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別世界では別職種だった件 マエダ編 第2話

第2話 不死身

「じゃあ今日は本部に報告に行くわよ」

 食事をしながらリョウコはこのように言葉を発した。清々しい朝のひと時、この世界の朝食は和食よりも洋食テイストであり、パンとハムエッグとコーンスープらしき物がテーブルに並べられている。おそらく特に食べる必要はないのであろうが、マエダも一緒に朝食を食すことにする。転生してきてここまででわかっことは、自分はあくまでマサミの使役者であり、リョウコやマサミとは根本的に状況が違うこと。食事やトイレの必要はなく、お腹も空かなければ体調に不快を感じることはない。ただ、味覚はきちんとあるらしく、食べたり飲んだりすると普通に美味しいのは美味しい。また、昨日アルコールも飲んでみたが何となくではあるが、酔いも感じた気がする。考えてみれば結構便利な状況なのかもしれない。この後食事を終えて各々外出の準備をする。そして準備が終わると先程リョウコが言った本部という場所へと歩いて向かうことにする。昨日簡単に聞いた話ではここはある国に属する独立州であり、特殊な業務や任務を請け負っている少し変わった場所である。昨日マサミが行った召喚作業も、実行して良い場所が決まっており、その1つが昨日使用したこの州にある山奥のエリアなのである。また、リョウコは今はここにいるが本来は国の中心部で活動するような役職であり、戦士としての階級はかなり高いとのことだ。今回はマサミの召喚の付き添いで休みを取って一緒に来たという話であった。

「どうしたの前田くん。何か考え込んじゃって」

 難しい顔をしながら歩いているのを見てマサミが声をかける。それに対してマエダは軽く笑顔を浮かべて何でもないことを伝えた。昨日いきなり転生してきて色々なことがあり、考えることはもちろんたくさんあるのであるが、まあ、あまり考えてもどうなるものでもないので、一旦難しく考えるはやめにすることにする。この後は3人でくだらない話をしながら本部という場所を目指した。程なく何か立派な建物が見えてきて、おそらくあれが本部なのであろうと感じる。思った通り、リョウコとマサミがその建物に入っていくので、それに着いて建物の中に入った。建物の中は非常に高級な作りをしており、さすが本部という名称がついているだけのことはある。たくさんの人が行き来しており、組織的にも非常に大きなものだと推測できる。しばらく進んでいくと、リョウコが誰かがいるのを見つけたらしく、手を振っている。するとその男性も笑顔を浮かべて近寄ってきた。その顔は見たことがある。

「あれ?良子さん何してるのこんな所で」

「それはこっちのセリフよ。私は雅美の召喚の付き添いに来たのよ」

 この言葉を聞いて、マサミはその男性に向けてペコリと頭を下げる。そしてその男性はこちらを見て口を開いた。

「あれ?前田じゃんか」

 やはりその男は元の世界でサークルの同回生メンバーであるタマキであった。思わず大きなため息をついて、一応返事をすることにする。

「久しぶりだな玉木」

 何がどう久しぶりなのかも良くわからないが、思わずこの言葉が口からこぼれる。これを聞いて、タマキは嬉しそうに肩をバンバン叩いてきた。どうもこの世界で再会できたのが非常に嬉しいようである。

「あれ?前田の額にマークがない。ってことは前田は召喚者なの?」

 そう言われたので、軽く首を縦に振る。別に隠すことでもないし、額にマークがないということは言わなくてもわかっていることだ。そう考えながらタマキの額を見ると、その額にはIの文字が刻まれている。

「玉木くんはイモータリーなのよ。いわゆる不死身ってやつ」

「不死身なのか」

 額の文字が気になっているのに気づいてリョウコが説明をしてくれ、それを聞いて不死身であることを理解した。不死身の能力というのがこの世界で強いのか弱いのかわからないが、どれぐらいの不死身なのかというのに少し興味が湧く。

「右田さん、ちょっと剣を貸して」

「え?」

 腰の横にぶら下がっている細身の剣を抜き取り、マエダは瞬間的にタマキの体を一刀両断にした。

「な」

 あまりのことに反応が出来なかったタマキは体を真っ二つに切られ、そして消滅していった。

「あれ?不死身じゃないじゃん」

 体が消滅していくのを見ながら思わず言葉を漏らす。ここまでの動きがあまりに一瞬であり、反応が出来なったリョウコとマサミは意識がやっと現実に追いついて来たようだ。

「前田くん。いきなり何するの」

「あーあ、玉木くんかわいそう」

 非難の声が2人から発せられる。確かに今の状況だけ見れば、久しぶりに再会した友人に有無を言わさず攻撃し、消滅させてしまったのだ。弁解の余地はない。だけど、確かに不死身だと言ったはずだ。

「不死身っていうのはただ死なないってだけであって、攻撃を喰らっても無事って訳じゃないんだよ」

「玉木くんは死んだらセーブポイントに飛ばされてそこで復活するんだ。今頃中央の王宮で文句言ってるよ」

 非難をしながらも、顔は意外と笑顔である。もちろんやってはいけないことであるが、今起こった現象は2人にとって面白いことに分類されるらしい。この後は本部の担当者に召喚の結果の報告を行い、無事にマエダは召喚者として登録を受けることができた。これで今後は額にマークはないが、白昼堂々と出回ることが出来るようになったのである。

「じゃあこの後は特に用事もないので、前田くんの日用品の買い物に行って、それが終わったら昨日の店で飲みましょう」

 元気な声でリョウコがこのように話し、2人はこれに同意する。そして買い物と飲み会が終わった後は今日も昨日の宿に戻った。そして各々眠りについたが、また気がついたら両手に抱きつかれた状態になっており、マエダは朝まで眠れない夜を過ごすのであった。

※画像イメージ:佐々木 雅美

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