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1998年6月(まとめ)

1998年6月1日(月)
【罠解除士鍛錬場:富田 剛・大塚 仁・森下 翼・田村 沙織・飯島 志保】
「あ、富田さん、どうしたんですか?」
 久しぶりにここにやってきた富田 剛を見つけて、大塚 仁が声をかけた。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの罠解除士が鍛錬を行っている。本日大塚は森下 翼と田村 沙織と一緒に鍛錬を行っていたが、急に富田がやって来たのに気づいて声をかけたのである。
「いやいや、たまには来とかないと、だんだん来にくくなるからね」
 周りを見渡しながら富田は質問にこう答えた。富田が冒険者を引退してもうかなりの年月がたつが、今でもたまにこの罠解除士鍛錬所を訪れる。引退したとはいえ、パワーナインの一人として名が挙がる富田は今でも現役の罠解除士たちが束になってもかなわないぐらいの実力を持っている。ちなみにパワーナインとはずばぬけた才能を持つ(持っていた)9人の冒険者を総称して呼んだもので、そのメンバーは戦士系が前田 法重、原田 公司、谷口 竜一、中尾 智史、罠解除士が富田 剛と大塚 仁、僧侶が佐々木 雅美で魔術師が本田 仁と藤原 静音の9名である。ちなみにこのメンバー選抜の際、9 期以前の冒険者という限定があったため、僧侶の中島 一州はこの中に含まれていない。そこで、この中島を含めた10 名をパワーテンと呼ぶこともある。
「富田さんだ~こんにちはー」
「お疲れさまっす~」
 富田の姿を見かけて、鍛錬中であった田村 沙織と森下 翼も近寄ってきた。
「うむ、ごくろう。ところで、どうよ?18 期は」
「なかなかいい感じです。結構みんなまじめで、しっかり鍛錬しているから、上達も早いのではないかと思います。で、富田さんの質問に答えると、女の子は3人で、特に飯島さんの妹はめっちゃかわいいですよ」
 森下が富田の質問の真意を汲み取り、的確な解答を述べる。富田は解答に満足したようすで、また周りを見渡した。
「そうそう、私今から飯島ちゃんと一緒に鍛錬しようと思ってたから、よかったら富田さん指導してもらえませんか?あ、飯島ちゃーん」
 田村がそう叫ぶと、窓際で鍛錬を行っていた飯島が駆け足でこちらにやってきた。
「紹介しますね。飯島さん。桜ちゃんの妹ですね。で、こちらが富田さん」
「あ、あなたがあの富田さんですか。噂はいろいろ伺ってます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。じゃあ久しぶりに指導するとするかな」
 そういって富田は田村と飯島の鍛錬に付き合い、汗を流した。その間中大塚と森下がニヤニヤと眺めていたのは秘密である。ちなみに、おそらく皆んなが忘れていることであるが、富田は引退直前に忍者に転職しており、最終職業は罠解除士ではなく忍者だ。だがそんなことは、どうでも良いことなのである。
 
1998年6月2日(火)
【熊大生協:井上 貴志・栗原 慎・坂上 直輝】
「じゃあ現実ナックル系の武器を使用するのは可能ということだな」
 井上 貴志は栗原 慎の話に対してこのように述べた。栗原は今日の午前中の鍛錬の後、生協の中にある武器製造所へと向かった。そこでは冒険者達の武器や防具の製造、修理、精錬が行われている。そこでの窓口になっているのが坂上 直輝という修理工で、武器の注文や要求等をじっくりと聞いてもらえる。栗原は坂上にナックル系の武器の製造と、それによる迷宮探索が可能かどうかを質問してみた。
「へえ、格闘で亜獣をやっつけるってわけかい。それはなかなか斬新な発想だな。で、質問に答えると、まずナックル系の武器の製造はそう難しいことではない。まあ剣などとちがって指の太さや手の大きさが個人個人で異なるので、完全オーダーメイドにはなるけどね。ただ、それで迷宮探索が可能かどうかというのは前例がないからなんとも言えないね。動きを身軽にするために防具も最低限しか装備できないだろうし、厳しいのは厳しいかもしれない」
 栗原はこの言葉を聞いて、とにかく武器の製造は行ってくれるということを確認できただけで十分だった。さっそく栗原は両手のサイズを測ってもらい、ナックルの試作品を作ってくれるように頼んだ。3日もすれば5 パターンぐらいの見本が出来るということである。
「ということで、結局ナックル系で戦うことに決めたから、明日からの鍛錬はもうナックル一本で行くからな」
「了解。とりあえず剣を持った俺の体に触れることができるようになるまでは猛特訓やな」
 そういって井上と栗原は目の前に残っていたカツカレーの最後の一口を食べ終えた。
 
1998年6月3日(水)
【森の小径:村松 絵梨香・守田 一子・立川 美代】
「ん、おいしい。なかなかいい味だしてるわね」
 濃厚ソースのカルボナーラを一口食べた村松 絵梨香が頬を手のひらで抑えながら言葉を発した。ここは子飼交差点から旧熊大方面に少し歩いた左側の建物の2階にある喫茶店『森の小径』。時間は18時を少し過ぎたぐらいであり、お腹を空かせた帰宅中の学生やリーマン達がたくさん訪れている。本日初めて『森の小径』へやって来た冒険者18 期魔術師トリオの村松、守田 一子、立川 美代は本日のディナーセットのあまりの美味しさに軽い感動を覚えている。この店は冒険者達の御用達になっているが、彼女達はまだ冒険者になったばかりなので、初めて来たというのは仕方がないことである。
「本当においしい。明日から夕食は毎日ここにしようかな。」
「また一子は相変わらず極端なんだから」
 守田の言葉に立川が笑顔で答えた。この後3 人はディナーセットを食べ終え、追加注文でパフェも頼んだ。正直ディナーセットはある程度量があったが、甘いものは別腹なので、それをペロっと平らげて、大満足気分で『森の小径』を後にした。
 
1998年6月4日(木)
【戦士鍛錬場:中尾 智史・大島 清吾・井上 貴志・栗原 慎・松 美由紀】
「ちょっと第3迷宮の実際がわからないけど、いつまでも引き伸ばしてもしょうがないから、来週から探索を開始することにしましょう」
 18期で絶対運命黙示録部隊の戦士井上 貴志、栗原 慎、松 美由紀に向かって中尾 智史がこう説明した。ここは午前中の戦士鍛錬場。本日もたくさんの戦士が鍛錬を行っている。18期の5部隊はその内3部隊が第3迷宮、2部隊が第1迷宮を探索することになっている。第1迷宮を探索するイナバウアー部隊と、特別な週間部隊は、今週すでに探索を開始している。残る3部隊はいつぐらいから探索を開始するのかを検討していたが、とにかく探索してみないと迷宮の難易度もわからないので、細心の注意を払うことを条件に来週から探索を行うことになったのである。ただ、絶対運命部隊は戦士3人の実力がある程度に達しているので、来週から探索を開始するが、電車でGO部隊とギンガマン応援部隊は、もう少し戦士の実力を上げた方が安全だという見解から、探索開始は再来週以降になる予定である。
「了解しました。とりあえず俺らが状況を確認して来ます」
「曜日は木曜日と決めてるから丁度1週間後ですね。それまで続けてご指導お願いします」
 真剣な表情を浮かべて井上が言葉を発し、それに続けて松が探索日の予定と、それまでの期間も指導をしてくれるよう頼んだ。これを聞いて、中尾と大島は大きく首を縦に振り了承したのである。
 
