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【ポケモン雑談】主人公は「あなた」だけではない―「きみと雨上がりを」を巡る所感―

あっぱれな秋晴れの雑談☀

先日「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」(以下「SV」)は発売一周年を迎えた。ポケモン史上初のオープンワールド作品ということで注目され、DLC配信などもあり未だに盛り上がっているコンテンツだ。

そして、SV一周年記念企画ということでオリジナル短編小説「きみと雨上がりを」(以下「きみ雨」)が公開された。著者は「響け! ユーフォニアム」などで有名な武田綾乃氏。監修にゲームフリークと株ポケがついている。以下のリンクで全文掲載されているので未読の方は是非読んでみてほしい。

さらには音楽グループのYOASOBIがこの「きみ雨」を下敷きにした楽曲である「Biri-Biri」を公開した。「きみ雨」はかように大規模かつ多層的なメディアミックスを展開している。

それぞれのコンテンツについて感想を語ってもいいのだけれど、今日はもう少し大枠の話をしてみよう。それはSVの「主人公」は誰なのか?という話。


「きみ雨」はパルデア地方のチャンピオンランクのトレーナー:ネモを視点人物にした三人称小説となっている。ネモはSVの三つに分岐するシナリオの一つ「チャンピオンロード」を象徴するキャラクターで、主人公の先輩兼ライバルとしての役割を担っている。

そして「きみ雨」の世界における「主人公」は「アンナ」という名の少女。ガラルからパルデアに引っ越してきたばかり(※1)の新人トレーナーでありながら、光るバトルセンスを持っている。

「きみ雨」はネモにとってはじめて対等に向き合えるアンナが「ライバル」になるまでの過程を描いた物語だ。それはSVをプレイした多くのユーザーにとっても通ってきた物語…だが、アンナは「あなた」だろうか?

※1 直接描写されていないがアーマーガアタクシーについてアンナが言及する場面がある。

「前まではパルデアのそらとぶタクシーに乗るの、ちょっと不安だったの。前に住んでたところだとアーマーガアっていうポケモンがみんなを運んでくれたんだけど、パルデアの場合はイキリンコの力で空を飛ぶでしょ? あの子たち、身体が小さいから大丈夫かなって」


これまでのポケモンコンテンツにおける「主人公」の位置づけは曖昧に誤魔化されてきた歴史がある。例えばデフォルトネームを設定したり、主人公達に「無口」属性を付与したり…。

ポケマスEX「タイプバディーズの集い」より

アニポケのようにそのような制約とは関係なく制作されているコンテンツもある。ただし、それとは引き換えに原作ゲーム時空とアニポケ時空は別物として扱うという別の縛りが生まれていた(近年はポケマスなどでそれらの壁も取り払われつつある)。

「SV」の主人公にもこれまでのシリーズと同様に「アオイ/ハルト」というデフォルトネームキャラが設定されており、「POKÉMON TRAINERS」などのシリーズでグッズ展開がされている。

しかし、「きみ雨」のアンナはこれらのどれとも異なる位置づけのキャラクターだ。原作時空に存在しながらも「あなた」に投影されない「主人公」。アンナは「あなた」ではないし「あなた」はアンナではない。当然宝探しの結果得られた宝もアンナと「あなた」では異なるだろう。

付け加えるとアンナは「あなた」の最大公約数的なキャラではない。強いて言えばアンナも「あなた」の一人ではある。ネモにとってかけがえのない一人のライバル。でもネモのライバルになれるのは「あなた」だけではない…そういう想像力が試されるコンテンツだ。


今、ポケモンに新たな風が吹こうとしている。シンパシーを覚えながら確実に自分ではない誰かの物語を楽しむ時代。

現在放送されているHZシリーズのように完全に「あなた」とは別物の物語と並行して、これらの新しいムーブメントを楽しんでいきたい。実りある「語り合い」を目指して…To Be Continued

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