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日光金谷ホテル別館のこと

2023年7月15日、改修工事を終えた日光金谷ホテル別館がオープンしました。
昭和10年(1935)に久米権九郎氏設計により曽祖父・真一が手がけたこの建物は、唐破風に白壁、緑色の銅葺き屋根の和洋折衷のコントラストで80年以上親しまれてきました。改修では外観はそのままに、念願のエレベーターなど設備を一新し、スイートルームも設けています。何より驚くのは、銅葺き屋根は最初はこんなにピカピカだったのか!ということです。緑青が出るまでどのくらいの時間がかかるのかよくわからないそうなのですが、これからの変化が楽しみですね。中禅寺湖から日光の街に降りる大谷川沿い道路で、赤い神橋が見えてきたら、ぜひ右側の高台をご覧ください。屋根が光っているのが別館です。

この別館を作るにあたり、真一は1階分地面を掘り下げて3階建を建て、翌年の昭和11年には隣接する本館も1階分掘り下げて3階建に大改修しています。お馴染みの回転ドアのあるロビーフロアはその時に掘り下げられた部分です。どうしてこんなことをしたのか、その経緯が昭和9年の真一の日めくりを見てわかりました。

自然保護を目的として、昭和6年(1931)に国立公園法が施行されました。別館の新築計画が記録に出てくるのはその3年後の昭和9年6月ごろです。しかし、2階建の本館の隣に3階建の別館を新築することに、国立公園法の監督官庁である内務省衛生局保健課が難色を示し、8月には2階建にするか、掘り下げて1階分を地下室にするようにとの意見がつきました。3階建は諦めなさい、という意味だったのかもしれない一方、掘り下げれば3階建でも許可が出るという感触も得て、真一は早速作業に着手。9月には、掘り下げと「建築外壁屋根塗料の色彩は風致と調和する物を用いること」という条件で、無事許可がおりました。この頃のお役所は意外と仕事が早い!さらに、環境と調和すべし、という方針が当時すでにあったのですね。日光が国立公園に指定されたのは、この年の12月ですので、監督官庁としては特に注意を払っていたのかもしれません。

工事中には「外部ヨリ注意シキタル岡焼(おかやき:嫉妬、やきもち、の意味だそうです)連中モ沢山アリ 町役場ヲシテ物云ハシム ゴ苦労千萬 仕立テヲ御覧アレヨ」と常になく怒って書いていますので、賛否のある工事だったのでしょう。若い頃から熟慮の人、という印象の真一が、2メートル近く掘り下げる大工事を、役所の許可を得る前に始めたのも意外です。

そして昭和11年から左の本館、右の別館はこの姿に

そうしたある種熱い経緯を経て誕生した別館は、皇室、各国王室をはじめとする沢山のお客様をお迎えしてきました。7月14日のテレビ東京「ガイアの夜明け」で、同日就航の東武鉄道の新型特急「スペーシアX」と共にこの別館の改修についても紹介されましたので、どうぞご覧ください。

注目度の上がる日光。外国人たちに愛されてきたこの避暑地の魅力が、さらに沢山の方に伝わりますように。

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