1998年6月5日(金)
【罠解除士鍛錬場:森下 翼・宮本 紳・前島 瑠衣】
「新迷宮が出来たとはいえ俺らには関係ないからね。今いちやる気が起きんな」
 休憩での水分補給中に宮本 紳が現状について言葉を漏らす。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの罠解除士が鍛錬を行っている。先ほどまで3人は罠解除装置を使って鍛錬を行っており、レベル8を全員がクリア出来ない状況である。新しく第3迷宮が発見され、冒険者組織内でも話題になっているが、自分たちは入れないのである。
「確かに意味はないかも知れんな。あるとすれば俺たちが探索できる新しい迷宮が発見されるぐらいかな」
 まだ第1迷宮の9階探索レベルなので、まだ第2迷宮挑戦も果たしていない。ただ、第2迷宮の探索が終了している黒髪てへトリオ部隊がただただ第2迷宮の地下6階の探索を惰性で続けてるのを見ているので、第2迷宮の次の迷宮が現れないと先が見えている状況なのである。このことは言葉を発した森下 翼はもちろん認識しているし、前島 瑠衣も同じ気持ちであろう。
「でも私たちって今や若い罠解除士達の目標みたいなところもあるから、やる気を見せて鍛錬する姿を見せることも大事かもよ」
 少し考えながら前島が言葉を漏らす。森下と宮本、前島は黄金期と言われる第13期の生き残りであり、森下と宮本に至っては、部隊そのものがそのまま存続している。
「目標と言われると少しやる気が出るな。若い衆が俺を目標にしてるのか」
 何やら宮本が変な笑顔を浮かべ始めたので、森下と前島は休憩を終えて、罠解除装置へと向かった。ちなみに13期試験の際に、試験管であった富田 剛は森下と宮本の才能を見抜いており、2人を伏龍鳳雛と評価していた。森下は伏龍の文字通り、すぐに才能を開花させたが、宮本は富田の診断ではいまだに鳳雛のままである。

1998年6月6日(土)
【道:前田 法重・中島 一州・原田 公司・富田 剛・大塚 仁・中尾 智史・本田 仁】
「来週から第3迷宮探索開始になりましたよ」
 ビールを一気に開けた後で中尾 智史がこのように報告をした。ここは居酒屋『道』。本日もたくさんの客が訪れている。いつもの場所で飲んでいる前田 法重とその仲間達は、いつものように宴会を開始し、いつものように盛り上がっている。開始と同時にものすごいスピードでビール瓶が空いていくが、前田 雅美がそれが気にならないように空き瓶を片付けたり、新しいビールを持ってきたりしている。まさに職人芸だ。ある程度飲み進めて、少しペースが落ちてきたあたりで中尾が先ほどの発言をしたのである。
「第3迷宮を探索するのは絶対運命黙示録部隊と、電車でGO部隊とギンガマン応援部隊なのですが、この内絶対運命部隊は来週の木曜日に探索予定です。他の2部隊は一旦来週の探索は見送りです」
 全員に状況が伝わるように中尾がなるべくわかりやすく説明を行う。これを聞いて理解できないような素人はここにはいない。
「そうか。わかった。とにかくできる限りのフォローはするようにしよう」
 そう言って前田は空いている中島 一州のコップにビールを注ぎ、中島から返盃を受けた。
「そう言えば一州さんのお子さんっていくつになったんですかね」
 ふと思いついたことを本田 仁が尋ねてみる。
「うち?えっと秀一が6つで憲二が3つで叶恵が2つだね」
「あ、秀一くんはもう6つなんですね。来年小学生じゃないですか。早いなあ」
 人の家の子供は成長が早く感じるというが、それを本田は今まさに実感している。この後、子供の年齢の話になり、富田 剛の娘穂樽が1歳、大塚 仁の娘瀬名も1歳、中尾 智史の娘華は先月生まれたばかりということを再認識する。
「前田さんと原田さんの所はまだですかね」
 今の話の流れで大塚が質問するが、前田と原田はお互い顔を見合わせて、何と答えるかを思案する。
「こればかりは授かりものだからな」
「ですよね。まあ慌てず騒がず」
 前田が思っていることを口にして、原田もそれに答えた。こうなってくると、次に出てくる話題は1つしかない。
「ていうか、本田君は結婚しないの?」
「こればかりは授かりものですからね」
「授かり物じゃねー」
 疑問の言葉を投げかけた富田に本田は軽く答えたが、それに対して大塚が音速の突っ込みを入れた。
 
1998年6月7日(日)
【報告:浦田 舞】
お疲れ様です。浦田です。
本日時点の各部隊の状況を報告いたします。
 
◆黒髪てへトリオ部隊
└第2迷宮 クリア済
◆湘南爆走隊 
└第2迷宮 地下3階探索中
◆ <<1さん部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆華撃団Ⅲ部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆いつかは最強いつでも最強部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆人類補完計画部隊
└第1迷宮 地下7階探索中
◆黄金勇者部隊部隊
└第1迷宮 地下6階探索中
◆勉強はもうコリゴリダー部隊
└第1迷宮 地下5階探索中
◆カイジさんごめん部隊
└第1迷宮 地下3階探索中
◆勇者王ガオガイガー部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆もののけ姫部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆リリスかわいい部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆メガレンジャー頑張れ部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆ 絶対運命黙示録部隊
└未探索
◆ イナバウアー部隊
└第1迷宮地下1階探索中
◆電車でGO部隊
└未探索
◆特別な週間部隊
└ 第1迷宮地下1階探索中
◆ギンガマン応援部隊
└未探索
 
※特記事項
・イナバウアー部隊が第1迷宮探索を開始しました。
・特別な週間部隊が第1迷宮探索を開始しました。
 
以上、ご確認お願いいたします。 
 
1998年6月8日(月)
【熊大第2迷宮:湘南爆走隊部隊】
「そろそろ帰りましょうかね」
「賛成ー。レア物質もパンパンだしねー」
 亜獣との戦闘を終え、ひと段落した後、桜庭 敦子が発した言葉を聞いて沖本 蓮香が返事を返した。ここは熊大第2迷宮地下3階。湘南爆走隊部隊が第2迷宮の地下3階をレア物質の回収場所に選んでからかなりの時間が経つ。正直冷静に今の実力を分析すると、魔術師の島 可南子と高松 準也は初級魔法最高位と言われるティリオスの呪文を習得しているし、桜庭、平山 裕美、布川 和人の3人も実力はすでに第2迷宮をクリアしていてもおかしくないレベルだ。だが、部隊の方針として、地下3階で亜獣を狩ってレア物質を回収するという流れにいつの間にかなっていたのである。一つの理由としては、第2迷宮をクリアしてしまうと、冒険者の心の拠り所である知らないものを見つけるという好奇心が保てなくなる可能性がある。実際クリアしている黒髪てへトリオ舞台を見ても、すでに彼らは冒険者ではなく、亜獣と倒してレア物質を手に入れるのが何か作業的な感覚になっているように見える。もちろん週1回の探索で、多額の金額をもらえるのだから、それはそれで仕事として割り切れば良いのかもしれない。だが、自分たちはまだ冒険者としての誇りを失いたくない気持ちがあるのだ。また、別の理由としては、この次の地下4階が、特殊な空間となっており、罠解除士の亜獣探知が作用しないのだ。それは非常に危険な状況となるので、危険度と報酬を秤にかけると、地下3階での亜獣狩りが最適解と考えられるのである。あともう1つ言えば、この部隊には僧侶がおらず、回復に関しては僧侶の布川の呪文のみとなるので、できる限り危険は避けたいというのが長年の冒険で染み付いているのだ。
「特に周りに亜獣はいません。のんびり帰りましょう」
 軽く笑顔を浮かべた沖本がこのように発言したので、全員が多少緊張を和らげ、軽い話をしながら、出口へと向かった。
 
