日立建機の財務分析
日立建機の概要
図表1-1
単位:百万円
油圧ショベルなどの建設機器や鉱山向けの産業機器を製造している企業。
日本の建設機械業界でのシェアは小松製作所に次ぐ2位、世界シェアはキャタピラー、小松製作所に次いで3位となっています。
海外売上高比率は2023年時点で約82%。
また、新車販売だけでなく、部品販売、レンタル、中古販売、修理などのアフターサビスも行っており、これら新車販売以外の売上収益をバリューチェーン事業(VC)と呼び、今後の柱にしていくと語っています。
図表1-2
単位:百万円
図表1-2はVC(バリューチェーン)売上と新車販売による売上、そして売上高全体に占めるVC売上の割合を示しています。
VC売上が売上高全体の約40%を占めているのがわかります。
※IFRS基準の営業利益を日本基準に調整したものを調整後営業利益としています。
日立建機のアクションと評価指標の選定
⓵VC売上高の比率を約50%まで高めることを目標に(CCC,棚卸回転期間、インタレストカバレッジレシオ)
日立建機は2020年から総売上高に占めるVC売上高(部品販売、メンテナンスサービス、中古車、レンタル、ファイナンス、再生品販売)の比率を50%まで高めるという目標を継続して掲げています。
つまり、新車販売以外の事業に力を入れていくということになります。
新車を生産するよりも部品販売や中古車販売、再生品の販売の方がリードタイムが短いと仮定すれば、棚卸回転期間、CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)が短縮し、必要運転資本を縮小させる効果が期待できます。
さらに、運転資本を圧縮できれば借入金の返済へ資金を回すことができるので、インスレストカバレッジレシオを見ていくのも良いでしょう。
図表2-1
単位:日
過去5年間の棚卸回転期間とCCCは、2020年からほぼ横ばいで推移し、短縮はできていません。
図表1-2を見てもらえばわかりますが、VC売上高比率に大きな変化がないためです。
VC売上自体は順調に増加しているので、新車販売も同じように増加したことで比率に変化がなかったということになります。
ポジティブな要因によるものなので現時点で問題はないでしょう。
図表2-2
単位:倍
図表2-2は5年間のインタレストカバレッジレシオの推移です。
注目したいのは売上高、営業利益ともに大きく増加した2023年のカバレッジレシオの低下です。
これは、売上高の増加に伴う追加の運転資金を借り入れによって調達したことで、支払利息が増加したためです。
CCCが長い状態で売上を拡大させれば、必然的に追加資金は大きなものとなります。
今後、VC売上比率を拡大させ、CCCをコントロールできればカバレッジレシオも安定したものとなるでしょう。
⓶海外及び国内生産拠点の再編(EBITDAマージン)
日立建機は2018年にグローバル競争力強化のために海外、国内の生産拠点を5年かけて行うと発表しました。
そして、2023年現在、計画はほぼ完了しています。
工場の集約や施設の新設による追加の設備投資によって、有形固定資産の額は5年間で1.3倍ほどに増加しました。
設備投資に積極的な時期は、償却費の増加によって営業利益が一時的に低下しやすいため、営業利益に償却費を足し戻したEBITDAやEBITDAマージンを見ていくのが良いでしょう。
図表3-1
図表3-1は、5年間のEBITDAマージンと営業利益率の推移を表しています。
コロナウイルスの影響で2019年から2021年にかけて、営業利益率は約7ポイント低下していますが、EBITDAマージンで見ると4ポイントの低下で抑えられています。
パンデミックの時期と設備投資の時期が重なったことで、営業利益に大きなインパクトを与えたことがわかります。
⓷伊藤忠商事と連携し、米州事業拡大へ(販売費及び一般管理費、販管比率)
これまで、米州での製品の販売はディア社が手掛けていました。
2022年、そのディア社との提携を解消し、独自の販売網の構築に向けて伊藤忠商事との連携を強化しています。
また、日立建機は「ダウンタイム(機械の故障による運転停止時間)をゼロにする」という目標も打ち出しており、迅速な部品の供給や修理サービスの提供を行うために物流網やサービス拠点も拡大していくと考えられ、オペレーションコストが膨らんでいくことが予想されます。
ですので販売費及び一般管理費や販管比率を注視していくのが良いでしょう。
図表4-1
単位:百万円
図表4-1は過去5年間の販売費及び一般管理費、販管比率の推移です。
売上高が大きく減少した、2020年と2021年の販管比率の上昇は当然ですが、売上高が上昇に転じた2022年から2023年にかけても販管比率が上昇しています。
図表4-2
単位:百万円
図表4-2は過去5年間の売上原価と売上原価率の推移です。
販管費率とは対照的に、売上原価率は2022年から2023年にかけて減少しています。
オペレーティングコストの上昇を売上原価の低減によって相殺し、利益を確保しているという構図が浮かび上がってきます。
日立建機は、2025年度までに調整後営業利益率13%を目標にしています。(2023年時点では約10%)
今後さらにオペレーティングコストが上昇していくとすれば、目標を達成するためにはそれを上回る売上原価の抑制が求められるでしょう。
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