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会社の支店長にカミングアウトした 

金曜日の仕事終わり 

はち切れんばかりの拍動を胸で感じながら 

タバコを吸い終わる上司を待っていた 

「退職願」と書かれた白い封筒を握りしめて。



上司が、タバコを吸い終え、
玄関先で待つ私の元に向かってきた。  

「支店長」  

何も言わずにそっと、退職願を差し出した。


支店長はそれ程驚いた様子もなく 

「そおかぁ。全然予測していなかったぞ」 

そう呟いた。    

「まあ今夜、飯いくか」 

その日私は、支店長と居酒屋に向かった。     



居酒屋で、私は全てを話した。

「自分が転職をしようとしていること。   
 ゲイであること。
 男の社会に疲れていること。
 自分のことを女性的だと思っているため、今度は女性の多い職場で働きたいこと。 
 いつも、ゲイを言い訳にして生きていること。 
 そして、被害者意識が抜けないこと。  
 転職先の仕事は、前からやりたいと思っていた仕事であること。
 前向きな転職であること。   
 今の世の中に対して思うこと。」 


支店長は話を概ね理解してくれたようだ。 


「ああつまり、お前は心が乙女ということなんだな」 

まあ、そう言われると若干癪だが、
とりあえず肯定しておいた。   


続けて支店長はこう言った。


「人生は修行や。 
 どこに行っても苦しいもんだ。 
 今の人生で修行をちゃんと積んだやつが、 
 天に昇った時に極楽に行ける。 

 人間の時にちゃんと修行を積まなかった奴は、 
 もう一度下界に戻って人間をやり直すことになる。 
 って、俺宗教みたいな奴やないかいっ!」 

支店長は営業トーク、判断力共に尊敬できる上司だ。    
まるで初めからそれが出来ていたかのような、 
人生イージーモードで生きてきたかのような、 
そんな感じ。 

それでも彼は彼なりに、 
自分と社会に折り合いをつけて、 
この社会に適合させてきたそう。

正直、彼には天賦の才もあると思う。 

結局、支店長はご飯の間、優しい言葉をかけてくれて、楽しい話をしてくれて、 
最後は退職を了承してくれた。   

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

また、彼のいう「普通の人」の定義は、 
「法律の範囲の中で動いている人達全員」 
だそう。  

私は、
「だったら海外にいけば「普通」の定義は変わるということですか?」 

そう聞くと  
「そうだ」 
と答えた。 

結局、何事も 
集団や組織のルール、決まりに順応していきながら自分の強みを活かすということなのだろうか。

「お前がいなくなるのは名残惜しい。だが残りの期間も給料を支払っている以上は、ちゃんと働いてもらうぞ。」  

忘れてはいけない。彼は、営業のプロだ。 
「名残惜しい」 
これはただの営業トークかもしれないが、、、 笑

ひとまずこれにて、退職願とカミングアウトは終了だ。







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