1998年6月9日(火)
【罠解除士鍛錬場:大塚 仁・森下 翼・宮本 紳・飯島 志保】
「飯島さんの現在の亜獣探知と罠解除能力は第1迷宮であれば地下1階レベルだと全く問題ない。ただ、正直第3迷宮がどうなっているかわからないので、最新の注意を怠らないようにして下さい」
 真剣な表情を浮かべて大塚 仁が今伝えておくべきことを口にした。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの罠解除士が鍛錬を行なっている。絶対運命黙示録部隊の第3迷宮探索がいよいよ明後日となり、各職業ともに多少ざわついている状況だ。その中、罠解除士の飯島 志保は現状では必要以上の能力を持っており、これが第1迷宮であれば胸を張って送り出せるレベルである。それは黄金世代と呼ばれた13期にも引けを取らず、当事者である森下 翼も認めており、宮本 紳も本心では認めているようであるが、決して口には出さない。
「とりあえず今は罠解除より亜獣探知が重要だから、今日と明日で最終調整しましょう」
「わかりました。よろしくお願いします」
 優しい口調で森下が声をかけ、飯島は元気に声を発し、頭を下げる。それを見て、宮本は自分が相手にしなくても良いかと考え、自分の鍛錬を始める。しばらく時間が過ぎ、森下は飯島の亜獣探知が鍛錬を始めた時よりもいい感じの反応を見せるようになったので、自分の指導はここまでとの感じた。
「じゃあ宮本さん、明日はよろしくお願いしますね」
「え、俺が指導するの?」
 指導を終えた森下が宮本に声をかける。それを聞いて宮本は少し動揺したような反応を見せる。
「ですよ。僕が教えれることは教えたので、あとは宮本さんのを教えて下さい」
 罠解除士が行う亜獣探知は人によって特性が異なり、亜獣探知を細かいジャンルに分類すると得手不得手が存在する。森下と宮本の亜獣探知の特性はほぼ正反対であり、まさに性格を表すように陰と陽なのだ。森下の判断では飯島は自分寄りの亜獣探知なので、もしかすると自分の指導だけで良いのかもしれないが、見立て違いだと困るので、宮本にも指導をお願いしたのである。
「そうか。俺が指導をするのか。森下は明日いるんだよね」
「いませんよ。明日探索なので」
 明日は森下はいないのか。であれば自分は飯島さんと2人で鍛錬をすることになる。少し不安な表情を浮かべる宮本に飯島が声を掛ける。
「宮本さん。明日はご指導よろしくお願いします」
 そういってペコリと頭を下げた飯島を見て、少し胸がときめいた宮本は何も言わずに大きく頷いた。
 
1998年6月10日(水)
【戦士鍛錬場:中尾 智史・大島 清吾・飯島 桜・井上 貴史・栗原 伸・松 美由紀】
「良し、おそらくやるべきことはやったはずだ。後は今日は体を休めて、明日の朝に体調がビークになるように調整してくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
 真剣な表情を浮かべて言葉を発した中尾 智史の言葉を聞いて、井上 貴史、栗原 伸、松 美由紀の3人は元気な返事と礼の言葉を述べた。ここは午前中の戦士鍛錬場。本日もたくさんの戦士が鍛錬を行っている。いよいよ明日第3迷宮探索を開始する絶対運命黙示録部隊の戦士3人に、中尾、大島 清吾、飯島 桜が本日もつきっきりで指導を行なっていたのである。指導した3人の目からしても、絶対運命部隊の3人の実力は地下1階レベルであれば全く問題ない。元々井上と松の剣捌きは18期の中でも群を抜いていたし、栗原は空手の経験を生かして、ナックルを使った戦闘スタイルを行っている。長い冒険者の歴史でもナックル系を利用した戦士は存在しないが、実際戦ってみると剣よりも案外応用が効くようであり、リーチの短さを補って余りあるような戦いを行えているのだ。
「一応明日は俺たち迷宮の入り口で待機しておくから、何かあったらとにかく入り口までは戻ってきてくれ。俺ら入れないから」
 少し心配な表情を浮かべた中尾の言葉を聞いて、3人は決意の表情を浮かべて大きく首を縦に振る。もちろん亜獣にやられるつもりはないが、もしやられたとしても入り口までは自力で帰ってこなければ、簡単に命を落とすことになるのである。
「じゃあ今日は頑張ったので、中尾さんに昼ごはん奢ってもらいましょうか」
「あ、ありがとうございます。ゴチになります」
 笑顔を浮かべて飯島が叫んだ言葉を聞いて、井上と栗原、松は大きな声で中尾に向かってお礼を述べた。いきなりの事に少し驚いた中尾だったが、可愛い後輩のためにご飯を奢ることぐらい何ともないので、笑顔でサムズアップを返した。ちなみに昼食には大島と飯島も一緒に行き、中尾は一緒に払おうとしたが、2人は自分が食べた分は自分で支払った。
 
1998年6月11日(木)
【熊大第3迷宮:絶対運命黙示録部隊】
「では行ってきます」
「おう、気をつけてな」
 かしこまった表情で井上 貴志が言葉を発し、それに中尾 智史が元気に答えた。ここは熊大第3迷宮入り口。本日ついに第3迷宮の探索がスタートする。緊張の表情を浮かべる絶対運命黙示録部隊の隊員たちであるが、誰も足を踏み入れたことのない迷宮に、まだ冒険者になりたての自分たちが入ろうとしているのだ。緊張するなと言う方が無理である。
「大丈夫。何かあったらすぐに戻ってくるんだよ」
「ちゃんと待っててあげるからね」
 中尾と一緒に<<1さん部隊の飯嶋 桜と宮崎 藍も見送りに来てくれている。第3迷宮は第1迷宮と違い、迷宮の入り口の手前に1つ部屋が存在している。その部屋は誰でも入ることができ、迷宮内と同じように特殊物質が充満している。なので、もし迷宮内で負傷するようなことがあっても、ここまで戻ってくれば宮崎から回復を行なってもらえるのだ。それを聞いて多少気持ちが楽になった絶対運命部隊の隊員たちは、意を決して迷宮内に足を進めた。
「ここが迷宮か」
「空気が重いね」
 迷宮に入ってまず感じたのは空気の重さだ。入り口手前の部屋よりも物質が濃くなっているようであり、それを肌で感じた井上と松 美由紀が思わず声を漏らしたのである。しばらく迷宮の雰囲気に圧倒されてたが、少し落ち着いてきたので周りを見渡してみる。迷宮の作りはいわゆる迷路の様ではなく、全体に広がるフロアの中心に大きな水たまりがあり、その中心に神殿の様なものが存在している。
「とりあえず水辺に亜獣がいるみたい」
 亜獣の気配を感じた飯嶋 志保がそれを伝達し、井上が意を決して歩を進める。水辺に近づくといきなり海蛇っぽい亜獣が1匹姿を現した。
「殲滅」
「催眠」
 中村 瞬が催眠、島津 亮二が催眠を唱える。殲滅は効果を得なかったが、催眠によって亜獣は倒れ伏し、戦士の攻撃で消滅した。
「物質回収します」
 飯嶋にとって初めての物質回収が行われる。その間にこの後の作戦を講じるが、現在わかっているのは水辺にはこの亜獣がいる可能性が高いと言うこと。おそらく水たまりの中にある神殿に入らないといけない事の2つである。回収が終わったので、もう少し地下1階を探索してみることにする。本日分かったことは水たまりはこのフロアの中心に固まっており、壁を沿って一周することができると言うこと。神殿には東側と西側に橋のようなものがあり、そこから侵入することができそうだということである。元々かなり緊張していたので、これだけでもかなりの疲労感を感じる。なので本日はこれで終わろうと思ったが、帰りしなに亜獣に遭遇する。亜獣はアラビア人風で剣を持っており、それが4人で攻撃してきた。結論から言えば、催眠で2体が眠り、残った2体も井上、栗原 慎、松の敵ではなかったので、地下1階の亜獣はそれほど強くないことが判明した。無事に迷宮入り口に戻ると中尾と飯嶋、宮崎が安心した表情を浮かべて迎えてくれた。この後、みんなで一緒に食事をとることにし、第3迷宮について本日分かったことは全て伝えることが出来た。
 
