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1998年6月9日(火)

【罠解除士鍛錬場:大塚 仁・森下 翼・宮本 紳・飯島 志保】
「飯島さんの現在の亜獣探知と罠解除能力は第1迷宮であれば地下1階レベルだと全く問題ない。ただ、正直第3迷宮がどうなっているかわからないので、最新の注意を怠らないようにして下さい」
 真剣な表情を浮かべて大塚 仁が今伝えておくべきことを口にした。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの罠解除士が鍛錬を行なっている。絶対運命黙示録部隊の第3迷宮探索がいよいよ明後日となり、各職業ともに多少ざわついている状況だ。その中、罠解除士の飯島 志保は現状では必要以上の能力を持っており、これが第1迷宮であれば胸を張って送り出せるレベルである。それは黄金世代と呼ばれた13期にも引けを取らず、当事者である森下 翼も認めており、宮本 紳も本心では認めているようであるが、決して口には出さない。
「とりあえず今は罠解除より亜獣探知が重要だから、今日と明日で最終調整しましょう」
「わかりました。よろしくお願いします」
 優しい口調で森下が声をかけ、飯島は元気に声を発し、頭を下げる。それを見て、宮本は自分が相手にしなくても良いかと考え、自分の鍛錬を始める。しばらく時間が過ぎ、森下は飯島の亜獣探知が鍛錬を始めた時よりもいい感じの反応を見せるようになったので、自分の指導はここまでとの感じた。
「じゃあ宮本さん、明日はよろしくお願いしますね」
「え、俺が指導するの?」
 指導を終えた森下が宮本に声をかける。それを聞いて宮本は少し動揺したような反応を見せる。
「ですよ。僕が教えれることは教えたので、あとは宮本さんのを教えて下さい」
 罠解除士が行う亜獣探知は人によって特性が異なり、亜獣探知を細かいジャンルに分類すると得手不得手が存在する。森下と宮本の亜獣探知の特性はほぼ正反対であり、まさに性格を表すように陰と陽なのだ。森下の判断では飯島は自分寄りの亜獣探知なので、もしかすると自分の指導だけで良いのかもしれないが、見立て違いだと困るので、宮本にも指導をお願いしたのである。
「そうか。俺が指導をするのか。森下は明日いるんだよね」
「いませんよ。明日探索なので」
 明日は森下はいないのか。であれば自分は飯島さんと2人で鍛錬をすることになる。少し不安な表情を浮かべる宮本に飯島が声を掛ける。
「宮本さん。明日はご指導よろしくお願いします」
 そういってペコリと頭を下げた飯島を見て、少し胸がときめいた宮本は何も言わずに大きく頷いた。

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