愛三工業の財務分析
愛三工業の概要
トヨタ系自動車部品メーカーであり、売り上げの約6割がトヨタグループ向け。
主力製品は燃料ポンプモジュール、スロットルボデー、キャニスタ、エンジンバルブなどの内燃機関向け製品である。
燃料ポンプモジュールは、2022年にデンソーの燃料ポンプ事業を取得したことにより、世界シェアの4割を占めトップシェアとなった。
海外売上高比率は約55%。
愛三工業の10年間の財務数値
図表1-1
単位:(百万円)
図表1-2
単位:(百万円)
図表1-1のROICの推移は、2013年から2020年にかけて減少傾向にあり、コロナウイルスの影響が大きかった2019年、2020年以前から減少傾向が続いていたことがわかります。
また、図表1-2の有形固定資産回転率も2020年まで減少が顕著であり、ROICの低下要因の一つとして「売上高、営業利益に見合わない有形固定資産への投資」が挙げられます。(今回、ROICの分母を運転資本+有形固定資産と定義しています)
自動車業界はこれまで世界的な環境意識の高まりを受け、排ガス規制の強化への対応やPHV、HEV車の多様化を進めてきました。
部品供給メーカーもそれらに対応するため、研究開発や設備投資を拡大せざるを得なくなり、結果的に売上高や利益に見合わない投資が行われ、ROICの低下に繋がったと思われます。
自動車業界のROICとFCF
自動車産業はCASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)を中心に事業環境が大きく変化し、「100年に一度の大変革」と言われている状況であり、さらなる研究開発や投資へのキャッシュが必要になると予測されます。
つまり、FCFの重要性がさらに増してきており、FCFと関連の強いROICも今後の自動車業界にとって、重要な指標となってくるでしょう。
ですので、最初にROICとFCFの関係について考えてみます。
FCFは営業CFから投資CFを差し引いたものですので、ROICの分母である投下資本の増加はFCFにマイナスの影響を与えます。
しかし、ROICが十分に高ければ増加した投下資本(FCFのマイナス要因)
に対して、高い利益を生み出すことができます。
また、営業CFは税引前当期純利益をベースに増減要因を調整したものですので 、高いROICによって生み出された高い利益は、ベースである税引前当期純利益を押し上げ、営業CFにプラスの影響を与えます。
結果として、ROICが十分に高ければ、増加した投下資本によるFCFのマイナス影響を高いROICによる営業CFの増加で補う形となり、FCFの減少を抑制してくれるわけです。
逆にROICが低い場合は、投下されたキャッシュに見合った利益が生まれないため、FCFは悪化していきます。
話を戻して、愛三工業のFCFを見てみましょう。
図表2-1
単位:(百万円)
図表2-2
単位:(百万円)
先ほど愛三工業のROICが減少傾向にあることを確認しました。
低下し続けるROICに対して、投下資本を増加させてきたことで10年間のFCFはマイナスの年が多く、キャッシュの不足分を借り入れによって調達してきた結果、有利子負債が増加傾向にあることがわかります。
この状況を打破すべく、2020年から決算説明資料においてキャッシュフローと関係の深いROICを経営指標として掲げ、FCFを強く意識し始めています。
実際に2021年以降、半導体不足による減産の影響が緩和、減損処理による投下資本の縮小と投資の抑制、製品の品番数と部品数の縮小による効率化などによってROICが回復し始めています。
今後も回復したROICを維持し、将来の成長に必要なキャッシュを生み出せる体制を構築していけるかが、変革期にある自動車業界を生き抜くカギとなるでしょう。
デンソーの燃料ポンプ事業の取得について
2022年にデンソーから内燃機関関連の燃料ポンプ事業を取得し、シェアを4割にまで拡大させています。
自動車業界全体の電動化の流れに逆行するような方針ですが、多くの企業が内燃機関関連の事業を縮小していくと予想される中で既存事業のシェアを拡大し、確固たる事業基盤を作ることで「安定したキャッシュを創出できる企業体質」の早期実現を目指しているためでしょう。
図表3-1
単位:(百万円)
また、図表3-1のデンソーのFCFは5年連続でプラスをキープしています。
このことから、同じトヨタグループの一員であるデンソーは電動化に向けた投資キャッシュを自力で生み出せる体質ができていると推察できます。
であるならば、デンソーの保有していた燃料ポンプ事業を既存事業の強化によって地盤固めを目指す愛三工業に集約し、デンソー自身は電動化のための研究開発と投資に集中することでトヨタグループ全体の競争力を高めたい狙いがあるのかもしれません。
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