1998年6月12日(金)
【ハイライト:福永 菜月・宮本 紳】
「あまり気にすることないと思うよ。紳くんは紳くんの良さがあるんだから」
 隣に座って、赤ワインを手にした福永 菜月が笑顔を浮かべながら優しく言葉をかけた。ここはスナック『ハイライト』。金曜日ということもあり、仕事帰りのサラリーマンや、学生の団体で店内は盛り上がっている。今現在カウンターに並んで座って飲んでいる福永と宮本 紳の2人は、いつかは最強いつでも最強部隊であり、同じ部隊なのもあり以前から2人で飲むことが多い。今でこそ13期罠解除士3巨頭としてある程度の評価を受けている宮本だが、冒険者になりたての頃は、極度の人見知りで、それにより他人から誤解を受けることが多かった。福永はそんな宮本に対して母性をくすぐられてしまい、世話をやくようになったのである。宮本は訳あって同世代の人に対しては緊張感が出てしまい、なかなか打ち解けることができない。その点福永はルックスは自分より若く見えるが、実際の年齢は8つ上のお姉さんである。優しく接してくれるのもあり、宮本が唯一安心して本心を曝け出せる相手なのである。本日宮本が福永に相談しているのは、一応恋人である田邉 早記とのことについてである。先日田邉から告白され、とりあえず受け入れたが、今まで恋人がいたことがない宮本は、どの様に接して良いかが分からずにいるのだ。
「最近は少し自分に自信が持てる様になってきたけど、早記ちゃんに好かれるほどの自信はない」
 そういって、ウイスキーの水割りを一気に飲み干した宮本は大きく息を吐く。
「そっかそっか。とりあえずおかわり頼もうか。同じので良いよね」
 その声を聞いて宮本が頷いたので、ウイスキーの水割りと自分の赤ワインを一緒に注文した。
「私戦士だから田邉さんよく知らないんだよね。リリスかわいい部隊だったよね?戦士の中江ちゃんと中森ちゃんはよく知ってるから何かあったら私聞いてみるよ」
 何か役に立てないかと思い福永が発した言葉を聞いて、宮本は首を横に振った。気持ちは嬉しいが、自分で乗り越えないといけないとも思っているのだ。この後も、宮本が色々相談し、福永がそれに答える感じで時間が過ぎていく。
「あ、もうこんな時間だ。紳くん今日は帰ろうか」
「わかりました。すいません。お勘定」
 そう言って店員を呼んで会計をしてもらい、今日の会計は宮本が支払った。
「じゃあ紳くんご馳走様。気をつけて帰るんだよ」
 店を出て大きく背伸びをした福永が軽く手を振って笑顔で声をかけてきた。宮本は大きく息を吐きながらいつも最後にかける言葉を口にする。
「ところで菜月さんは何か浮いた話は」
 そこまで言ったタイミングでいつものように笑顔で左の頬を摘まれる。そして手を振りながら福永がすぐ近くにある自宅の方向に歩き出したので、宮本もタバコに火をつけて、熊大方面へとゆっくり歩き出した。
 
1998年6月13日(土)
【道:前田 法重・中島 一州・原田 公司・富田 剛・大塚 仁・中尾 智史・本田 仁】
「とりあえず大丈夫そうでした」
「流石にそうだよな」
 乾杯の後、中尾 智史が口にした言葉を聞いて、前田 法重が返事をした。ここは居酒屋『道』。本日もたくさんの客が訪れている。先日絶対運命黙示録部隊が第3迷宮を探索し、無事に終えたことを中尾が報告したのである。
「出てきた亜獣もそれほど強そうじゃなかったですし、ただ迷宮の作りは全くと言っていいほど違ったみたいです」
 真剣な表情で中尾が言葉を続ける。第1迷宮と第2迷宮は、いかにも洞窟のような作りで、狭い通路と部屋のような空間で構成されているが、第3迷宮はいきなり視界が開けており、おそらく1フロア分全体が1部屋となっている。そしてその中央に大きな池があり、その中に神殿がそびえていると言うのだ。
「見てみたいけど見れないんだよな」
「俺引退したから入れてもいいのにですね」
 残念な表情を浮かべながら原田 公司が言葉を漏らして、それに富田 剛も思っていることを口にした。第3迷宮に入れる条件は第1迷宮と第2迷宮に入ったことがないということなので、引退したとはいえ、富田も入ることは出来ないのだ。
「でもまあ、第3迷宮の難易度が第1迷宮と同じレベルであれば、18期以降が頑張れば何とかなると思うので、もちろん俺たちはフォローするけど、大丈夫ってことだよな」
 そう言って前田はコップのビールを一気に開けて、そのコップに本田 仁が泡を立てないように並々とビールを注いだ。
 
1998年6月14日(日)
【報告:浦田 舞】
お疲れ様です。浦田です。
本日時点の各部隊の状況を報告いたします。
 
◆黒髪てへろく部隊
└第2迷宮 クリア済
◆湘南爆走隊 
└第2迷宮 地下3階探索中
◆ <<1さん部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆華撃団Ⅲ部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆いつかは最強いつでも最強部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆人類補完計画部隊
└第1迷宮 地下7階探索中
◆黄金勇者部隊部隊
└第1迷宮 地下6階探索中
◆勉強はもうコリゴリダー部隊
└第1迷宮 地下5階探索中
◆カイジさんごめん部隊
└第1迷宮 地下3階探索中
◆勇者王ガオガイガー部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆もののけ姫部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆リリスかわいい部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆メガレンジャー頑張れ部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆ 絶対運命黙示録部隊
└第3迷宮地下1階探索中
◆ イナバウアー部隊
└第1迷宮地下1階探索中
◆電車でGO部隊
└未探索
◆特別な週間部隊
└ 第1迷宮地下1階探索中
◆ギンガマン応援部隊
└未探索
 
※特記事項
・絶対運命黙示録部隊が第3迷宮探索を開始しました。
 
以上、ご確認お願いいたします。 
 
1998年6月15日(月)
【子飼:富田 剛・立石 啓二・菊川 小絵・嶋本 麗華・本田 仁】
「えー、このメンバーが集まるのも誕生日の時だけになってますが、まあ今日は俺の誕生日だから盛大に祝えばいいさ。かんぱーい」
「かんぱーい」
 何故か自分の誕生日に自分で乾杯することになった本田 仁が盛大な乾杯の挨拶を行い、それを聞いて参加メンバーたちも笑顔でジョッキを上にあげた。ここは居酒屋『子飼』。月曜日ということもあり、店内は落ち着いた雰囲気となっている。本日は27回目の本田の誕生日であり、誕生会をいつものようにここ『子飼』で行っているのである。元々この誕生日会は立石 啓二と菊川 小絵、嶋本 麗華が4期生として冒険者になった時から始まっており、その時からメンバーが1人少なくはなったが、毎年順番に誕生日をここで祝っているのである。
「そういえば本田くんはまだ第2迷宮探索してるの?」
「まだと言われましても、他に探索するところもないので」
 素朴な疑問を立石が投げかけ、それに本田が答える。前回会ったのが、2月の嶋本の誕生日であり、それから探索に何かの進展がないのかを確認したのである。第2迷宮自体は2年前に探索が完了しているので、現在本田の部隊が行っているのは、迷宮に入って亜獣を狩る作業のようなものなのだ。
「でも新しい迷宮見つかったんですよ」
 それを聞いて立石と菊川、嶋本は興味深い表情を浮かべる。ただ、富田は知っているので気にせずビールをガンガン飲んでいる。
「第3迷宮って名前が付けられたんですけど、俺ら入れないんですよ」
 そういって本田はジョッキのビールを開ける。そしておかわりのビールを頼んだ後、第3迷宮のシステムを説明し、3人はなんとも言えない表情を浮かべる。この後、本田が現在の冒険者事情をしばらく説明していたが、一区切りがついたので菊川が富田に尋ねる。
「そういえば、さやかちゃんと穂樽ちゃんは元気?」
「元気だよー。じゃなかったら飲みに来れんて」
 そう言って富田は笑顔を浮かべる。この5人の中で唯一富田だけが結婚しており、子供もいるのだ。
「何か幸せそうでいいなー」
 菊川と嶋本はそのように言葉を漏らしたが、この2人であれば、しようと思えばいつでも結婚ぐらい出来るだろうにと思わずにいられない富田であった。
 
