者組織書籍部。今日は客も少なく、非常に落ち着いた雰囲気が漂っている。いつものように午前中は僧侶鍛錬場で鍛錬を行い、お昼ご飯を食べて14時からここの業務に入っている内田は、19時の閉店まで働く予定である。正直冒険者として活動している内田は、十分すぎるお金は持っているので、ここで働く理由はお金が必要なわけではない。本好きが多い冒険者たちに、望みの本を提供してあげたいというのと、同じ本好き同士で知り合いになりたいという気持ちがある。結果、冒険者の中でも本が大好きな双璧である前田 法重と本田 仁の2人とも、本談話が出来るほどの仲になっている。また、そこまで本が好きではなくても、ここで知り合って仲良くなる人もたくさんいるのだ。今目の前にいる大島 清吾と森下 翼がその際たるものである。
「一応13期最強って言われてますからね」
自慢げな表情を浮かべて森下が発言をする。確かにその通りなのであるが、大島はそれを聞いて軽くため息をついているようだ。
「でも油断は禁物よ」
少し厳しい表情を浮かべて内田が声をかける。
「地下3階には本鬼がいるから、そこだけは本気で注意しないといけないわ。もちろん本鬼2体ぐらいならなんとかなるけど、数が多かったり他の亜獣と部隊を組んだりしているとかなり厄介よ」
自分の経験から内田が地下3階の探索について助言をする。地下3階に出現する本鬼という亜獣は、明らかにそこで出現するには相応しくなく、もう少し下の階にいてもおかしくない強さを誇っているのだ。なぜ本鬼が地下3階に存在するのかについては、関係各所が色々な仮説を立てているが、その正しい理由についてはまだ解明されていない。
「でもうちの戦士は優秀だから大丈夫だと思いますよ」
軽く大島に視線を向けながら森下が返事を返す。同じ部隊の大島、飯島 桜、宮崎 桃は3人とも戦士としてかなり高い実力を備えている。多少強い亜獣と遭遇してもこの3人が敗走する姿は想像できないのである。
「だったら良いけど、とにかく油断しないでね」
この言葉に対して内田はあえて否定をせず笑顔で返事を返す。確かに>>1さん部隊の戦士3人は実力上位と聞いているし、罠解除士の森下、僧侶の宮崎 藍、魔術師の細川 舞美も実力者の集まりなので、この部隊が危険という判断であれば、他の部隊は探索ができなくなってしまうといっても過言ではない。この後、大島と森下は内田と分かれて書籍部を後にし、内田は閉店までのんびりと書籍部の業務をこなしたのであった。