NO36 台風
9月23日 月曜日 秋分の日
台風の接近にともないセントレア空港も欠航や遅延など
航空機の運航にも多大な影響
今日のニュースはどこの番組も台風で持ちきりだ。
あかねは昨日(日曜日)今日(祭日)と言う事もあってお店を閉めていた。
こんな日でも修平は仕事に行っている。台風時は、鉄道関係も運休になり、
タクシーはそれなりに忙しいようだ。
そんな時、一本の電話が入った。大曽根の加藤さんからだ。
「はい、あかねです。加藤さん、ごめんなさい、
今日は台風でお店を休んでいます」
「ママ、ごめんよ、今日はお客じゃ無いんだ、
実は、今、建設現場の視察で知多の阿久比町に来ているんだけれど、
午前中は電車が動いていたから、大丈夫だと高を括っていたら、
午後になって交通手段が全部止まってしまった。
タクシーもいないし、もう、1時間も立ち往生しているんだ、
雨はどしゃぶりだし参っている。
もし、できたら、茜専属タクシーに助けてもらえないかと思って・・
電話をしたんだ」
「そう、それは大変、ちょっと待ってね、一度切るわね」
と言って、あかねは修平に電話するがつながらない、春樹に電話をする、
やっぱりつながらない、玲香に電話をすると、すぐに出た。
「ママ、お店休みじゃ無いの?」
「れいちゃん、今、どこにいる」
「今は、有松かな」
「有松ってどこ、そんな事はいいわ、ねぇ、大曽根の加藤さんが
知多の阿久比って所で立ち往生しているんだけれど、れいちゃん行けないかな」
「阿久比なら、ここから高速に乗っていけば30分もかからないと思うけれど」
「わかった、一回切るね」
「加藤さん、れいちゃんがつかまった。
今、有松にいるから高速に乗れば30分で着くって、
だから19時頃だけど、どうします」
「れいちゃんなの、ほんとうに・・・女神だ・・
じゃ、阿久比町役場のマクドナルドで待っているって伝えてくれるかな、
あ、それと、もう、
そこからメーターを入れて来てくれって言ってくれるかな、
ママ、ありがとう、恩に着るよ。ほんとうに助かる、
じゃ、待っているから」
「れいちゃん、阿久比役場って分かる、そこのマクドナルドで待っているって、それから、もう、メーターを入れていいって、じゃ、頼んだわよ」
さすがに台風だ、忙しい、といっても、今、この、人の移動時間に頑張らないと、あと2時間もすれば、街はシーンとなって眠りにつくのだ。
玲香も加藤さんなら気心も知れているので良かったと思った。
お父さん 徘徊Ⅱ 九月二十六日 木曜日
「おい、開けろ、何やってるんだ、早く、開けろ」
お父さんが玄関先でわめいている。インターホンをならしても応答が無い。
鍵を入れようとしても鍵が入らない。ドアをドンドンと叩く。
誰も出てこない。電気は煌々とついている。
お父さんは家に入れなくて困っていたのだ。
そこに、パトカーがサイレンを鳴らしてやってきた。
お巡りさんが三人、お父さんを囲む。
「おおおう、ちょうど、よかった、家に入れなくて困っていたんだ」
お巡りさんが尋ねた。
「貴方の名前は言えますか」
「わしか、わしはわしだ、んん、そんな事よりも、
あかねがわしを家に入れてくれなくて困っているんだ」
お巡りさんたちは、お父さんが認知症だとすぐに分かったので、
とりあえず春日井警察署まで連れて行った。
警察署でお父さんのカバンの中を調べると、
名札付きのキーホルダーが中に入っていた。
そこに記してある電話番号に連絡をする。
あかねはお客さんのお酒を作っているとスマホが鳴った。
「はい、スナック茜です」
「私は春日井警察署の小田と言いますが、中西太一郎さん、ご存じですか」
あかねは、中がうるさいので、店から出て話を聞いた。
「はい、父ですが・・・」
「実は勝川の田中さん宅で玄関を開けろと騒いでいたようでして、
太一郎さんから話を聞いてみると、どうも、家を間違っているようなのですが、認知症ですか」
「はい、前にも一度、徘徊で、ご迷惑をおかけしていますが、
どうも申し訳ありません、今からすぐに、主人が春日井警察署へ向かいますので、どうか、よろしくお願いします」
あかねは電話を切ると、すぐに修平に電話をした。
「おう、どうした」
「修平さんさぁ、お父さんが外へ出て行ったの知っている?」
「えぇ、お父さん、家にいるだろ」