1998年6月16日(火)
【罠解除士鍛錬場:大塚 仁・森下 翼・宮本 紳・廣瀬 大輔・竹田 敦】
「まあ大丈夫じゃないかな」
「地下1階レベルなら問題ないはずです」
 腕を組んで少し笑顔を浮かべながら大塚 仁が発した言葉の後で、森下 翼も思っていることを口にした。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの罠解除士が鍛錬を行なっている。先日絶対運命黙示録部隊が初めて第3迷宮を探索し、第3迷宮の難易度がおそらく第1迷宮と同等であることが判明した。そこで探索を遅らせていた電車でGO!部隊とギンガマン応援部隊も探索を開始することになり、罠解除士である廣瀬 大輔と竹田 敦が最終判断を行ってもらうべく、森下と宮本 紳に実力を判断してもらったのである。結果、2人は充分に合格レベルに達していたので大塚も大丈夫である旨の発言をしたのである。
「ありがとうございました。早速明日探索してきます」
 ギンガマン応援部隊の竹田が安心した表情を浮かべながら言葉を発する。それを聞いて電車でGO!部隊の廣瀬 大輔も口を開く。
「俺たちは金曜日から探索開始する予定です」
 それを聞いて、大塚、森下、宮本も3人は大きく頷いて見せる。少なくとも罠解除士の2人は探索するに十分であるからだ。
「ところで戦士とか僧侶とか魔術師とかは大丈夫なのかな」
 疑問に思ったことを大塚が口にする。
「戦士は清吾が言うには大丈夫そうですよ。なかなか粒揃いだと言ってました」
 戦士について知っていることを森下が口にする。どうやら戦士も大丈夫のようだ。
「僧侶と魔術師は聞いてないな。紳さん聞いてます?」
「あ、え?聞いてないよ」
 何気なく聞いた森下の言葉を聞いて、俺が聞いている訳ないだろうという自分勝手な表情を浮かべて宮本は言葉を返した。
 
1998年6月17日(水)
【熊大第3迷宮:ギンガマン応援部隊・中尾 智史・鹿本 芽衣】
「では行ってきます」
「気をつけてねー」
 ギンガマン応援部隊の隊長篠原 浩之が緊張気味に発した言葉に対して、手を振りながら軽い感じで中尾 智史が答えた。ここは熊大第3迷宮の入り口。本日ギンガマン応援部隊は初めての探索を行うことになっている。まだわからない部分も多いので、本日も入り口で中尾は待機を行うことにしている。また、僧侶の鹿本 芽衣も同行し、何かあったときにすぐに治療ができるようにしているのだ。中尾と鹿本はギンガマン応援部隊の全員が迷宮に入ったのを見て、軽く息を吐いて、お互い顔を見合わせる。
「座って待ってようか」
 そういって中尾は数日前に準備されたベンチへ向かってそれに座り、鹿本も隣に座った。
「大丈夫ですかね」
 少しだけ心配そうな表情を浮かべて鹿本が言葉を発する。自分たちが第1迷宮を初めて探索した時と比べて状況があまりにも厳しい気がしているのだ。鹿本は13期で冒険者になっており、その時にはすでに第1迷宮の探索は終わっていた。迷宮の詳しいマニュアルが存在し、地下1階で出現するの亜獣の種類や強さなども事細かに記載されていたのである。もちろんそれがあったとはいえ探索が安全なわけではないが、あらかじめ知識があるのとないのでは精神的な部分でも大きな違いがあるのである。
「まあ、結果第1迷宮も初めはこの状態から始まってる訳だし、俺らがここで待機できている分多少マシだと思うしかないな」
 そう言って中尾は大きく背伸びをした。この後2人は今までの冒険の話や、プライベートの話などで時間を潰し、1時間ほど経って帰ってきたギンガマン応援部隊が無事であることに安心し、笑顔で出迎えたのである。
 
1998年6月18日(木)
【富田邸:富田 剛・大塚 仁・本田 仁】
「どうなんだろうなあ」
「今のところ驚くほどはないですね」
 カードを見つめながら富田 剛が発した言葉に大塚 仁が感想を述べた。ここは富田邸。本日通常富田が店番をしているゲーム喫茶『アクシズ』のゲームセンター部分はバイト生に任せて、富田は午前中罠解除士鍛錬場をぶらっと訪れた。そこで大塚と一緒に後輩の指導を行い、その後本田 仁と合流し、『南地区レストラン』で昼食を取る。昼食を食べた後、本田の運転で健軍方面へ向かい、カードショップ『HAT』でトレーディングカードを購入した。購入したカードは“マジックザギャザリング”というカードゲームの“テンペスト”ブロック最後のエキスパンションであり、15日に発売された“エクソダス”である。本日はこれを使ってシールド戦を楽しむ予定だ。ちなみに、“エクソダス”だけでシールド戦を行うのはバランス的にあれなので、一緒に“テンペスト”も購入する。結果購入したのは各自“テンペスト”1箱と“エクソダス”2箱だ。結構な金額するが、現役冒険者の大塚と本田にとってはそこまで厳しい金額ではない。富田にとっては結構な出費だが、妻の富田 さやかにバレなければ何てことはないのだ。
「シールドはカードの引きにもよるからな」
「いやいや、実力ですよ」
 あまりマジックが上手ではない富田はすぐに言い訳じみた言葉を吐くが、本田がそれに正当な反論をする。もちろん結論的には引いたカードの良し悪しでデッキの強弱は決まるが、それは引いたカードで完璧なデッキを作った場合の話である。そもそもデッキをうまく作れなければ引いたカードの良し悪しで語ることは出来ない。3人は本日の午後のほとんどをマジックに費やして、日が沈んだ後で『道』に向かい、“エクソダス”の話題を肴にお酒を楽しんだ。
 
1998年6月19日(金)
【アクシズ:中尾 智史・飯嶋 桜・宮崎 藍・大塚 仁・本田 仁・富田 さやか】
「電車でGO部隊も特に問題ありませんでした」
 遅れてやって来て目の前に座った中尾 智史に向かって飯嶋 桜が声をかけた。ここはゲーム&喫茶『アクシズ』。本日は電車でGO!部隊が初めての第3迷宮探索を行ったので、飯嶋と宮崎 藍が入り口まで着いていって、探索中待機をしていた。結果電車でGO!部隊は問題なく探索を終えている。本日中尾は探索日だったので、自分は探索を行い、電車でGO部隊の状況を報告してもらうことにしていたのである。
「まあ、大丈夫とは思っていたけどね。さやかさん。日替わりランチお願いします」
 飯嶋の言葉に返した後、中尾は水を持ってきた富田 さやかに注文を伝える。先に来ていた飯嶋と宮崎はもう注文しているようであるが、まだ食事は来てないようだ。
「お疲れ様です。あ、中尾君も来てたんだ。さやかさーん。ランチ2つお願いします」
 本日中尾と一緒に探索したが、探索後一旦別行動となった大塚 仁と本田 仁がランチを食べにやって来て、大塚が大声で、注文を行う。
「お疲れ様ですー」
 2人がやってきたので、飯嶋と宮崎が挨拶をする。それに対して大塚と本田はサムズアップで答えた。テーブルは5人で座ると狭くなるので、大塚と本田は別のテーブルに座ることとなる。
「じゃあ先に桜ちゃんと藍ちゃんから。中尾さんはもう少し待っててくださいね」
 さやかが2人分の食事を運び、中尾にはもう少し時間がかることを説明する。
「あ、遠慮しないで先に食べていいよ」
「じゃあいただきます」
 自分の料理がもう少し時間がかかることが分かっているので、中尾は2人に先に食べて良いことを伝え、2人は食事を始めた。
 
