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別世界では別職種だった件 マエダ編 第5話

第5話 盗賊討伐

「では出発しますけど、準備は良いですか」

 軍団長らしい装備を身につけたリョウコが声をかけてきたので、サムズアップで準備万端である旨の返事を返す。そしてリョウコの後ろについて、王宮の中を抜けて、ある出口から外に出ると、そこは少し高い場所になっており、目の前の低い平地にたくさんの兵士たちが整列して並んでいる。

「何かすげえ」

 その風景を見て思わずマエダは言葉を漏らす。おそらく1連隊規模の人数が並んていると思われ、数にすると1000人程度であろうか、それがリョウコの指揮下にあるということになる。いろいろ考えながらもそのまま進んでいき、兵士たちの目の前まで到着する。自分たちはリョウコの後ろの立っているが、それで良いのかどうかはわからない。ただ、何も言われないところを見ればこれで良いのであろう。

「今回は規模も小さいので第7連隊だけで十分かと。他の団員は回廊に回しております」

「もし何かあった場合は、どうしてもあちらの方が戦果が大きくなりますので」

 目の前でプラチナとブロンドが報告する。目の前の部隊はどうやら第7連隊と呼ばれる部隊のようだ。確かにリョウコは軍団長という階級だったので、とすれば兵士がこの人数であれば少なすぎる。たしか、軍団規模というのは30000人程度だったはずなので、この連隊規模が30部隊以上存在することになる。これは思っていた以上にリョウコは権力を持っているようなので、あまり文句を言ったり逆らったりすることはしないようにしようと心に誓う。すると、リョウコは何か拡声器のようなものを持ち、兵士に語りかけ始めた。

「皆の者、準備ご苦労。これから北西に向かって、スタルゲンツとの国境付近で暴れ回っている盗賊団を討伐する。あまり時間はかけたくないので、いつものように迅速かつ正確な任務遂行を期待する」

 この言葉を聞いて、兵士全員が大歓声をあげ、地を割るようなリョウココールが起こったが、プラチナが右手を挙げるとそれは瞬時におさまり、また平穏な状態に戻った。今の一連の流れを見て、リョウコの人気と、兵士たちの鍛錬度合いがかなりの高いものだと判断できる。盗賊討伐という不明なミッションに対して少し不安を持っていたマエダだったが、その不安がかなり払拭されたのを感じている。この後は、プラチナとブロンドを先頭に、その後ろにリョウコとマサミ、マエダが続き、北西へ向けて移動を開始した。

「そろそろ目的地かな」

 移動を開始して3日目の昼過ぎ、周りの地形を見渡したリョウコがこう言葉を漏らす。そのタイミングで前方から一騎の馬が近づいてきて、その馬は目の前で停止する。そしてその馬に乗っていた男は馬を降りて、敬礼のポーズをとった。どうも偵察隊の1人であるらしい。

「報告せよ」

「はっ!」

 ブロンドの叫びを聞いてその男は負けないぐらいの大声で返事を返す。そして、現在の盗賊団の状況について報告した。この第7連隊が自分たちを討伐にやってきていることを盗賊たちは感知しており、それに対してどうするかを話し合う。血気はやる交戦派もかなりの人数がいたが、最終的には正規軍に対して勝ち目はないという判断を下す。そして盗賊のボスと幹部たちは持てるだけの財宝を持って逃げ出し、それに伴い大多数の盗賊たちも離散する。残ったのは強行派と逃げ損ねたメンバーになっているようだ。

「現在街や村からは完全に撤退し、奥側の山に陣を張っているようです」

「わかった。報告ご苦労」

 報告を終えた男はブロンドの慰労の声を聞いた後リョウコに敬礼し、また1人馬を飛ばして先に進んで行った。この後、リョウコはブロンドとプラチナを近くに呼んで今後のことについて話し合う。出発時よりも状況は好転しており、このまま力押しで攻め切っても良いが、出来ることであれば戦わずに事態を終息したいと考えているようだ。

「わかりました。説得してみましょう」

 こう言ってプラチナは1人の部下を呼び寄せて、耳打ちをする。

「そしてひそひそ」

 最後まで命令を聞いたその部下は、リョウコに敬礼を行った後で馬を飛ばして現地へと向かっていく。この後はまた移動が始まり、もともと被害を訴えていた村へと到着した。村は盗賊に荒らされて酷い状態であり、困っている村人たちが少しずつ広場に集まってくる。これをみてリョウコはとりあえず運んできた物資を分け与える。それと合わせて、兵士たちに村の復興作業を行わせた。先程の交渉の結果がわかるまではとりあえずこれ以上は進めないので、今出来ることを行うことにしたのだ。結局この日、交渉の結果は戻って来ず、この村で夜を明かすことにする。そして翌日の午前中に交渉に向かった部下が、誰か別の人物を引き連れて戻ってきた。部下はまずプラチナに状況を報告し、それを聞いたプラチナはその男をリョウコの前に連れてくる。

「盗賊の交渉屋のようです」

 こう紹介されるとその男はニヤリと笑って、軽く礼の姿勢をとる。

「私の名前はタカヒロです。お見知り置きを」

 不適な笑顔を浮かべたまま挨拶をする。その様子はすごく堂々としており、敵1連隊の中に1人でやってきているとは到底思えない。ただ、その理由は額の文字を見た時に判明する。この男の額の文字は“I”、イモータリーなのである。

「タカヒロとやら、我々は戦闘を望んでいるわけではない。君たちが今後、街や村を襲わないと約束してくれるのであれば命は保障してやる」

 厳しい表情でリョウコが口を開く。これを聞いて、相変わらず笑顔を絶やさずに返事を返す。

「私たちもいろいろありまして、今残っているメンバーは戦いたくてうずうずしている連中です。戦っても勝ち目がないことは理解してますが」

 軽くため息を吐きながらタカヒロは言葉を続ける。

「条件を聞いていただけるのであれば1つ提案があります。もともと今回討伐される原因を作ったのは、現在すでに逃げ出しているボスと幹部たちです。私たちは彼らに捨てられたも同然です」

 悔しい表情を受かべた後で大きく息を吐く。

「彼らを討伐していただけるのであれば、我らは今後大人しく山の中で暮らすことを誓います」

 この提案を聞いてリョウコは思案を巡らす。そしてなぜかマエダに視線を向けているのを感じた。

「いや、俺の出番じゃないでしょう」

 声を出さずに表情だけで自分の真意を伝えたが、それが伝わったかどうかは定かではない。この後リョウコは決意の表情を浮かべて口を開く。

「わかりました。タカヒロの提案を受けましょう。その非道なボスと幹部とやらの情報を教えてください」

 この瞬間に盗賊の残党たちとの戦闘が回避されたことになり、その場の緊張が一瞬解除される。そしてこうなるのを予想していたかのようにタカヒロは荷物からボスと幹部たちの情報が書かれてた書類を取り出す。そしてそれを近くにいた兵士に手渡した。それを見てリョウコは少し笑顔を浮かべる。

「こうなるのを予想していたみたいね」

「いえいえ、いくつかある選択肢の一つですよ」

 交渉としては見事な着地点を迎えたことを賞賛したリョウコの声に、謙遜の言葉を返す。しばらく2人は何も言わずに見つめ合っていたが、リョウコが最後の質問を口にする。

「それでボスたちはどこに逃げたかわかってるの?」

 これを聞いたタカヒロはまた不適な笑顔を浮かべて、大きな声でこう叫んだ。

「梁山泊!」

 この言葉を聞いて、先程一旦緩んだ空気が極度に緊張した空気へと変わったのであった。

※画像イメージ:タマキ

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