修平は慌てて、お父さんの部屋に入るとテレビはついているが、
お父さんの姿は無い
「いつのまに、出て行ったんだ、私が風呂に入っている時かな」
「お父さんが、よその家へ行って、ドアを開けろって騒いでいたらしいの、
それで今、春日井警察署で捕まっているから、迎えに行って」
「悪かったな、すぐに行ってくるわ、そうか、あかねの電話を書いていたか・・」
修平はすぐに春日井警察署へお父さんを迎えに行った。
「どうも、すみません、ご迷惑をおかけしました。
いつもは、しっかり見ているのですが、
今日はどうやら、私が入浴している間に出て行ったようでして、
気がつきませんでした。どうも、申し訳ありません」
「そうでしたか、認知症のお父さんでは大変でしょうが、
玄関に、センサーを付けるとか、GPSを使うとか、
もう少し、工夫してみて下さい。」
「どちらのお宅に迷惑をおかけしたのでしょうか、
明日にでも、一言お詫びをしたいのですが・・・」
「そうですね、では、一度、向こうに連絡先を教えて良いかどうか
確認を取ってから、また、ご連絡いたします」
お父さんが、待合室で小さくなって腰掛けていた。
「お父さん、帰るよ」
「あぁ、しょうへい、家を取られて、困っていたんだ」
「大丈夫、家は取り返したから、帰ろう」
お巡りさんは、話を聞いてて、苦笑いをしている。
修平が、しょうへいになってしまった。
「お父さん、どうして、外に出たの」
「パンと牛乳とプリンを買いに行ったのだがローソンを探したが分からなかった」
「そうか、大変だったね、じゃ、ほかのローソンで、
パンと牛乳とプリンを買って帰ろうか」
といって、ローソンによって買い物をして家に帰った。
実は家にはパンも牛乳もあるのだが、
お父さんの納得がいくように買い物をして帰ったのだ。
深夜0時半、あかねは急いで玲香のタクシーで帰って来た。
「お父さん、間違って、よその家に入ろうとしていたの」
「修平さん、おじさんが出て行ったの全然、気がつかなかったの」
帰って来るなり、二人は修平に質問攻めだ。
あかねがお父さんの部屋をのぞく。
「あんな事していて、まぁ、よく眠っているわ」
「私が風呂に入っている間に、出て行ったようだ。
なんでも、ローソンで牛乳とパンを買いに行ったらしいが、
そのローソンが分からなかったようだ」
「パンも牛乳も冷蔵庫にたくさん入っているのに・・」
「ママ、腹が減った。この菓子パン食べていいの」
「れいちゃん、メロンパンはお父さんが食べるみたいだ」
「この小倉とマーガリンのパンはいいの」
玲香は牛乳をコップに注ぐと菓子パンを食べ出した。
「で、また、迷子になったんだ」
「この辺り、同じような家が多いから、暗いと分からないかもね、
それで、その、田中って家にドアを開けろって叫んでいたんだ」
「うん、田中って家に明日、謝りに行ってくるよ、
お父さんは家を取られたって警察に話していたらしんだ。
だから、私は お父さんにもう、家は取り返したから、大丈夫だよって云っておいた」
「まぁ、取られただなんて、よく、そんな嘘が思いつくもんだわ」
「いや、本人は本気で、そう思っているんだと思うよ、
自分の名前も分からなかったみたいだし、
でも、私がお父さんを引き取りに行ったら
修平がしょうへいに変わっていたけどね」
「しょうへいさんになったんだ」
玲香はしょうへいの方が呼びやすいと思った。
「そう、今日はね、そう、呼んでくれたけれど、
明日になったら、なんて呼んでくれるんだろうね」
「でも、おまえは誰だって言われるより、よっぽどよかったじゃない」
「本当だよ、おまえは誰だ、なんて言われたら、さすがに引いちゃうぞ」
「修平さん、そろそろ、しおどきじゃな~い」
「そうだな、老人ホームも聞いてみるか、
明日、玄関にセンサーを付けてドアが開くと音が鳴る器具を買ってくるわ」
「じゃ、わたし、帰るね」
「れいちゃん、封の開いていない牛乳と、そうそう、この麻婆春雨、
昼に修平さんが作ってくれたんだけど、とてもおいしかったから、
春樹と食べて、レンジでチンして食べて!」
玲香は、ごちそうを頂くと、いそいそと帰って行った。
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