1998年6月20日(土)
【道:前田 法重・中島 一州・原田 公司・大塚 仁・中尾 智史・本田 仁】
「3部隊とも無事に第3迷宮探索を始めました。特に問題はなさそうです」
 真面目な表情を浮かべて中尾 智史がこう説明した。ここは居酒屋『道』。本日もたくさんの客が訪れて、美味しい料理とお酒を楽しんでいる。本日も前田 法重とその取り巻きたちはいつもの座敷で飲み会を始めており、今日はたまたま他のメンバーが不参加のため、参加者は黒髪てへトリオ部隊の6人となっている。今週ギンガマン応援部隊と電車でGO!部隊が無事に第3迷宮探索を終えたことを中尾が説明し、前田はその報告に満足な表情を浮かべている。
「心配も杞憂に終わったってやつやね」
「でもまだ油断は禁物ですよ」
 軽い笑顔を浮かべて中島 一州が発した言葉に前田は突っ込みを入れる。確かに今は問題なく探索できているかもしれないが、いつ何が起こるかわからないのが迷宮である。その事は今まで嫌というほど身に染みてきたのである。
「とりあえず、しばらくは入り口で僧侶が待機しておいた方が良さそうやな」
「あ、その件についてはすでに戦士1人と僧侶1人で待機する様にスケジュールは組んでます」
 相変わらずの早いペースで飲んでいるので多少酔っている原田 公司の言葉に中尾は丁寧に返事を返す。戦士は中尾、大島 清吾、飯嶋 桜、僧侶は宮崎 藍、鹿本 芽衣、太田 香澄がローテーションで待機をするように先日話し合いを行なっているのだ。
「じゃあ多少安心やな。俺も何かあったら手伝うよ」
「大塚さんは罠解除士の3人の指導を何卒お願いします」
 話を聞いていた大塚 仁が気持ちを述べて、中尾がそれに答える。探索の安全は罠解除士の能力によるものが非常に大きく、特に低レベルのうちはそれが顕著であり、逆を言えば罠解除士がしっかりしていれば何とかなるのである。
「えっと、前田さんジョッキ開いてますね。ビール頼む人ー」
 テーブルの上を眺めていた本田 仁はいつものように全員の飲み物の残り具合を注視しており、飲み物がなくなるときちんと注文を取る。この辺りは長年注文係として培った技術なのだろうが、自分が話していた18期の第3迷宮探索の話題に全く立ち入ってこなかった本田に中尾はちょっとだけ違和感を感じていた。
 
1998年6月21日(日)
【報告:浦田 舞】
お疲れ様です。浦田です。
本日時点の各部隊の状況を報告いたします。
 
◆黒髪てへろく部隊
└第2迷宮 クリア済
◆湘南爆走隊 
└第2迷宮 地下3階探索中
◆ <<1さん部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆華撃団Ⅲ部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆いつかは最強いつでも最強部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆人類補完計画部隊
└第1迷宮 地下7階探索中
◆黄金勇者部隊
└第1迷宮 地下6階探索中
◆勉強はもうコリゴリダー部隊
└第1迷宮 地下5階探索中
◆カイジさんごめん部隊
└第1迷宮 地下3階探索中
◆勇者王ガオガイガー部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆もののけ姫部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆リリスかわいい部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆メガレンジャー頑張れ部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆ 絶対運命黙示録部隊
└第3迷宮地下1階探索中
◆ イナバウアー部隊
└第1迷宮地下1階探索中
◆電車でGO部隊
└第3迷宮地下1階探索中
◆特別な週間部隊
└ 第1迷宮地下1階探索中
◆ギンガマン応援部隊
└第3迷宮地下1階探索中
 
※特記事項
・電車でGO!部隊が第3迷宮探索を開始しました。
・ギンガマン応援部隊が第3迷宮探索を開始しました。
 
以上、ご確認お願いいたします
 
1998年6月22日(月)
【熊大第1迷宮:人類補完計画部隊】
「高宮、お前が戻ってくるのを待っていた」
 出現後すぐに笑顔を浮かべてセリフを発したペケは、満足げな表情を浮かべてそのまま消滅していった。
「おおー太輔くんオメー」
「やっとクリアやなー」
 後方で見守っていた戦士の前野 諭子と雨宮 英利香の声が響き、雨宮 太輔は振り返って大きく息を吐いた後サムズアップをする。ここは熊大第1迷宮地下7階。本日もボスであるペケ戦を行いにここにやって来ている。とはいえ、前野と雨宮は前回の探索までにクリアしているので、後は雨宮のクリア待ちだったのである。
「どうするー?地下8階降りるー?」
 全員の顔を見ながら前野が叫ぶ。それを聞いて雨宮と高宮、罠解除士の長内 泰大は元気よく右手を上げ、僧侶の金尾 秀文と魔術師の鬼塚 茉莉花は遠慮がちに右手を上げた。結論全員賛成のようである。
「良し、じゃあ行きましょう」
 そう言って歩き出した前野と一緒に全員が移動を始める。エレベータに乗り、部隊は地下8階へと降りてきた。この階の構造もすでに理解しているので、まず前方の突き当たりのドアまで歩き、左側のドアの罠解除を長内が試してみる。だが、解除は出来なかった。
「どんまい。じゃあこっち行こうかね」
「扉の奥に何かわんさかいますね」
 扉に近づき亜獣探知を行った長内が数を数えきれないほどの亜獣がいるとの言を発する。それを聞いて、5〜6体ぐらいなら全く問題ないが、わんさかいると言われるとなかなか危険が危ないレベルなので、残念な気持ちがあったが、本日はこれで探索を終えることにした。
 
1998年6月23日(火)
【熊大第1迷宮:華撃団Ⅲ部隊】
「前方から亜獣4体。やばそうです」
 亜獣の存在に気づいた前島 瑠衣が声を上げ、部隊の全員が移動をやめ、警戒を始める。ここは熊大第1迷宮地下9階。華撃団Ⅲ部隊は本日もまずボスの部屋の罠解除がまだ出来ないことを確認した後、地下9階を探索している。数回亜獣と戦い、ある程度奥まった場所を移動していると前島がこのように叫んだのである。
「皆んな戦闘準備。集中」
 隊長の島田 笠音が亜獣が向かってくる方向に一歩前進し、両手剣を構える。その両脇を倉本 憲伸と高倉 蘭馬が固めた。亜獣は前方を左に曲がった通路から近づいて来ているようであり、もうすぐ姿が見える位置まで近づいて来ている。
「姿がみえたら全力で行きます」
 島田の言葉で部隊に緊張が走る。すると前方左手から亜獣が現れ、こちらに向かってくる。
「やばい。突っ込む」
 姿が見えた瞬間に島田は前方に走り出し、倉本と高倉もそれに続く。
「無効」
「TNT爆発」
 太田 香澄が無効、佐村 亜香里がTNT爆発を唱えたが、この亜獣はある程度の魔法耐性があるので、二人の魔法は効果を発揮しなかった。
「ひょっとこの口はー」
 そう言いながら片手で口を塞いでいる4体のひょっとこがこちらに向かってくる。もう片方の手には剣を握っており、こちらの戦士の初撃を防いだ。3体の戦士が3体のひょっとこに攻撃を行ったので、残り1体のひょっとこがフリーになっており、口を隠していた手のひらを開き、呪文が発動する。それは大爆発と同じ威力の魔法のようで、部隊の全員がダメージを喰らう。
「とりあえず瑠衣と亜香里回復するね」
 ダメージを喰らったので佐村と前島の回復を行い、その後で太田は自分のダメージも回復した。この後戦士の回復の準備で精神を集中する。ひょっとこは魔法抵抗力は高いが、近接戦闘力はそこまで高くなく、戦士の攻撃で何とか殲滅することに成功する。その際に、口を隠している手のひらを開くこともなかったので、呪文も発動しなかった。
「びびったねー。物質回収します」
 そう言って前島が物質の回収を始める。戦士3人はダメージを喰らったので太田に回復を依頼した。その後、回復と回収を終え、本日は探索を終了し、戻ることにした。ちなみにこのひょっとこは2種類いるそうで、口が右に曲がっているものと左に曲がっているという違いがあるそうだ。ただ右に曲がっているひょっとこは非常にレアらしく、ほとんど遭遇することはない。先程の4体も左に曲がっているひょっとこだ。違いは発動する魔法の威力でひだりにまがっているひょっとこが大爆発程度、右に曲がっているひょっとこはTNT爆発程度の威力があるとのことだ。願わくば口が右に曲がったひょっとことには出会いたくないものである。
 
1998年6月24日(水)
【魔術師鍛錬場:井口 咲江・水井 華代】
「やっと出来たー」
「あ、咲江ちゃんおめー」
 大きく息を吐いた後、井口 咲江が嬉しい叫び声を発し、一緒に鍛錬していた水井 華代がそのことに気づいて祝福した。ここは午前中の魔術師鍛錬場。本日もたくさんの魔術師が鍛錬を行っている。16期で2人だけ残っている井口と水井はここ最近は大爆発ができるように日々鍛錬を行っている。なかなか成功せずに日々イライラすることもあったが、本日井口が成功したのである。
「先輩たちが言ってるのがわかった。一回できると何て事ないんだよね」
 そう言って坂野は目の前の空間に光球を出しては大爆発を繰り返す。それを水井は羨ましそうに見つめていたが、羨ましがってはいられないと気合いを入れ直し鍛錬を再開する。
「そういえばさ」
 まだ興奮冷めやらない表情で井口が声をかける。
「華代午後から何か予定ある?」
「今日?特に何もないけど」
 この後の予定を尋ねられた水井は予定がないことを正直答えた。
「あ、良かった。じゃあ鶴屋に付き合ってくれない?私大爆発出来たら自分にご褒美で高級和菓子を買うって決めてたの」
 笑顔を浮かべて井口がこのように言葉を発したので、水井は特に予定もないことから、この提案を了承することにした。
 
1998年6月25日(木)
【VIP:藤井 淳紀・前村 亮二・福永 菜月・宮本 紳・鹿本 芽衣・大河原 美沙】
「紳くんナイスストライク!」
「あいつ、やる度に上手くなってるな」
 ボールを投げた後、後ろを振り向いて軽く笑顔を浮かべた宮本 紳を見て、福永 菜月が大声で叫び、ため息混じりに藤井 淳紀が言葉を漏らした。ここは熊大方面から子飼橋を渡った先の右側にあるアミューズメントスペース『VIP』。ゲームセンターやボウリングの他いろいろな遊び場があり、特に大学生を中心に連日大盛況のビルである。本日午前中に探索を行ったいつかは最強いつでも最強部隊は、通常通り第1迷宮地下9階に降りたものの、ボスの部屋への扉の罠を外すことは出来なかった。その後、地下9階をぶらつき、ある程度の戦闘を行った後戻ってきたのだ。戻った後は一緒に『南地区レストラン』で食事を取り、話し合いの結果、本日は一緒にボウリングをしようということになる。ぶらぶらと『VIP』まで歩いて移動し、現在に至る。
「コツが掴めれば何てことないです」
「そのセリフムカつく」
 自慢げに発した宮本の言葉を聞いて、前村 亮二が突っ込みを入れた。約3年前、この部隊を編成した当初、宮本は色々なことが出来ない青年だった。ボウリング、ビリヤード、ダーツ、ゲームに至るまでほとんど素人以下のレベルだったのだ。そこで、部隊のみんなで丁寧に教えたりしていた時期もあったが、今や、宮本は何をやっても誰よりも上手くできるのである。それは宮本が出来なかった理由が、出来ないではなくやってないだったからだ。もちろん影で結構な練習は行ったのも事実だが、コツを掴みさえすれば何でもある程度上手に出来るようになるというある種の才能のようなものを持っているようである。
「これでだいぶんリードしたわね」
「飲み代は頂きですー」
 宮本と同じチームの福永と鹿本 芽衣が笑顔で言葉を発し、宮本も自慢げな表情を浮かべている。パッと見た感じで、次の藤井がストライクを取れなければほぼ逆転不可能な点差が離れている。
「まだだ、まだ終わらんよ」
 すごくいい声で藤井が叫び、ボールを投げる。するとそのボールは右側から綺麗な弧を描いて完璧な角度でピンにぶつかる。誰もがストライクだと思ったが、不幸にも1本だけピンが残ってしまった。
「終わった。何もかも」
 振り返った宮本は恐ろしい笑顔を浮かべながらこのように言葉を発した。それを見て、前村と大河原 美沙が仕方ないと声をかけたので、宮本は正気を取り戻し、2投目はきちんとスペアを取った。
 
1998年6月26日(金)
【熊大第1迷宮:勇者王ガオガイガー部隊】
「俺は天才だー、覚えとけふひゃひゃひゃひゃ」
「やっとクリアできたー」
 目の前で消滅する天才を見つめながら木寺 菜穂美が大きく息を吐きながら言葉を発した。ここは熊大第1迷宮地下2階。本日も勇者王ガオガイガー部隊は地下2階のボスである天才と戦いにやってきていた。そして3回目のチャレンジでやっと戦闘を拒否されたのである。これは地下2階のクリアを意味し、地下3階に降りる権利が与えられるのだ。
「結構時間かかったわね」
「俺のせいですかね」
 後衛の部隊の場所に移動しながら下里 由理子が発した言葉を聞いて、羽田 晴信が申し訳なさそうな表情を浮かべて、このように口にした。勇者王ガオガイガー部隊は16期と17期で構成されており、戦士の木寺、下里、罠解除士の岩川 真悟、僧侶の稲見 正一郎が16期、戦士の羽田と魔術師の板野 幸美が17期生である。戦士3人が全員16期の勉強はもうコリゴリダー部隊とカイジさんごめん部隊がかなり早い段階で天才をクリアできていたので、今か今かと待ち構えていたのである。ただ、別にこの部隊のメンバーは探索を急いで行う使命感を持ったようなメンバーではないので、非常にマイペースで探索を行うことに異論はない。
「羽田くん17期だから仕方ないよ。頑張ってる方だと思うよ」
「そうそう、私たちと結構互角になってきたからね」
 木寺と下里がフォローの言葉をかける。将来的に長い年数が経てば1期の差は大したことなくなるが、この時期の1期の差はまだ非常に大きいのである。その状況で羽田は鍛錬を熱心に行い、かなりの実力をつけているのである。
「で、どうしようか。ちょっと地下3階行ってみる?」
「多分俺サラダバーの部屋の扉開けれると思うんだよね。試してみたい」
 全員を見渡しながら発した木寺の言葉に、岩川が地下3階ボス部屋の扉の罠解除を試したいと提案する。そのことについては全員特に異論はない。
「じゃあちょっと行ってみますか。本鬼だけは気をつけるように」
 そう言って木寺を先頭に地下3階へ降りる階段方面へと向かった。結果、サラダバーの部屋の扉に辿り着くまでに結構な回数の戦闘をこなしたが、本鬼とは遭遇しなかった。また、岩川の罠解除チャレンジは成功したので、次回からサラダバーと戦う権利は獲得して、本日の探索を終えた。
 
1998年6月27日(土)
【道:前田 法重・前田 雅美・中島 一州・原田 公司・大塚 仁・中尾 智史・本田 仁】
「あの音はわかりやすいよな」
「バレバレっすね」
 笑顔を浮かべて言葉を発した前田 法重のコップにビールを注ぎながら本田 仁が答えた。ここは居酒屋『道』。本日も美味しい料理とお酒を求めて客がやってきている。先程までは満席でてんやわんやだった店内も今は少し落ち着いてきたので、おばちゃんも少しゆっくり出来ているようである。そこで、店を手伝っている前田 雅美はしばらく座敷に座って一緒に話を楽しんでいるのだ。
「リプレイだから揃う回数も多いですからね」
「ボーナスの音楽とかだとタイミングによるしね」
 ジャン玉を一切れつまみながら本田が言葉を続けて、それに中島 一州が感想を述べる。本日元々は予定があった前田だが、その予定がなくなったので、本田の携帯電話に連絡をしてみる。すると本田は出なかったが、すぐに折り返しがあった。そこで前田が何をしているかを尋ねると、本田は言葉を濁したが、その後ろから例の“テケレケレッテー”という潮騒のリプレイが揃う音が聞こえてきたのだ。前田は軽くため息をついて、どこで打っているのかを聞き、合流したのである。
「本田は潮騒好きやなー」
「別にそんなに好きってわけじゃないですよ。出るから打ってるだけです」
「かっけえ」
 素直な感想を原田 公司が口にし、それに本田が答え、大塚 仁が突っ込みを入れた。
「じゃあ、今日本田さんは勝ったんですね。もしかして今日は本田さんの奢りとかですか」
 期待に満ちた表情を浮かべた中尾 智史の言葉を聞いた本田は軽くため息をついて言葉を発する。
「今の話の流れだと一緒に前田さんも打ったってことになるよね。だったら勝った前田さんの奢りでしょう」
「俺勝ってねーし」
 このように突っ込んだ前田は目の前のコップのビールを空にし、立ち上がってトイレへと向かった。この後、結構遅くまで飲み会を続けたが、結局この日もいつものようにいつものような感じで勘定をしたのである。
 
1998年6月28日(日)
【報告:浦田 舞】
お疲れ様です。浦田です。
本日時点の各部隊の状況を報告いたします。
 
◆黒髪てへろく部隊
└第2迷宮 クリア済
◆湘南爆走隊 
└第2迷宮 地下3階探索中
◆ <<1さん部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆華撃団Ⅲ部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆いつかは最強いつでも最強部隊
└第1迷宮 地下9階探索中
◆人類補完計画部隊
└第1迷宮 地下8階探索中
◆黄金勇者部隊部隊
└第1迷宮 地下6階探索中
◆勉強はもうコリゴリダー部隊
└第1迷宮 地下5階探索中
◆カイジさんごめん部隊
└第1迷宮 地下3階探索中
◆勇者王ガオガイガー部隊
└第1迷宮地下3階探索中
◆もののけ姫部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆リリスかわいい部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆メガレンジャー頑張れ部隊
└第1迷宮地下2階探索中
◆ 絶対運命黙示録部隊
└第3迷宮地下1階探索中
◆ イナバウアー部隊
└第1迷宮地下1階探索中
◆電車でGO部隊
└第3迷宮地下1階探索中
◆特別な週間部隊
└ 第1迷宮地下1階探索中
◆ギンガマン応援部隊
└第3迷宮地下1階探索中
 
※特記事項
・人類補完計画部隊が第1迷宮地下8階探索を開始しました。
・勇者王ガオガイガー部隊が第1迷宮地下3階探索を開始しました。
 
以上、ご確認お願いいたします。
 
1998年6月29日(月)
【旧熊大赤門前付近:富田 さやか・富田 穂樽・宮崎 桃・宮崎 藍】
「あ、さやかさんこんにちわ」
「穂樽ちゃん寝てる。かわいいー」
 ベビーカーに富田 穂樽を乗せて散歩をしている富田 さやかを見つけて、宮崎 桃と宮崎 藍が声をかけた。ここは旧熊大赤門前付近。今日も朝から雨が降っていたが、10時ぐらいになって少し晴れ間が見えてきたので、そのタイミングを見計らって富田は散歩をすることにしたのである。家を出る時はニコニコしていた穂樽だったが、今はすやすやと寝顔を見せている。
「二人はどうしたの?こんな時間にこんな所で」
 ふと思った疑問を富田は尋ねてみる。本来ならこの時間は鍛錬を行っている認識なのだが。
「いや、さっきまで鍛錬してたんですけど、ちょっと桃が忘れ物をしちゃって」
「桜ちゃんに漫画貸すって約束してたのー」
 藍と桃が現在ここにいる理由を端的に説明してくれた。それを聞いて富田は一見いい加減にも見える桃が以外としっかりしているのだと感心する。約束をしたからと言ってわざわざ取りに帰るのは中々出来るものではない。
「私、全くのとばっちりだったけど穂樽ちゃんの寝顔見れたから良しとします」
 そう言って藍は再度穂樽の寝顔を見つめ、優しい笑顔を浮かべた。この後、2人と別れた富田はもうしばらく散歩を続けることにした。ちなみに、宮崎姉妹は富田のことをさやかさんと呼ぶが、実は年齢は一緒なので、さん付けする必要はないと富田は思っている。ただ、入隊したのが1期先なのと、宮崎姉妹が入隊した時にはすでに大先輩である富田 剛の彼女だったので、さん付けになってしまったのだろうと考える。考えた末、仕方がないなとも思うのであった。
 
1998年6月30日(火)
【戦士鍛錬場:宮崎 桃・福永 菜月】
「お疲れ様でしたー」
「お疲れー。はあ」
 模擬戦を終了し、宮崎 桃と福永 菜月はお互いに礼を行った。ここは午前中の戦士鍛錬場。本日もたくさんの戦士が鍛錬を行っている。先程から模擬戦を行っていた宮崎と福永であるが、模擬戦を終了し、休憩することにする。一緒にベンチまで向かい、座って休憩しつつ水分を摂ることにした。
「それにしても桃は相手するたびに強くなるわね」
「いやー、やっと菜月さんを少し本気にさせれる様になりましたよ」
 声をかけた福永は宮崎の言葉を聞いて、少しため息をつく。一緒に13期で冒険者になり、これまでたくさんの模擬戦をこなしてきた。実力的にはその当時から宮崎の方が上だったが、宮崎のちょこまかとした手数の多い戦術は福永の相手の動きを読む冷静な戦術とは相性が悪く、直接対決では福永がやや優勢だったのである。とはいえ、全体的な評価では福永よりも宮崎が上だったのは間違いない。
「本気というより、結構限界なのよね。そろそろ考えないといけないかなあ」
「えー、菜月さん。何言ってるんですかー」
 ふと口に出た言葉を聞いて宮崎が即時に突っ込みを入れる。13期で戦士になった時に宮崎は19歳。福永は28歳であった。それから3年が経ち、宮崎は22歳。今からまだまだ成長が見込める年齢である。しかし福永は31歳になっている。見た目は反則的に幼いので、宮崎と並んでいると同級生と間違われるほどであるが、明らかに体力的な成長は望むべくもなく、これ以上強くなると言うのは考え憎いのである。
「まだまだ菜月さん若いですよ。行けます行けます。さあ、鍛錬しましょう」
 そう言って宮崎は福永がの手を引いて模擬戦の場所へと向かう。やれやれという表情を浮かべて一緒に歩いていく福永だが、本心を言えばもう少し休憩がしたいと考えていた。元気いっぱいの宮崎と違い、自分はまだ少し回復ができていないのだ。ただ、戦士を続けるのであれば、自分を鍛え続けないといけない。そう考えた福永は息を整え、宮崎との模擬戦に集中した。

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